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五章

25.危ない!

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 誰かが言い合う声が聞こえた気がした。

 クレッジは、一人ヴィルイとパティシニルを探して屋敷の中を歩いていた。

 あの部屋に置いてきたイウリュースのことを考えると、不安になる。彼の安全を考えて部屋に結界も張ったが、完全に安全とは言えない。

 急いだ方がいい。探すべきは、ヴィルイよりもパティシニル。
 彼につけた使い魔のおかげで、彼の居場所ならすぐ分かる。しばらく行くと、廊下を歩くパティシニルの背中を見つけることができた。

「パティシニル様!!」

 呼ばれて、パティシニルは驚いてこちらに振り向く。

「クレッジ……」
「……パティシニル様……ヴィルイ様は、あなたのことを追い出そうなんて思っていません。どうか、落ち着いてください」
「うるさい……ヴィルイ様に選ばれたお前に何がわかる……」
「俺は……選ばれたわけでは……」

 言いかけたクレッジの足元が、まるで波のように揺れた。そこから矢のようなものが飛び出し、クレッジに向かってくる。

 ここではいつもの大剣も振るえない。あまり得意ではないが、短剣に魔力を纏わせ、飛んできた矢を切り払った。しかし、矢は次々に床から飛び出して来る。

 罠の全てが、正確にクレッジを狙っている。魔物と戦えないと言うが、とてもそうは思えない。この罠の魔法をうまく使えば、魔物くらい、簡単に倒せてしまうだろう。

 クレッジは、短剣を握り、飛び来る矢を切り落としながら叫んだ。

「パティシニル様っ! どうか落ち着いてくださいっ……! ヴィルイ様は……あなたを追い出す気なんて……多分ないと思います」
「うるさい。ボーッとしたお前に何が分かるの?」
「……俺はボーッとしてるわけじゃ……」
「ヴィルイが僕を嫌っているの、お前も知ってるだろ。ずっと護衛してたんだから」
「…………それは……」
「僕を連れて行くって言ってくれた時は……感謝したのに……僕、馬鹿みたいだ」
「……なんのことですか……パティシニル様!」

 クレッジに見つかって焦っているのか、彼の魔法は乱雑になり、飛び交うものは的にしているはずのクレッジから大きく外れ、壁や天井まで破壊している。それに驚いたのか、パティシニルの攻撃が止んだ。

「パティシニル様……あなたも、ここを破壊したいんじゃないですよね? ヴィルイ様が、俺たちを雇いたがったのは……あなたのためだと思います……」
「……は? お前に何がわかるの?」
「……俺ずっと護衛してたし……多分、ああ見えてあなたのことは気遣ってます……多分……」
「多分? そんな不確かなこと言うの、やめてくれる? ヴィルイは、四六時中わがままばかりだし、朝早くから僕を叩き起こすし、朝からあいつの気まぐれで素材探しに付き合わされるし、夜はわざわざ僕の部屋まで来て、深夜まで部屋から出て行かずにずっと魔法に関する書物読んでるし! なんでわざわざ僕の部屋に来るんだよ! 珍しく来ない日があると思えば警備だって言って屋敷の周りをあいつと歩かされるし! こんなの、嫌がらせして追い出そうとしているようにしか思えないだろ!!」
「はい」
「ほらみろ!!」
「あ、いえ……そうとしか思えないけど、多分それ、構ってほしいんじゃないかと……」
「構う? うざすぎて死にそうなんだけど!?」
「……はい」

 ついまた同意してしまう。確かにその通りだと思った。

「ほらみろ!! 分かったら、もう口出ししないで!」

 パティシニルはそう言って、クレッジに背を向け逃げて行く。

 彼の気持ちはわかるが、このままでは、屋敷が潰れる。それはパティシニルとしても、本意でないはず。

(仕方ない……ちょっと乱暴だけど……)

 彼につけた使い魔を操り、膨らませる。彼の襟元についた、小さな虫ほどの大きさの竜は、膨らんで、パティシニルを抑えようとするが、竜は、パティシニルが飛ばした矢に貫かれて消えてしまった。

「ここは……僕の縄張りだって言っただろ?」

 パティシニルがそう言うと、クレッジの背後から何かが飛んでくる。

 しかし、振り向いた時には、既に遅かった。次々飛んでくる矢は、全てクレッジを狙って飛んでくる。壁に仕掛けられていたらしい。

 この距離では、避けることはできない。多少の怪我は覚悟しながら、せめて短剣で身を守る。

 けれど矢は、廊下の奥から飛んできた光に包まれ全て焼き尽くされた。当然、クレッジは無傷だ。この魔法は知っている。イウリュースの魔法だ。

「クレッジ!! 大丈夫!?」

 光が飛んできた方から、イウリュースが駆け寄ってくる。一緒にヴィルイもいて、ヴィルイは、パティシニルを名前を怒鳴るように呼んでいた。
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