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2.魔王様って、どういう人なんだろう
しおりを挟むなんとか逃げ出した俺は、気づいたら、自分がどこにいるのか分からなくなっていた。
ここはどこだ。
港の倉庫から逃げて、めちゃくちゃに走って街に入って、今いるのは市場みたいなところ。
広場のようなところに、幾つも屋台が並び、たくさんの人が野菜や肉、魚、パンや食事を売っている。
逃げた時は朝だったのに、すでに太陽は頭上で暑すぎるくらいに輝いていて、市場は買い物客で賑わっていた。
俺と同じような人の姿をした人たちもいれば、羽があったり、獣の耳や尻尾があったり、体自体が獣の体をしている人もいた。
誰もが忙しそうに、楽しそうに買い物をしているところを見ると、そこそこ平和なんだろう。
だけど、今はそんなことよりもお腹が空いた。倉庫にいたときの食事は一日に一回、ほんの少しのパンだけだった。俺を買う予定だった奴が、食事はあまり与えるなと言ったらしい。ふざけんな! おかげで食事ももらえず、俺はずっとあんな狭いところに監禁されたんだ!!
怒りで握りしめた拳が震える。
そしたら、グーってお腹が鳴る。
……とにかく、何か食べたい。
ボーッと歩いていたら、果物を売っている屋台が見つかった。
美味しそう……
フラフラしながら近づく。そこでは威勢のいい男が、りんごみたいな果物を売っていた。
「……一つ、ください……」
空腹でぼんやりしたまま声をかけると、屋台の男はすぐに振り向いてくれる。
「あいよ!! 十だよ!!」
「じゅう?」
なんのことだろうと思った。けど、多分、お金のことだ。確かに、りんごの箱には十って書かれた札が下がっている。
「……すみません……俺、お金……持っていないんです……」
呟くと、一気にその人の表情が変わってしまう。
「悪いけど、金がないなら渡せないよ。お客さんの邪魔だから、あっち行って!!」
しっしっと追い払うように手を振られて、俺を押し除けて前に出た人がお金を払ってしまう。
お腹すいた……
肩を落として歩く。
俺、野垂れ死ぬしかないのかな。
頭がクラクラしてきて、路地裏に座り込む。少し離れた大通りはあんなに煌びやかなのに、俺は一体何をしてるんだろう。
こんなところに連れてこられて、ひどい目にばっかりあって。それもこれも、全部、俺を買うなんて言った魔王様のせいだ。
今更いらないってなんだよ!! あんまりだ。
俺は顔を上げた。
こうなったら、会いに行ってやる。そして、文句言ってやる。もしかしたら、慰謝料がわりに何かもらえるかもしれない。職とか。それに、魔王様ってくらいだから、俺を元の世界に戻せるかも!!
そうと決まったら情報収集だ!!
俺は立ち上がって、気合いを入れた。
まずは魔王がどこにいるのか知らなきゃ!!
もう一度大通りに出る。そしたら、通りの端にあった移動販売の店で、新聞を売っているのを見つけた。
新聞って、魔王の居場所、書いてあるのかな……?
それは、軽食を売る屋台を中心にして、周りに並べた木箱で雑貨も売っているような店で、下着や手袋、何に使うのかわからない札なんかが並ぶ端に、竹のかごに入った新聞が売られていた。それを手に取って広げてみる。
するとそこには、魔王様が東の港の魔力侵食というものの様子を見るため、そこに来ているという記事があった。
「あのー! すみません!」
店員さんを呼ぶと、大きな竜の尻尾がある男の人が出てきてくれる。
「いらっしゃい。二十だよ」
「あ……その、す、すみません。俺は客じゃないんです」
「……冷やかしか?」
「違います! そんなつもりじゃありません!! ただ、ま、魔王様……って、どこにいるのか、知りませんか?」
「魔王様? この前、少し離れた砂漠で戦闘があったって聞いたけどな……なんでも……噂では、この町に入ったらしい」
「こ、この町に!? こ、ここにいるんですか!?」
「多分ね。探したら会えるかもしれないよ?」
なんだこれ! 運命か!! もしかしたら本当に、すっごく優しい運命の人だったりするのかも!!
それなら会ってみたい。俺はそいつのせいでここに呼ばれたんだ。どんな人なのか知りたいし、魔王ってどういうものなのか、見てみたい!
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