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59.待て!
しおりを挟むクリウールトのそばにいた魔法使いたちは、震えながら自分の両手や杖を見下ろしている。唯一、魔法ギルド長のコエレシールだけが、僕の杖を睨んでいた。
彼らのそばにいたドルニテットとラックトラートさん、アトウェントラは無事のようだ。
クリウールトは震える指で、僕が持っている杖を指していた。
「そ、それは…………その杖はっ……!」
驚愕しているクリウールトに、レヴェリルインが瓶を投げつける。驚きすぎたのか避けようともしない王子を庇うように、隣にいたコエレシールが前に出て、瓶を受け止めた。
クリウールトはそんなことをされて「何をする!!」って怒っていたけど、コエレシールは、自分が受け取った瓶を見て、顔色を変えている。
「これは……まさか…………!」
「魔法薬が欲しかったんだろう?」
そう言ってレヴェリルインは、スキノレールから受け取った空瓶を振る。
「この魔法具の情報をもとに作った。気に入ったか?」
その頃には、コエレシールの周りの魔法使いたちも気を取り直していて、彼が受け取った瓶に注目している。
「…………なんて魔力だ…………」
「……あの粗悪品でこんなものが……」
粗悪品、なんて勝手に漏らした男を、コエレシールが殴りつける。
やっぱり、詐欺だったんだ。スキノレールたちが渡された魔法具では、傷が治るようなものは作れない。最初から、言いがかりをつけて返せるはずがないものを返せと迫り、アトウェントラを嵌める気だったんだろう。
だけど、やったことをバラされて焦っているのはコエレシールだけ。取り巻きの魔法使いたちは魔法薬の方に注目している。
そんな彼らから、クリウールトは魔法薬を取り上げてしまう。
「やめろ! お前たち!!! こ、これは俺が預かるっ……」
言って、コエレシールから取り上げた魔法薬を、王子は懐にしまってしまう。周りの魔法使いたちが、それを羨ましそうに眺めていた。
そんな目には気づく様子もないクリウールトは、レヴェリルインを睨みつける。
「貴様っ……! レヴェリルイン!! ま、魔法薬はもらっておくが……おい!」
王子の話をまるで聞いていないレヴェリルインは、大きな狼に姿を変え、僕を背中に乗せてドルニテットたちの元に走っていく。
ラックトラートさんとドルニテット、ドルニテットに無理やり手を引かれたアトウェントラも飛び乗ってきて、レヴェリルインは空に飛び上がる。
「待て!! レヴェリルイン!」
クリウールトがそう叫ぶけど、レヴェリルインはまるで聞いていない。空に向かう僕らを、コエレシールと、数人の魔法使いたちが追ってきた。
コエレシールが、僕らに向かって叫ぶ。
「レヴェリルイン!! 待てっ……! まだ話は終わっていないぞ!」
「薬ならもう返しただろう? ずいぶんと粗悪なものを渡していたじゃないか。あの程度の傷なら、そんな魔法薬でなくとも回復の魔法ですぐに治ったぞ」
「そ、そんなことは知らんっっ!! 冒険者ギルドのやつが、俺たちが手に入れるはずの魔法薬を勝手に横取りしたんだ!」
「横取り? だったら、俺が今渡した魔法薬があればそれでいいだろう? 極上のものだぞ」
「それはっ……!」
「これで魔法薬を返す必要はなくなったな。代わりにアトウェントラは借りていく!」
「は!? ま、待て! レヴェリルイン!! アトウェントラをどうする気だ!?」
「文句があるなら俺に言いに来い! いつでも相手になってやろう! 魔法ギルド長のコエレシールが、詐欺を働いて汚いやり方で身売りを迫ったなんて、吹聴されたくはないだろう?」
「は!? な、なんだと……!? お、おい待て!! レヴェリルイン!」
喚いてついてくるコエレシールたちに向かって、ドルニテットが魔法を放つ。強い目眩しの魔法だ。
激しい光があたりを包んで、追っ手が目を開ける頃には、僕らはその場から消えていた。
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