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一章

5.約束を取り付けよう!

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 クレッジは、剣を構えた。自らの体を魔力で強化して、剣に魔力を纏わせ切り掛かる。
 石の魔物を一刀両断にすることに成功したが、魔物は切られた程度では止まらずに、二つに分裂して、クレッジに向かって腕を伸ばしてきた。

(嘘だろっ……!!)

 まさか、伸びるとは思っていなかった。石に魔力が宿った魔物は、通常、伸びたりしない。魔力を多く含んだものは、思いがけない攻撃を仕掛けてくると聞いたことはあったが、こんな攻撃に出るとは思っていなかった。

 伸びてくる石の腕を切り払う。それ切り落とすことはできたが、その時には、クレッジの背後に、もう片方の腕が回り込んでいた。

 背後に回られているとは思わず、反応が遅れる。

 剣で自らの体を守ろうとしたが、背後のイウリュースが魔法を放とうとしているのに気づいて、クレッジは、自らを捨てて結界を張った。

 クレッジに夢中で、結界の中に閉じ込められ、逃げ場を無くした魔物は、イウリュースの魔法で凍りつき、光る砂の粒になって消えていく。

 イウリュースは、血相を変えて、クレッジの方に走ってきた。

「クレッジ!」
「……イウリュースさん……」
「怪我はない!? 大丈夫!?」
「……大丈夫です。すみません……ありがとうございます……」
「そんなこといいの」

(よくない……イウリュースさんの手を借りるつもりじゃなかったのに……もっと早く魔物に気づけるようにならないと、ダメだな……)

 そんなことを考えながら、ヴィルイにかけよる。依頼人の無事を確認しなくては。

 ヴィルイはパティシニルと共に既に歩き出している。しっかり「あの程度の魔物に何を戸惑っている!」と文句を言うことも忘れない。依頼人が無事でホッとした。元気に歩いているところを見ると、特に回復の必要もなさそうだ。

 クレッジは、イウリュースに振り向いた。すると、頬にひやっとしたものが当たる。氷のように冷たく冷えた、魔法薬の瓶だった。

「冷たっ……!!」
「だろー? あげるー」
「え? 俺はいいです。特に怪我してないし……イウリュースさん、使ってください」
「俺はもう飲んだ。魔力回復の効果があるから、クレッジも飲んでおくといいよ」
「…………ありがとうございます……」

 受け取って、瓶を開ける。しかし、その間も、瓶を握る手がめちゃくちゃ冷たい。

「なんでこんなに冷やしてるんですか……?」
「冷たい方が美味しいだろ?」
「……」

 もらったものを飲むと、あまりに冷たくて頭が痛くなりそうだ。

(ここまで冷たくしなくても……)

 魔法薬は、冷やしても温めても効果は変わらない。ちなみに冬は出来立てのコーンポタージュ並みに熱い魔法薬をもらった。少し舌を火傷したから覚えている。

(何か……お礼をしたい…………そもそも、俺、告白しようとしてたんだ……)

 そんなことを考えているクレッジの隣を、イウリュースが歩いている。彼はやはり、いつもと変わらない様子で、どこか飄々として見えた。

「クレッジはさー、あの下衆貴族に何か弱みでも握られてるの?」
「……そんなことありません」
「だって、男娼になれって迫られてるって聞いたよ? 本当なの?」
「本当です。でも、ヴィルイは単に、護衛の魔法使いを雇いたいだけです。だけど自分も魔法使いだから、魔法も一応使える程度の俺に頭を下げるの嫌みたいで、そんなふうに言うんです」
「……ふーーーん……そうかな……」
「本当は魔法使いをもっと雇いたいらしいけど、そうすると魔法が使えないって言われてるような気がするらしいです。お抱えの魔法使い増やして、パティシニルの負担を減らしたいんじゃないんですか……?」
「ふーん……」

 話しながらも、クレッジはずっとイウリュースを誘うことを考えていた。

(本当は、今日はギルドに行ってイウリュースさんを誘うはずだった。だけど……今、チャンスだろ……)

 クレッジは、俯いたまま口を開いた。

「…………あの、イウリュースさん…………えっと………………よかったらこの後、夕食……一緒に食べませんか? おごります……今回のお礼に……」

 たどたどしいが、なんとか言えた。そして返事が怖くて、しばらく俯いて待つ。すると、イウリュースの沈んだ声が聞こえた。

「えっと……ごめんね。夜は予定があって……」
「……そうですか……」

 こんなに落胆するとは思わなかった。ひどく落ち込む。

 しかしイウリュースは、肩を落とすクレッジに、快活に言った。

「代わりに、昼は?」
「え?」
「この依頼終わったら、二人でお昼ご飯、食べに行かない?」
「あ…………はい」
「いいのー? 嬉しい!! クレッジが誘ってくれるなんて、初めてだ」
「……いいんですか?」
「もちろんだろ? クレッジと食事できるんなら、こんなくそ依頼、すぐにやめて帰ろう! あのゲス貴族捨てて帰ろう!」
「……ダメです」

 けれど、クレッジの言葉を聞いている様子のないイウリュースは、ヴィルイに駆け寄って行く。

「ヴィルイー、帰るよー。昼だよ」
「ちっ……もう昼か……イウリュース! 貴様! 覚えていろよ!!」
「はー? 何をーー?」
「き、貴様っ!! 口には気を付けろっっ! 私は貴族だぞ!」
「だからーー? おーれだって貴族でーーす! 殺していい?」

 そんなことをいいながら、二人は歩いて行く。

 その間も、約束を取り付けることができて、クレッジの胸は苦しいくらいにドキドキしていた。
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