60 / 105
60.相手に届かない言い分
しおりを挟むそのまま街を抜け出した僕らは、隣町に向かう街道に入り、そこから少し離れた小川のほとりに降りた。
レヴェリルインの背中から降りると、すっかり腰が抜けていた僕は、足に力が入らなくて、その場にへたり込んでしまう。
そんな僕に、ドルニテットが怒りの形相で近づいてきた。
「このっ……!! 役立たずのグズがっ!! 訳もわからず危険なものを振り回して、どういうつもりだっっ!!」
「っ……! もっ……申し訳ございませんっ!!」
即座にその場で土下座する僕。
そんな僕とドルニテットに間に、レヴェリルインが入ってきた。
「俺が使えと言ったんだ」
「兄上……その場の勢いで危険なものをその役立たずに振り回させるのはやめてください!!」
「あれは魔物にしか効かない」
「危険なことは兄上になら分かるはずです!! しかも、そのグズに魔力を分け与えたりして!!」
「いいじゃないか。魔力くらい」
「あんな連中、そのグズでなくとも、兄上が軽く魔力を奮って黙らせればよかったんです。なぜわざわざその役立たずに杖を使わせたのですか!」
「使えるか試しただけだ。俺もそばにいた。一人で危ない真似をさせるようなことはしていない」
「……俺はその役立たずの心配など、微塵もしていません。むしろ、この際自らの魔法に巻き込まれて死んでほしいと思ってるくらいです。そうではなくて、そのグズに杖を持たせるべきではないと言っているんです。今すぐ杖を取り上げて、その男のことはその辺の木に吊るしましょう。俺が死ぬまで痛めつけてやります!」
「誰がそんなことをさせるもんか。だいたいお前は、一体何をそんなに怒っているんだ? どこにも被害は出ていないじゃないか」
「石畳が割れていました。その杖を打ちつけた際の衝撃によるものでしょう。魔物から力を奪う能力だけでなく、打撃の衝撃だけでもその威力……一体何を作っているんですか!」
「威力が強すぎたな」
「城の時と同じ言い訳をしないでください! 知っててやりましたね?」
「だが、全員無傷だっただろう?」
「無事であればいいと言うわけではっ……!」
怒鳴ろうとしたドルニテットを、アトウェントラさんが止めた。
「ドルニテット様。落ち着いてください。レヴェリ様とコフィレのおかげで逃げられたのですから……」
「貴様には兄上の恐ろしさが分からないのか? 軽く打ちつけただけで石を砕くようなものを、そこにいる何も考えていない男が持っているんだぞ!! 次は石と一緒にお前の頭が吹っ飛んでも知らないぞ!」
「ま、まあ……人は全員無事だったわけだし……そんなに怒鳴らなくても……」
怯むアトウェントラに、「馬鹿が」っと吐き捨てて、ドルニテットは空を見上げる。
何かが来たみたいだ。
僕もそっちを見上げると、魔法ギルド長のコエレシールが、空を飛んで僕らを追ってきているのが見えた。まだ少し飛び方がふらふらしていて、空から墜落するような勢いで、僕らの前に降りてくる。
「レヴェリルイン!! アトウェントラを返せ!!」
喚く彼は、レヴェリルインに向かって、魔法の杖を振ろうとしていたけど、その杖は、レヴェリルインが微動だにせずに撃った風の弾で、あっさり砕け散ってしまう。
「ぐっ……!」
呻いて、コエレシールは膝をつく。魔力で体を守ることもしていない。魔法使いなら、誰もができるはずなのに。
レヴェリルインは、膝をついたコエレシールの前に立って言った。
「やはり……お前たち、ほとんど魔力が残っていないな?」
「……!」
コエレシールは顔を背け、答えなかった。否定できないのか、黙ったまま微かに震えて、口を噤んでいる。
「コフィレグトグスが杖を使った時、お前たちは一瞬、魔力を使えなくなっていた。その杖は魔物の魔力しか奪えないのにだ」
するとドルニテットが、腕を組んで言った。
「……では、彼らがあの時、魔力が使えないと言っていたのは……」
「おそらく、魔物の魔力を用いた魔法具で、魔法を使っていたのだろう。ずいぶん変わった形の杖を使っていたようだったしな……」
レヴェリルインは、まだ俯いたままのコエレシールに向かってたずねた。
「王家の方からは、魔法の研究に関して、ずいぶんと無理な協力を強要されているようだし、その影響じゃないのか?」
「……っ!」
コエレシールの体がピクンと震える。レヴェリルインの言うとおりなんだろう。
けれどコエレシールは、杖をとって立ち上がった。すでに真ん中から無惨に折れてしまったそれを、それでもレヴェリルインに向けている。
「うるさい!! 反逆者の貴様に何がわかる!? 王家からは、何度も支援を受けているっ……協力を断れば、それを全て打ち切られるっ……! そうなったら魔物に対抗できなくなる魔法使いが多いんだ!」
「……そんなことなら、討伐を冒険者ギルドに頼めばいいじゃないか」
「できるかそんなこと!! も、門前払いにしたくせに!!」
喚いて、コエレシールはアトウェントラを睨みつけている。
アトウェントラの方は「そんなことしてない」って言って、二人とも睨み合っていた。
けれどコエレシールはすぐにアトウェントラから顔をそむけ、レヴェリルインを指差す。
「と、とにかくっ……!! アトウェントラを返せ!! そいつは連れていかせない!!」
「落ち着け。さすがに身売りさせるつもりの男に、こいつは渡せない」
「み、身売りさせようとしているのはお前だろう!! アトウェントラに何をさせる気だ!!」
「……なにを言ってるんだ? お前は……」
呆れたように言うレヴェリルインだけど、コエレシールは質問には答えずに、折れた杖だけで魔法を使い、雷撃を飛ばす。けれど、相当無理をしているらしい。すぐに地面に膝をついてしまう。
レヴェリルインは飛んできた雷撃を片手だけで払いのけ、コエレシールに向かって魔法の鎖を飛ばした。
鎖に巻きつかれたコエレシールは、その場に倒れて気絶してしまう。動かない彼に、アトウェントラが駆け寄って行った。
「コエレシール……」
倒れたコエレシールに、アトウェントラがそっと触れる。そんな彼を見下ろして、レヴェリルインはため息をついた。
「もう魔力は使えないだろうが……無理に暴れないように、捕縛の魔法だけかけておく。今日はこの辺りで一夜を明かそう」
52
お気に入りに追加
456
あなたにおすすめの小説

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます
八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」
ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。
でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!
一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。


それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる