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終章

28.ありがとう

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 それから、パティシニルのことは、ヴィルイに任せて、クレッジたちはぐちゃぐちゃになった屋敷の片付けと、まだ残っている罠の回収を始めた。回収には警備隊も協力してくれて、ヴィルイが今回のことは自分が魔法に失敗しただけだと言い張ったため、警備隊は困った顔をしながら帰って行った。

 それから後も、パティシニルとヴィルイがまた言い合いになったが、まるで痴話喧嘩に巻き込まれた気分だった。

 そんな騒ぎの数日後、クレッジは、魔法薬をいくつか入れたカゴを下げて、ヴィルイの屋敷に向かっていた。罠の魔法の使いすぎで、パティシニルがしばらく寝込むことになったからだ。これがあれば、魔力の回復も早まるだろう。

 罠の魔法で溢れていた屋敷は、イウリュースがなんとかしたが、しばらくパティシニルは動けない。彼のことは休ませた方がいいと、クレッジはヴィルイたちの屋敷の警備を買って出たが、イウリュースが、そんなことはさせないといいだし、結局、二人でしばらく住み込むことになった。

 今日はその一日目。警備のためとはいえ、イウリュースと同じ屋敷で生活するなんて、緊張する。

 ヴィルイの屋敷のドアをノックすると、すぐにそれが開いて、イウリュースが飛び出してきた。

「クレッジ!」

 可愛らしいエプロンをつけた彼から、甘い砂糖菓子の匂いがする。例の事件以降、使用人がますますやめてしまい、イウリュースがたまに料理をしていると聞いていたが、本当だとは思わなかった。

「クレッジ。入ってー。今ご飯できたところだよ」
「は、はい……」

 彼に連れられて屋敷に入ると、屋敷の奥から、同じようなエプロンをつけたパティシニルも出てきた。

「クレッジ……きてくれたの?」
「はい……あ……」

 クレッジは持ってきた魔法薬を彼に渡した。

「あの……これ、どうぞ……」
「え!? 僕に……ありがとう……」
「体はもう大丈夫なんですか?」
「……うん…………ごめん。この前は……迷惑かけて……」

 彼は、クレッジとイウリュースに向かって頭を下げる。
 そんなことをされると思っていなかったクレッジは驚いた。

「い、いいんです……もう……あ、でも、もうしないでください。結構怖かったから……あの腕があれば、魔物とも戦えると思います」
「うん……戦い方は、イウリュースに教えてもらう予定。素材も、取りに行かなきゃならないし……」
「もう行くんですか?」
「うん。商人たちに渡していた人気の魔法薬は、ここの素材がないと作れないんだ。だけど最近、兄さんが、素材を送るのをやめちゃったから、向こうも困っているみたいで……催促が来てる」

 すると、イウリュースが軽い口調で言った。

「そんなの、無視すればいいのにー」
「……兄さんと同じことを言わないで……」
「だいたいそんなの、欲しかったら自分たちで行けばいいだろ?」
「……あの森の奥まで行って、素材を回収できる人も、あんまりいないんだ。魔物が多くて危ないし……兄さんは、魔法の研究をしていたから、素材の回収に必要な知識にも長けているんだ。それに、あなたたちみたいに、腕のいい冒険者もなかなか集まらないから……」
「だったらー、俺らはパティシニルにしか手を貸さないから。そう言っといて」
「え!?」
「他に人が増えても困る。俺のクレッジにまた手を出されたら、今度こそ我慢できないから」
「…………」

 パティシニルは俯いて消えそうな声で「ありがとう」と言っていた。
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