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四章
22.もう手を出さないのなら
しおりを挟む本当に気分が悪くなりそうだったイウリュースは、ヴィルイから離れた。もちろん、魔法で相手の首をいつでも切り裂けるように狙うことも忘れない。
魔法使いであるヴィルイも、それがわかっているらしく、イウリュースをずっと睨んでいた。
「き、貴様……勝手に私の部屋に入っておきながら……」
「入りたくて入ったんじゃない!! パティシニルの馬鹿が、俺のクレッジを狙ってるんだ!! あいつを探しに行く! お前は何があったのか話しながらついてこい!」
本当はこんな男を連れて歩きたくはないが、状況の把握は必要。そして何より、逃げられては困る。
パティシニルを探すため、部屋を出ようとしたが、ヴィルイは何を思ったか、イウリュースの手を握って、部屋から出すまいと引き止めてくる。
「ま、待て!! イウリュース! 貴様、パティシニルに何をする気だ!?」
「何を? それは俺の方が聞きたい。あいつ、どういうつもりだ? 突然俺とクレッジに襲いかかってきたんだぞ」
「パティシニルが!? それでどうした!? ま、まさか貴様、すでにパティシニルを手にかけたのではないだろうな!?」
「そうしておけばよかった……そしたら、こんな面倒なことにならずにすんだんだ」
話しながら、屋敷の壁に触れる。すでに、パティシニルの張った結界は弱まっている。軽く指先に力を込めて集中すると、小さくヒビが入るような音がして、結界は砕け散った。目には、微かな光が閃いたようにしか見えなかったが、今なら、屋敷中に使い魔を飛ばすこともできそうだ。
魔法で使い魔を作り出すが、それをヴィルイが飛びついて止めてきた。
「何すんだ……」
いい加減、鬱陶しくなってきた。もう殺そうかと思ったが、ヴィルイはイウリュースを見上げて、必死の形相で怒鳴った。
「い、今貴様、警備隊を呼ぼうとしただろう!」
「は? パティシニル探そうとしただけだよ。大体、警備隊呼んだらなんだって言うんだよ? お前にしてみれば、好都合なんじゃないのか?」
「勝手なことを言うな!! こちらの事情も知らないで!! 警備隊を呼ぶことも、パティシニルを探すことも許さん!! 貴様はパティシニルを探すな!!」
「あいつは俺たちを殺そうとしている。放っておけば、クレッジを襲うんだ。いい加減にしないと、あいつもお前も、首吹っ飛ばすぞ」
「やめろっっ!! パティシニルには、手を出すな!! 出さないと言うなら、私も二度とクレッジには近づかない!! それでいいだろう! だ、だから頼むっ……!」
「……は?」
何を言っているのかと思った。やけにヴィルイは必死だ。いつもあれだけ偉そうだったヴィルイに、急に頭を下げられて、イウリュースは首を傾げた。
(なんなんだよ……一体……)
クレッジに手を出さないように言い含めることが、今回の目的だった。それが達成できることはありがたいことだ。
しかし、突然こんなにも素直にヴィルイが言うことを聞くと、気味が悪い上に本当なのかと疑いたくなる。
それに、パティシニルのことも、クレッジを殺そうとしている限り、放ってはおけない。
しかし、これだけヴィルイが必死になるのには、何か理由があるのだろう。
イウリュースは、ヴィルイに背を向けた。
「パティシニルを探す」
「待て!! イウリュース!」
「クレッジが危険な目に遭うかもしれないんだ。放っておけない。ヴィルイ、お前は勝手についてこい。その間、何があったのか話してろ」
「お、おいっ……! 待て!! イウリュース!!」
「うるさいな……パティシニルが、二度とクレッジに手を出さないなら、俺も何もしない。クレッジを傷つけようとしたことは許せないから殴るくらいするかもしれないけど……少なくとも、殺したりはしない」
「殺すだと!? 貴様、パティシニルに手を出してみろ! 許さんぞ!!」
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