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一章
6.嫌われたくない
しおりを挟むクレッジたちは、ギルドに戻ってきた。ヴィルイはそれまでずっと文句を言っていたが、彼を守り切ることができて、また頼むと言って帰って行った。
依頼の成功を聞いて、受付のフィルンも嬉しそうに笑っていた。
「ありがとうございましたーー!! クレッジさん!! 本当に、お疲れ様でした!!」
「……ありがとうございます……」
「クレッジさんが引き受けてくれて、助かりました!! ヴィルイ様、わがままなのにいつも依頼してくるから……大変だったでしょう?」
「いえ……どうでもいいです」
そんなことは、今のクレッジにはどうでもよかった。なにしろ、これから大切な用事があるのだ。
クレッジのただならぬ様子を見て、フィルンは首を傾げている。
「クレッジさーん? どうしたんですかー?」
しかしクレッジは、彼に返事すらできなかった。
イウリュースに振り向くと、彼は相変わらずで、ギルドで会った面々に挨拶をしている。
クレッジは、意を決して歩き出した。
ゆっくり、イウリュースに近づく。彼は楽しそうに他の冒険者たちと話していた。勇者とも言われた彼は、ギルドでも注目の的だ。それは知っていたが、どうしても、独占欲は生まれる。
(他のやつといる時も……楽しそうなんだよな……イウリュースさんは…………)
おそらく、魔法使い仲間だろう。何か話し込んでいるようだが、そのうちの一人が、イウリュースの肩を組んだ。そして、まるでキスをするかのように、唇を近づけている。
それを見た後は、無意識だった。
いつのまにかイウリュースに駆け寄り、彼の手首を握っていた。そのまま、自分の方に引き寄せてしまう。
珍しく強く手を引かれたイウリュースは、驚いているようだった。
目が合うと、彼はポカンとしている。その顔が、少し憎くすら思えた。
「行きましょう……イウリュースさん……」
「え!? クレッジ?」
戸惑う彼を連れて、クレッジはギルドを出た。それからも、その腕を掴んだ時の勢いのまま、彼をつれていってしまう。
大通りに出て、少し行ったところで、イウリュースがクレッジを呼んだ。
「く、クレッジ?」
「あっ……」
我に返ったクレッジは、握った彼の手首に気づいて、慌てて離す。
まるで腕を握りしめるかのような勢いで、引き摺り出してしまった。
そんな風に強く握って、驚かせてしまったかもしれない。こういうことをしないように、普段から気をつけているはずなのに。
「すみません……」
目を、あわせられなかった。
すぐに、弁明の言葉を探す。
無理矢理連れてきて、不快な思いをさせたかもしれない。ギルドにいた人たちと、おそらくまだ話の途中だったはずだ。それなのに、無理に連れ出して、困らせた。
弁解しなくてはならない。謝罪して、できるなら少しでいいから言い訳を聞いてほしい。
(嫌われたくない……)
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