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65.そんな風に見えてたのか!?
しおりを挟む内心、僕は緊張で震えていた。
他人に近づかれるのには、まだ、慣れない。ラックトラートさんと並んだ時だって、まだうまく話せないんだ。
アトウェントラはいい人だし、僕と分け隔てなくこうして接してくれる。今だって、他意なんてなく、親愛の気持ちからこうやって僕の手を握って歩いてくれてるだけって、わかっている。ラックトラートさんだってそうだ。だけど、情けなくて臆病な僕は、まだその何気ない好意を反射的に警戒してしまう。
だけど、そんな僕でも、レヴェリルインのそばにいたい。レヴェリルインは、僕のそばにいて、僕を守ってくれた人だ。だったらもう気持ちのひとつも伝えられるようになってていいはずなのに、まだ、それすらできない。
振り向いた。
レヴェリルインはこっちを見ていて、僕に手を振ってくれている。
遠くて絶対聞こえないことを分かっているからか、口が開いた。レヴェリって、確かに呼べた。もちろん、こんな遠くからそんな小さい声、聞こえるはずがないんだけど。
焚き火から少し離れたところにあるテーブルのそばには、いくつか箱が積んであって、中にはレヴェリルインが魔法で作ってくれた氷が入っている。その中に、お酒の瓶が数本入っていた。
それから一本を抜き出して、アトウェントラは驚いたように言った。
「これ……コエレが好きなのだ」
コエレって、コエレシールのこと……だよな? 何でそんなの知ってるんだ? 剣術使いである彼は、魔法ギルドのギルド長を嫌っているんじゃないのか?
けれどアトウェントラは、コエレシールが寝ているテントの方を見ている。テントから出るときも、コエレシールのそばに残るって言ってたし、彼のこと、心配なのかな……
アトウェントラはずっと、その場に立ったままだ。
「あっ……あの…………あの……あ、アトウェントラ……さん?」
「あ、ああ……ごめんね。コエレのこと、気になっちゃって……あとで食事、持って行くよ」
やっぱりこの人、コエレシールのことが気になるんだ。
だけど、彼は、コエレシールには身売りを迫られていたんじゃなかったか? テントの中には今、コエレシールが一人だけ。それなのに、彼が食事を持っていって、大丈夫なのか?
彼はテーブルでグラスに酒を注いで、みんなのところに持って行く。
「コフィレは、レヴェリ様の分、お願い」
「は、はい!」
彼がお酒を入れてくれたグラスを持って、僕も、レヴェリルインのところに向かった。すると、彼は僕にありがとうと言って、微笑んでくれる。お礼なら、その顔だけですごく嬉しいのに。
アトウェントラは、ドルニテットとラックトラートさんに酒を渡すと、コエレシールのための皿と飲み物を持って、テントの方へ行ってしまう。
「ま、待って……! ぼ、僕もいきます……!」
慌てて、アトウェントラを追う。
彼は驚いたようだけど、僕に振り向いて微笑んだ。
「うん……ありがとう」
テントに入ると、コエレシールはまだ寝ていた。
そばのテーブルに持ってきたものを置いて、アトウェントラは、コエレシールの隣のベッドに座る。
「呑気だなー。ぐっすり寝ちゃって。こっちがどれだけ気を揉んでるかも知らないで……ねえ?」
彼は僕に振り向くけど、それが僕に向けられていると気づけない僕は、答えられずにいた。
「コフィレ? 大丈夫?」
「え!? は、はい……え? えっと……」
やっぱりうまく答えられない僕に、アトウェントラは微笑んだ。
「ねえ……隣に座って?」
「あ……はい……」
僕はうなずいて、少し距離を置いて、彼の隣に座った。
彼が少しだけ近づいてくる。
「コフィレは可愛いなー。本当に僕に仕えて欲しいくらい。そんなに怯えなくていいよ?」
「え?」
「だってずーっとビクビクしてる。僕、何もしないよ?」
「は、はい……」
「コフィレは、レヴェリ様に仕えてるんだろ?」
「はい……」
「ずっと一緒にいるの?」
「それは…………さ、最近は……」
「…………もしかして、レヴェリ様のこと、苦手だったりする?」
「え……?」
「だって、ずっとレヴェリ様を避けてるように見えたから……レヴェリ様のこと、苦手なのかと思って。レヴェリ様は誤解されやすいし、城を爆破したって聞いたし……街にいた時みたいに、いきなり縛ったりしたりして、かなり怖いと思うけど……思いやりも……一応あるんだ。多分……だから……」
「知ってます!」
「え?」
「ま、マスターが優しいの、し、知ってます! ぼ、僕……マスターに助けてもらったんです! ……さ、避けるなんて……ぼ、ぼく……あの……マスターを避けてるように見えましたか?」
「うん。だって、目も合わせないし、従者なのにあんまりそばにいないし、すぐ離れていくし、今もこうして僕といるだろ?」
「ち、ちが……違いますっ……! そんなつもりじゃ……」
僕が……そんな風に見えてたのか!? 避けてるって……アトウェントラにそう見えてたってことは、レヴェリルインにも、そう見えてるってことか!? そんなつもりじゃなかったのに!
「コフィレ? 大丈夫? あ、そうだ。僕、助けてもらったし、何か僕も力になれることがあれば、いつでも言ってよ!」
「は、はい…………あ、ありがとう……ございます…………」
「……コフィレ? 本当に大丈夫?」
「あ、あのっ……ま、マスターは、僕に、や、優しくしてくれて……そ、それで……避けてないって、言いたくて……どうしたら、避けてないように、み、見えます……か?」
「え? む、難しい質問だな……うーん……とりあえず、そばに行ってみるのはどう?」
「そばに……」
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