上 下
18 / 60

18.こんなの聞いてない!

しおりを挟む

 テトラさんも驚いたようだったけど、すぐに平静を取り戻して言った。

「そ、そうですか……いや、びっくりしました……それで、今回は、なぜこんなところへ? ここは先日、倉庫内で風爆弾が暴発したばかりで、まだ危険です。いくつかの風爆弾が盗まれた形跡もあり、今は調査中なのです。あまり近づかれては困ります」
「調査中? そうは見えないぞ。どちらかというと、壊れたまま放置されているようだ」
「そのようなことはございません。お疑いでしたら、どうぞ、テアフィザン様の城までいらしてください」
「……」
「どうされました? テアフィザン様と魔王様とは、昔からの親友と聞いております。当然あなたも、テアフィザン様のことはご存知でしょう? それとも……」
「それとも、なんだ?」
「いえ……最近では、魔王様の名を語り、各地で横暴を働くものがいるとか。そのような輩は、その場で厳しく処罰するように命じられているのです」
「処罰? その場で? 貴様がか? そんなこと、誰が命じた?」
「もちろん、テアフィザン様でございます」
「おかしな話だな。そんな話は聞いたことがない」
「それはそうでございましょう。この辺りはずっと、魔王様の信任厚いテアフィザン様に一任されてきましたから。いちいちそのようなことで、魔王様の手を煩わせることもないと、そうお考えなのです」

 なのですって……まるで代弁でもしてるみたい。さっき、部隊の隊長は任されたばかりって言ってたのに。
 しかも、めちゃくちゃ怪しまれている。魔王様の顔を見て、魔王様って、なんで分からないんだ?

 不思議に思ったけど、魔王様はニヤリと笑った。

「そうだな……呼ばれて出向くのは気に入らないが、埃に塗れたこの場所には嫌気がさしていた。せいぜい死ぬ気でもてなせ。私を満足させることができたら、貴様の無礼も水に流してやろう」
「それはそれは……冷酷無慈悲と名高い魔王様の眷属でありながら、なんとお優しい……慈悲をいただき、光栄でございます。どうぞこちらへ」

 テトラさんが魔王様に背を向け歩き出す。

 歓迎なんて絶対されてないし、めちゃくちゃ疑われているのに、城なんか行って、大丈夫なのか?

 不安になるばかりの俺を引き寄せて、魔王様は楽しげに笑った。

「行くぞ」
「ま、待ってください! な、なんであの人、魔王様が魔王様って分からないんですか? 顔を見れば……」
「私がこのまま街を歩けば騒ぎになる。だから、この街に入った時からそれが分からないように幻術をかけている。周りの奴らが私を見ても、全く違う姿に見えているはずだ」
「それって……俺にも?」
「いいや。お前には、お前にかけられた魔法のせいで、幻術が効いていないようだ」
「そうなんですか? よかった……」
「……なぜ、よかったと思うんだ?」
「だって、魔王様の顔を知らないの、寂しいから……」
「…………行くぞ」
「え!? は、はい!!」

 返事をした俺を、魔王様は自分のマントで隠して歩き出す。だけど、このままだと、魔王様にずっとくっついて歩かなきゃいけない。さっきから俺、真っ赤なんだけど……

「あ、あの……魔王様! 俺、外に出るならもう怖くないし、ちゃんとついていきます。離してくれて大丈夫です……」
「……」

 あ、あれ? 聞こえなかったのか? 魔王様、俺を隠したまま、どんどん進んで行ってしまう。

「ま、魔王様!!」
「黙れ。離れるようなら死刑だ」
「は!?」

 めちゃくちゃ言い出した……魔王様、振り向いてもくれないし、もしかして、また怒らせたのか?

 訳が分からなくて、俺は魔王様に隠されたまま、魔王様についていった。







 テトラさんの案内で、俺と魔王様は街が見下ろせる高台に立った、美しい城に案内された。少し行けば砂浜に出られるそこには、美しい花々が咲き誇り、尾の長い、極彩色の鳥が花から花へ飛び移っていた。

 そこで、早速俺だけ別室に通された。あれだけ離れるなって言ってたくせに、魔王様もあっさりそれを承諾しやがった。俺は不安でたまらないのに!

 一応、魔王様が使い魔のチワワみたいな犬を作ってくれたけど、初めてきた場所で魔王様と離されてしまい、不安すぎる。

 そして、テアフィザンの衣装係だという男に連れられて、服がずらーっと並んだ衣装部屋に連れてこられた。ここで着替えをしないと、夜の宴に出ることは許されないらしい。

 そんなことを言われた時点で、もう行きたくない。
 そもそも俺はパーティーみたいなものが苦手。人が集まるところも、騒ぐのも苦手。

 だからあまり出たくないって言ったんだけど、魔王様に、こないなら吊るして拷問だって言われて、行かないわけにはいかなくなった。

「あの、俺……そういうのはちょっと……」
「ルヴィ様からこの上なく美しい格好をさせるようにと命じられております」

 ニコニコ笑いながら、俺に赤いドレスを差し出しているのは、テアフィザン様付きの衣装係だという、妖精の男。透き通るような羽を持ち、髪は光が当たるとキラキラ光る水色、俺の肩くらいまでの背の、少年のような男の人だ。

 なんでわざわざ、テアフィザンの衣装係の人が、ふらっと城に来たばかりの、しかも絶対偽物だと疑われている魔王様の部下の連れである俺の服を選ぶんだ。
 そして、なんでさっきから勧めてくる服がヒラヒラのドレスばっかりなんだ。全部、フリルとかリボンとか付いているくせに、上半身の胸のあたりなんか、ほとんど隠れないものばかり。
 ガーターベルトをつけさせたられたあたりで、やっぱり着替えたくないと言いたくなった。しかも、服を選ぶ間、ガーターベルトだけつけた状態で放置されて、もう帰りたい。
 俺に女装の趣味はないし、そういったものを着てみたいと思ったこともない。俺だって、できれば着たいものを着ていたい。
 何より、ガーターベルトに露出したドレス着て魔王様の前に出て、勘違いされたらどうする。ただでさえ一日に何回も、夜は覚えてろとか、泣かせてやるとか、酷いことを言われてるのに。

「あ、あの……できれば、ドレスじゃないものがいいんです……」
「そうですか。でしたらこちらはどうでしょう」

 今度出てきたのは、めちゃくちゃ短いミニスカート。なぜそうなる。

「あの……できれば、もう少し……なんていうか、露出の少ない服を着たいんです……」
「ダメです」
「なんでですか!?」
「できるだけいやらしく、ルヴィ様がお楽しみになれる格好、という注文をいただいております」
「あいつ……」

 俺には選択の自由すらないのかーー!!

 こうなったら着てやる! 完璧に着こなしてあいつを魅了してやる!! せいぜい後悔しろ!! 魔王様め!

「だったら俺に一番似合って一番エロい服、選んでください!!」

 やけになった俺は、衣装係の手を借りて、魔王様の注文どおりの格好に着替えてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

転生したら乙女ゲームの攻略対象者!?攻略されるのが嫌なので女装をしたら、ヒロインそっちのけで口説かれてるんですけど…

リンゴリラ
BL
病弱だった男子高校生。 乙女ゲームあと一歩でクリアというところで寿命が尽きた。 (あぁ、死ぬんだ、自分。……せめて…ハッピーエンドを迎えたかった…) 次に目を開けたとき、そこにあるのは自分のではない体があり… 前世やっていた乙女ゲームの攻略対象者、『ジュン・テイジャー』に転生していた… そうして…攻略対象者=女の子口説く側という、前世入院ばかりしていた自分があの甘い言葉を吐けるわけもなく。 それならば、ただのモブになるために!!この顔面を隠すために女装をしちゃいましょう。 じゃあ、ヒロインは王子や暗殺者やらまぁ他の攻略対象者にお任せしちゃいましょう。 ん…?いや待って!!ヒロインは自分じゃないからね!? ※ただいま修正につき、全てを非公開にしてから1話ずつ投稿をしております

[R18]難攻不落!エロトラップダンジョン!

空き缶太郎
BL
(※R18) 代々ダンジョン作りを得意とする魔族の家系に生まれた主人公。 ダンジョン作りの才能にも恵まれ、当代一のダンジョンメーカーへと成長する……はずだった。 これは普通のダンジョンに飽きた魔族の青年が、唯一無二の渾身作として作った『エロトラップダンジョン』の物語である。 短編連作、頭を空っぽにして読めるBL(?)です。 2021/06/05 表紙絵をはちのす様に描いていただきました!

淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂

朝井染両
BL
お久しぶりです! ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。 こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。 合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。 ご飯食べます。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

公開凌辱される話まとめ

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 ・性奴隷を飼う街 元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。 ・玩具でアナルを焦らされる話 猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。

処理中です...