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21.俺は何をしているんだ
しおりを挟むその後も、指名された人たちは次々ソファに上がり、テアフィザンに嬲られている。
その場にいた人で驚いているのは俺だけで、他のソファに座った人も、みんな似たようなことをしていた。
なんでみんな当たり前みたいにしてるんだ? こういうものなのか?
魔王様を見上げると、すごくつまらなさそうに頬杖をついている。
怒っている……俺が何もしないから?
ど、どうしよう……
迷っていたら、テアフィザンが首を傾げて言った。
「ルヴィ殿……あなたはよろしいのですか?」
「……そんなことより、この辺りの砂浜で、魔力の浸食がおさまらないことをどう思っている?」
「やれやれ……こんな時に魔力浸食の話ですか? 無粋なことを……」
テアフィザンが馬鹿にしたように笑う。だけど、魔王様の方はすごく真剣な顔。
魔王様がこんな顔してるの、初めて見たかもしれない。
魔力の浸食って、俺が初めて魔王様に会ったときに、そんな話をしていた。魔王様は、それがあったから、この街へ来たんだ。
だけど、詳しく聞いたことはなかった。あの時は、魔王様のこと、詳しく知りたいなんて思わなかったから。
「あの……魔力浸食って、なんですか?」
こっそり、魔王様に小声で聞くと、魔王様は、テアフィザンから目を離さないまま、答えてくれた。
「大地に溜まった魔力が、そこにある物を魔物化して広がることだ。放っておけば、無尽蔵に魔物が増える」
「……そ、それって……結構大ごとなんじゃ……」
呟いたのが聞こえたらしく、テアフィザンは、俺たちに余裕の笑みを見せて言った。
「ルヴィ殿、魔力浸食なら、次第に収まりつつあります。私に任せていただければ、すぐに解決いたします」
「……そうは思えないぞ。何度魔力を抑えても、すぐに湧いてくると聞いたが?」
「ですが、実際に今は起こっておりません」
「しばらくすれば、また出てくるかもしれない」
「問題ありません。私が抑えます。そんなことより、今は、重大な悪事が横行しているのです」
「悪事だと?」
「ええ。魔王様の名を語るものが、この辺りで横暴を働いているのです。そんなものがいては、せっかく収まった魔力浸食も、すぐにまた起こりかねません。厳しく罰しなくては。そうは思いませんか? ルヴィ殿」
テアフィザンが魔王様に微笑む。
周りの人たちもみんな、こっちをちらちら見ては、何か話している。さっきは、魔王城から使者がいらした、なんて言って喜んでいた人たちもだ。
もしかして、偽物説が広まってる!? なんで……
テアフィザンはニコニコ笑いながら言った。
「ルヴィ殿は、魔王城からいらっしゃったのでしょう? こういった場の楽しみ方はご存知かと思いましたが……お気に召しませんでしたか?」
「……」
「先代の魔王様の眷属の方々は、こういった席では、何人もの性奴隷を快楽に溺れさせ、皆に分け与えたものです。犯され、精液に塗れたものを嬲り尽しては、参加者たちを沸かせたと言うのに……情けないことだ」
「……」
何も答えない魔王様に、周囲からの視線が集まる。
テアフィザンは魔王様の方を見てずっとニヤニヤ笑っているし、もしかして、疑いをかけるために言ってるのか?
みんな魔王様を見ているし、このままじゃまずい。それに、こんなやつに魔王様を笑われるなんて嫌だ!
俺はギュッと拳を握って、魔王様に振り向いた。
「ま……じゃなくて、る、ルヴィ様!」
「……どうした?」
「お、お酒を……お酒をお注ぎします!」
「お前が?」
「はい! 俺にも酒は注げます! ま、魔王城でも……い、いつもやってたじゃないですか!!」
ドキドキしながら嘘ついて、ソファのわきにあったテーブルから、酒の瓶を取る。
魔王様が、やめておけって止めてくれたけど、このくらいできる!
酒瓶の蓋を開けて、グラスに酒を注ぐ。
魔王様が心配そうに手を伸ばしてくるけど、止められる前に、俺は一気にそれを口に含んだ。
口移しくらい、キスと変わらない。やったことなくたって、俺にだってできる!!
だけど急に、口の中が熱い。焼けるみたい。これ、アルコール度数高すぎる!!
「げほっ……」
気付いたら、全部吐き出していた。酒は弱い方じゃないけど、これは無理だ。
なんとか全部吐いたけど、まだ少し、頭がクラクラしている。なんだか気持ち悪い。
ずっと口元を押さえていたら、自分の着ているドレスが汚れていることに気付いた。
ソファまで、俺が吐いたもので汚れてる。
「あ……」
どうしよう……ドレスもソファも、酒でドロドロ。口元を押さえた拍子に、グラスまで落としてしまっている。
ヒソヒソと、俺を嘲笑うような声が聞こえた。
「何をしているんだ……」
「みっともない……」
「あれがお気に入り?」
「人族じゃないか……」
「なんて醜い……」
「あれが……伴侶?」
「冗談だろう」
「あの男……やはり……」
どうしよう……俺のせいで魔王様までますます疑われてる!!
「ち、ちがっ……違うっ……ま、いや、る、ルヴィ様はっ……!」
周りを見渡し叫ぶ俺。
必死に弁解しようとした俺の手は、背後からギュッと握られた。振り向いたら、俺を止めたのは魔王様で、そのまま引き寄せられた。
「ルヴィ様!? な、なにっ?? わわわ!」
「跨がれ」
「へ? 待ってください! 俺っ……汚れて……!」
逃げようとするけど、魔王様の力には敵わない。強く引き寄せられて、魔王様の両足にまたがる形になった。
顔から胸元と腹の辺りまで酒で汚れた姿を見られて、涙が出てきた。こんなところ、見られたくないのに。
きっと魔王様だって呆れただろう。俺はいつだって、何もうまくできなくて、劣等感を感じることばかりだった。
「……見るな…………見ないで……ください……」
「そんな顔をするな。ますますそそられるだろう」
「……は?」
何言ってるんだ? 俺、だいぶ汚れているんだが。
それなのに、魔王様の指は俺の涙を拭って、そればかりか唇に触れてしまう。
「ま……ルヴィ……さまっ……!?」
「ああ、唇も顔も、白いドレスまでドロドロじゃないか」
「ご、ごめんなさいっ……」
「なぜ謝る? こんなにも、そそられる姿をしているのに」
「は!? やっ……」
唇から顎、首から胸元まで、魔王様の冷たくて大きな手が降りてくる。
俺の体は汚れているのに、じっくり確かめるように手が肌を撫でて、まるで痙攣するみたいに体が震えた。
ちょっと撫でられてるだけなのに、なんでこんな風になってるんだ。
「ぁっ…………やだっ……!!」
「いやらしい……白いドレスをこんなに汚して」
「ご、ごめんなさいっ……!」
「そんなことを言って、誘うためにわざとしたのだろう?」
「は!? ち、違う!!」
「どうかな?」
ニヤリと笑った魔王様は、俺がまたがっている足を微かに上げる。ほんの少しだったのに、それが俺の敏感なところに当たって、ビクビク背中が反り返る。
「や、やめてくださいっ……っ……!!」
「やめろだと? こんなに気持ちよさそうなのにか?」
「ち、違うっ……! そんなんじゃないっ……! ぁっ……あっ!」
「もっと感じろ」
「いやっ……!」
やだって言ってるのに、魔王様は足を動かして、俺の敏感なものを刺激する。
早く下りればいいのに、そうされていることが気持ちいいとすら感じる。
離れなきゃいけないのに、降りられない。
喘ぐ俺を見上げていた魔王様が、来いって言って、俺を呼ぶ。
恐る恐る近づくと、ケープに手をかけられた。
また、脱がされる。乱暴にケープを剥がされるんだ。
だけどその時、衣装係さんに言われた言葉を思い出した。
ケープをとったら、魔王様に嫌われちゃいますよ……
それを思い出したら、俺はとっさにケープを掴んでしまった。
「イウ?」
「……」
何してるんだろう。俺……
こんなの取られたってなんてことない。
魔王様にだって触れられたくない、そう自分で言ったくせに。
魔王様になんか、どう思われようが、どうでもいいはずなのに。
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