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5.悪い人じゃない?
しおりを挟む俺は、ここに連れてこられた経緯と、これまでにあったことを全部話した。ひどい目にあってきた怒りも一緒に。
けれど、全部を聞き終えても、魔王様の態度は全く変わらない。
「私は性奴隷など、注文した覚えはない」
「は!?」
「大方、先代が作った制度を隠れ蓑に、まだ力のための狩りを続けている連中がいるんだろう」
「狩り?」
「ここでは、魔法や数多の種族の術により、大体のものは作り出すことができる。家や城、橋、道路。食事や飲み物。生活の手助けをする使い魔、光、闇、それに、武器もだ。しかし、何を作るにも、大体ベースに命が必要になる。そのために、植物を使うことが多い。あの店で売っていた魔力の実もそうだ。あれはもともと、魔力を持つことはなかったが、幾つもの種族が研究の末に作り出し、今では世界中に広まっている。しかし、命を手に入れるために別の手段を取る連中がいる」
「別……?」
「誘拐だ。そこらを歩いている奴を捕まえて利用するんだ。最近では召喚の術を使う者までいるらしい。お前はそれに利用されたんだろう」
「そんな……俺、か、帰れるんですか!?」
「お前を元の世界に返すには、魔力を使うしかない……私の魔力が完全に戻れば、返すことができるかもしれない」
「本当ですか!? お、お願いします!」
「戻ればと言っただろう。本来ならとっくに戻っているはずだったが、貴様のせいで全て台無しになった」
「すみません……」
じゃあ俺、自分で帰るチャンスを潰したのか? アホすぎる……
「そんな顔をするな。帰ることには手を貸してやる」
「ほ、本当に!?」
「ああ。本来なら、果物は潰すわ爆弾は落とすわ剣は奪うわ消滅させるわ、散々やってくれた貴様など、腹からねじ切ってやるところだが、私の名を語る者は許せない。それの捕縛と魔力の復活に手を貸せば、お前を家に帰してやる」
「ほ、本当ですか!? 約束してください!」
「面倒な奴だ。分かった。約束してやる」
「ありがとう……ございます……」
よかった……手を貸してもらえるんだ。よかった……
安心したら気が抜けたみたいだ。俺は立っていられなくなって、そのまま近くにあったベッドに座り込んでしまった。
「おい…………泣くな」
そんなこと言ったって、勝手に涙が出てくるんだ。こっちへ来てから、捕まるし吊るされるし、ご飯も食べられなかった。その上いらないからなんて言われて、置き去りにされて、殺されるところだったんだ。やっと逃げられたのに、魔王の剣なんか取っちゃって、またこうして捕まって。
なんでこんな目にばっかりあわなきゃいけないんだ。
「ごめん……なさい、ちょっと、安心して……す、すぐ泣き止むから……」
だけど、思い出したのは怖かったことばかりで、涙は止まりそうにない。そばにあったタオルで顔を拭くけど、どんどんそれが濡れていくだけ。
抑えていたものがもう無理になって、ずっとメソメソ泣いていたら、魔王様はため息をついて、部屋の隅にあった果物カゴを手に取った。すると果物がふわっと浮いで、一瞬ですりつぶされ、グラスの中に入っていった。
あっという間にフルーツのジュースの完成だ。
そしてそれを、俺の前に突き出す。
「飲め」
「へ?」
何をされてるのかわからなかった。だけど魔王様がもう一度それを突き出してきて、つい受け取ってしまう。口をつけると、甘くて冷たくて、なんだかホッとする味だ。
「お、美味しい……です……」
「そうか」
初めて、魔王様が少し笑う。
なんだろう……急に優しい?? さっきまで、すっごく怖かったのに……
俺はこの人のものをあれこれ壊して、迷惑かけてるのに、家に帰してくれるって言ってくれたし、そんなに……悪い人じゃないのかな?
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