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22.なんで!?
しおりを挟むすげない態度しか取れない俺を見て、魔王様の隣のテアフィザンも、口元を隠して笑ってる。
「どうやらその方はご機嫌斜めなようですね……魔王様の眷属に対して、何と無礼な。せっかくです。その方も、今ここで罰しましょうか?」
「罰するだと?」
魔王様が眉をひそめて聞き返すと、テアフィザンは楽しそうに笑う。
「ええ。役に立たない者に、そこで存分に踊ってもらい、私たちを楽しませることをその身に教え込むのです。ルヴィ様にも、きっと気に入っていただける余興となることでしょう」
ニヤリと笑って、テアフィザンが周りに控えている人たちを見渡す。誰もが震え上がり、その目から逃げるように顔を背けていた。
すると、テアフィザンは、すぐそばで磔にされたまま、もがいている人に振り向いた。
その人は、ずっと鎖に繋がれたまま、イくのを抑えていたようで、体は汗で濡れ、涙を流している。
「ちゃんと……言ったとおり耐えているか?」
「ぁ……あ、も、もちろん……です……」
「そうかな?」
ニヤリと笑ったテアフィザンが、その人の敏感なものを握る。すでに膨れ上がったそれを扱かれ、その人は悲鳴をあげた。
「あっ……あああっ!! い、いやっ! やめてくださいっ……! 許してっ……!! ど、どうかお慈悲をっ……あっ……ああああーーーーっっ!!」
泣き叫んだ男の股間が濡れていく。溢れ出た精液がテアフィザンの手を汚す。その手を、そばにいた召使いに拭かせて、テアフィザンは舌舐めずりした。
「イったな……」
「ち! ちがっ……申し訳ございません!! ど、どうかっ……次はちゃんと我慢しますからっ……!」
「そんなこと、誰が信じられる? あれだけ言ったのに、だらしなく漏らして、私の手を汚したのだ。覚悟はできているのだろうな?」
「い、いやっ……ち、違う! 違うんですっ……! テアフィザンさまっ……!」
真っ青になって叫ぶ男に嬲るような視線が注がれる。少しの間、泣き叫ぶ声が広間に響き、それをニヤニヤ笑って眺めていたテアフィザンは、そばにあった呼び鈴を鳴らした。
すると、どこからともなく現れた男たちが、泣いている男を舞台まで引きずって行き、突き飛ばす。舞台に倒れ、そこにあった鎖に繋がれ、怯えている男に、テアフィザンは冷たく言った。
「立て。今から貴様に罰を与える」
突き飛ばされた男は、泣きながら立ち上がる。すると、彼目掛けて、テアフィザンが何かを飛ばした。魔法で作った、ごく小さな細い刃のようなものだ。それが、震えている男の右腕を打つ。
「ああっ!!」
涙を流して叫ぶ男目掛けて、容赦なく次々魔法が放たれる。テアフィザンだけではなく、他のパーティーの参加者までもが、楽しげに男に向かって魔法を放ち、彼はすぐに傷だらけになった。中には、彼が傷だらけになっていくさまを笑いながら見ている奴もいる。
魔王様は、それから目を離さないまま、テアフィザンに言った。
「テアフィザン……なんだこれは?」
「役立たずの処分です。あれはもう必要ありませんから。動かなくなったら焼き払います。どうかルヴィ様もお楽しみください」
「……」
「残酷だとお思いですか? ご心配なさらずとも、あの者は、例の砂浜の魔力浸食に関わった罪人でございます……すぐに処刑台に上がるはずだったものを、こうしてチャンスを与えていたに過ぎません。ですが、あれは私たちを楽しませることすらできず、粗相をした。殺すしかないでしょう?」
まるで悪気のない顔で微笑んで、テアフィザンが舞台の上の男を打つ。それが周囲の奴らを煽っているようで、他の参加者までもが、口々に男を責め立てながら彼を痛めつけていた。
堪らず、俺は隣の魔王様の耳に近付いて、小声で言った。
「ま、魔王様!! あ、あれ……あんなことさせといて、いいんですか!?」
「よくはない。だが、ここを管轄してるのはテアフィザンだ」
「そんなっ……! テアフィザンって人は魔王様に仕えているんじゃないんですか!? あなたが幻術を解いて魔王様だってことがわかれば、テアフィザンもやめるんじゃないんですか!?」
「無駄だ」
「なんでですか!?」
「テアフィザンに、私の幻術は効かない」
「え……じ、じゃあ、テアフィザンは……分かってて知らないふりしてるんですか!?」
「そうでなければ、テアフィザンではないか……言わされているのかもしれない」
「そんな……」
魔王様、それでいつもと違って、ずっとそんな苦い顔しているのか?
テアフィザンと魔王様は昔からの親友って言ってた。そんな人がこんな風にしていたら、魔王様も辛いし、心配だろう。
だけど、広間には舞台に上げられた人の悲鳴と、それを嘲笑する声が響いている。こんなの、聞いていられない。
「ま、魔王様はっ……こんなの、黙って見てるんですか!?」
「……お前はあの男を助けろと、そう言うのか?」
「だって……っ!」
「それはどれほどの覚悟で言っている?」
「か、覚悟?」
「今から、舞台に割って入る。そうすれば、すぐに捕らえられて地下牢行きだ」
「そんな……た、戦えないんですか!?」
「言っただろう。ここは異常だ。テアフィザンに何があったか知るまでは、滅多なことはできない。仮に、テアフィザンとその従者たちが拘束されているのなら、それらを人質にとられるかもしれない。最悪、街が交渉の道具とされるかもしれない。何も分からないうちに動けば、町全体が危険に晒されるかもしれないんだ」
「じ、じゃあ……我慢して見てろって言うんですか!? そんなのっ……」
「手がないわけじゃない。今から、舞台に躍り出て、あの瀕死の男を救う。そして、地下牢へ連れて行かれる。そこには、名だたる犯罪者がいるだろう。おそらく、砂浜の魔力浸食に関わった連中も、そこに囚われているはずだ。そこで情報を集める」
「地下牢に……? あ、危なくないですか?」
「ああ。危ない。だから聞いている。覚悟はあるのかと。今からあそこに飛び込んで、死の危険を冒しても、お前は今の目的を達成したいのか?」
「……」
振り向いた魔王様は、怖くなるくらい、真剣な目をしていた。
ほんの少しの迷いは必要だった。
だって、あんな中に飛び込んで行くなんて、やっぱり怖い。地下牢だって。もう二度と、捕まるのは嫌だ。
だけど……
「はい……いきます!!」
いつのまにか、俺の口は勝手に返事をしていた。
「だって…………だって、こんなところでそんな顔をして黙って我慢なんて、魔王様らしくないですっっ!!!!」
つい、カッとなって怒鳴ってしまった。周りの視線が一斉に俺に集まる。けれど、今度は気にならなかった。
魔王様は、一瞬キョトンとしたようだったけど、すぐにいつもの顔で笑った。
「よく言った……ますます気に入ったぞ!」
いきなり、引き寄せられた。考える間すら与えてもらえずに、気づいたら、キスされていた。一瞬だったけど、確かに唇と唇が触れた。
なんでキス!?? 俺、初めてだったのに!!
びっくりして、何も言えない。無意識に、唇に手が触れる。
茫然としている俺を見上げた魔王様が、またあの意地悪な顔で笑った。
それを見たら急に腹が立った。
ひどいだろこんなの!! この前はしないでいてくれたのに!!
力の入らない拳を振り上げるけど、軽く魔王様の胸に当たった程度。怒ってるはずなのに、力が入らない!! 顔だけ真っ赤で、これじゃ照れてるみたいじゃないか!!
「ひ、ひどいっ……魔王様! しないって、言ったくせに!」
「したくなった。させろ」
「よ、よくないっ……やめろーーっ!」
自分で言ったこと、全部忘れたのか、魔王様はなおも俺の頬を捕まえようと手をのばす。
ますます腹が立った俺は、その手を振り払って叫んだ。
「調子乗んな! しないって言ったくせに!! 嘘つき魔王!!」
ついでに、さっきキスされた唇も、目の前で思いっきり拭いてやる。
怒鳴りつけた俺の声がまた広間に響いて、誰もが手を止めて、ざわざわし始める。
まずい……カッとなりすぎた!? ついでにさっき魔王様って言っちゃった!??
周囲を見渡して冷や汗が流れる。ついでに魔王様に低い声音で呼ばれて震え上がる。
振り向いた先にいた魔王様は、青筋を立てて俺を睨んでいた。
「貴様……私に手を上げて、嘘つきなどと罵った挙句、キスを拭き取ったな?」
「だ、だ、だだ、だって……し、し、しないって言ったくせに……!」
「そんなことは言っていない」
「お、俺がせがむようになるってっ!! そうなるまでしないんじゃなかったのかよ!!!」
怒ってるはずなのに、涙が出てくる。なんだこれ。もうケツまで犯されてるくせに、キスなんて大してこだわりなかったくせに、顔は真っ赤で涙が出てくる。
酷くドキドキしてた。目の前、クラクラしているくらい。ぴったり胸のラインが見える白いドレスを着ているせいで、全部、魔王様に気づかれてしまいそう。
なおも力の入らない手を振り上げるけど、魔王様に簡単に止められて、今度は抱き上げられてしまう。
「ま、魔王様!?」
こんなドレス着せられて、お姫様抱っこされて、顔を近づけられて。
もう、苦しい。頭までドキドキが届くくらい、心臓が高鳴っている。
なのに魔王様は相変わらず、むかつくくらい平然としてて、黙れって、冷たく言った。
「私の方が、お前にキスをせがみたくなったんだ」
「ふぇっ……!???」
「文句があるのか?」
「な、ない……です……」
じっと、金色の目で見つめられて、つい、答えてしまった。
何言ってんだ……俺! あるって言わなきゃだめなのに!!
正気に戻った俺は、魔王様を押し返すけど、当然、もう遅い。
「は、離してくださいっ……! うわ!!」
俺を抱き上げたまま、魔王様はふわっと飛び上がる。俺の話は聞いていないらしい。
まるで羽が生えたみたいに飛んだ魔王様は、さっきの人が痛めつけられていた舞台に降り立ち、男と床を繋いでいた鎖を踏みつけた。すると鎖はあっさりちぎれる。
「やめろっ!! こんなことは理不尽だ!」
叫ぶ魔王様の後ろで、俺は倒れていた人を助け起こした。すでにその人は気を失っている。
周りからはすぐに激しいブーイングが起こり、舞台を台無しにした俺たちに、非難の声が飛びかかってくる。
「魔王様の地を荒らした者に、情けをかけるのですか!!」
「腰抜けめ!! 貴様など、魔王様の眷属であるものか!!」
「魔王様の名を語る不届きものめ!」
「処刑だ! 処刑しろっ!!!」
「反逆者に罰をっ!!」
一斉に罵声を浴びせられ、怖くなる。
だけど、ここへくるって言ったのは俺だ!
魔王様の傍に立って、目を逸らさないでいると、俺を背後に隠しながら、魔王様が、少し笑った。
汚れた舞台に、テアフィザンの勝ち誇った声が響く。
「その者たちを捕らえろ! 厳正なる正義の場を汚し、魔王様の名に泥を塗った極悪人だ!」
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