52 / 105
52.相変わらずですね
しおりを挟む裏通りに降りた僕らは、アトウェントラの案内で、魔法薬を受け取ったという剣術使いの家に急いでいた。スキノレールとリフィノセスという腕の立つ二人で、リフィノセスはすぐに目を覚ましたらしいけど、スキノレールの方は、魔物に襲われた時に、魔物の力が体に入り込んでしまい、目を覚まさないらしい。
レヴェリルインは、歩きながら、彼らを捕らえてしまったものについて話してくれた。
「おそらく、魔物と戦った時に、気づかないうちにその体の一部が体に潜り込んだのだろう」
「え、えっと……じゃあ……その人、そのせいで動けないん……ですか?」
僕がたずねると、レヴェリルインはあっさり首を横に振る。
「そうなったとしても、ずっと寝込んだままだと言うのはおかしい。なにより、あのコエレシールの焦り具合からすると、奴らがギルドを潰すために仕組んだと考えて、間違いないだろう。どうせ、クリウールトの差金だろうな」
それを聞いて、僕の隣を歩いていたアトウェントラは肩を落とす。
「やっぱり、そうなのかな……レヴェリ様、本当に力を貸していただけるんですか?」
「ああ。代わりに、俺が魔法薬を回収してコエレシールたちを黙らせたら、お前たちは俺に力を貸せ」
「それは……構いませんけど……レヴェリ様がそんなことを言うのは、初めてですよね? 僕、なんだか嬉しいです」
「……うるさい」
そう言って、レヴェリルインは、すぐに顔を背けてしまうけど、なんだか嬉しそう。
アトウェントラとは、顔見知りかな……ずっと「レヴェリ様」って呼んでる。なんだか歩く時の距離も近い気がする。いいな……
僕も、もう少しそばに行きたい。さっきだってあっさりレヴェリルインに後ろに下げられちゃったのに、図々しいのかもしれないけど……
さっきのことを思い出すと凹む。震えてただけで、結局何もできてない。もう少し役に立てたら、僕もあんな風に横に並べたりするのか……?
そんな風に考えながら、前を歩くレヴェリルインとアトウェントラの後ろ姿を見ていたら、今度は、ラックトラートさんが、手帳を持ってアトウェントラに近づいていく。
「ウェトラさん!!」
「うわっ……! びっくりした……」
「驚かせてしまってすみません!! 僕はたぬきさん新聞の記者で、ラックトラートと申します!」
「は? え? たぬき?? ああ、あの……嘘か本当かわからない記事書いて人魚族を怒らせたタブロイドか……」
「嘘か本当かなんて言わないでください! 僕ら、たぬきさん新聞は嘘なんかつきません!!」
「……魔法ギルドの記者と喧嘩して追い出された奴らがやってるって聞いたけど……」
「その情報こそがせです! 誰に聞いたんですかそれ!! 僕は、編集長の人柄に惚れ込んで、はるばるこの街にやってきたんです!! 今回のことは、僕が取材させていただきます!!」
「えー、記事にはしないで欲しいなあ……コエレシールも困るだろうし……」
「で、では……お、お話だけでも聞かせてください!! 魔法薬を借りたって、本当なんですか?」
「正確に言うと、魔法薬じゃなくて、それを作るための魔法具。それが今、リフィノセスたちの家にあるはずなんだ。使い捨ての魔法具だったけど、魔力をほとんど使わなくても魔法薬を作れる、便利なものだっと言われて借りたんだ」
「使い捨て? 一体いくつ借りたんですか?」
「えっと……十個くらいかな……」
「じ……し、失礼ながら、魔族の術で作られたものとなれば、かなり貴重なものです。それを……十個も? その魔法薬を返せって言われてるんですか?」
「うん……だけどもう全部使っちゃったし、どうしようもないんだよね……」
すると、レヴェリルインが首を傾げて言った。
「なぜそんなものを借りたんだ? 魔物と戦った傷なら、ものにもよるが、普通の薬で足りるはずだ」
「……貴重だなんて、僕たちにはそんなこと分かりません。僕たちは魔法使いじゃないんです。知り合いの商人に相談したら、だったらいいものがある、返すのもいつでもいいって言うから……そしたら使い捨てのものだし、今更魔法薬を返せ、なんて言われても、僕にはどうしようもありません」
「……その話だけを聞けば、おそらく、詐欺を働かれたんだろうな……貴重ではあるがお前には不要なものを、返すことができないと知りながら貸し出している。最初から、お前を嵌める気だったんだ。なぜそれなら、こっちに話してこなかった?」
「……そんなの、できるわけありません。伯爵の力を借りるなんて、剣術使いたちが黙っていません。だからこそ、剣術使いの街と言われた、隣町の商人の力を借りたんです。彼は昔、僕が港町にいた頃の知り合いなんです。だから信じたんだけど、魔法使いギルドからのものだったなんて……」
「それで、その魔法薬を作るために借りた魔法具とやらはどこへ行った?」
「返しました。もう使えなくても、大事なものだから返して欲しいって言われたので」
「証拠を持っていかれたな」
「……馬鹿だったと思っています……やっぱり僕じゃ、ダメだったのかな……」
そう言って、僕の少し前を歩くアトウェントラが俯く。それがひどく切なく見えた。なんだか、あの城にいた時の自分を見ているようで。
「…………ぁ……」
「え?」
蚊の鳴くような声だったのに、アトウェントラは僕に振り向いた。隣にいたレヴェリルインも、少し前を歩いていたドルニテットも、ラックトラートさんも。
そ、そんなにみんな振り向くなんて思わなかった……
みんなに振り向かれて、一気に緊張する。だ、だけど、先に声をかけたのは僕だ。
「……あっ……あの…………だ、め……なんかじゃない……です……」
「……え?」
アトウェントラは、不思議そうに首を傾げている。当然だ。だって突然、初対面の僕にこんなこと言われてるんだから。彼だって、僕にこんなこと言われるいわれ、ないんだろうけど……
「ありがとー。可愛い子だね」
「へ!??」
顔を上げたら、アトウェントラは僕を見下ろして微笑んでいた。
「君……レヴェリルインの従者って、本当?」
「えっ……!? あ……は、はい……」
「ふーん……小さくて可愛いから、レヴェリ様の子供かと思った」
「ええっっ!?? ち、違っ……違い……ます……ぼ、ぼく、僕……ほ、本当に従者なんです!!」
「冗談だよ。僕はアトウェントラ。ウェトラって呼べばいいよ。君は?」
「あっ……え、えっと……コフィレグトグスって言います……す、好きに……呼んでくれていいです……」
や、やった……今度はちゃんと挨拶できた……
なんだか嬉しい僕に、アトウェントラは顔を近づけてくる。
「じゃあ、コフィレでいい?」
「あ、は、はいっ……!」
「コフィレは、魔法使いなの?」
「え!? あ、えっと……僕は、ま、魔力、なくて……魔法も、つ、使えないんです……」
「そうなの? だけど、さっき、魔法の杖、持ってたよね?」
「あっ……持ってはいますが…………魔法を使うことはできなくて……」
「そうなの? え!!? じゃあ、魔法使えないのに、さっきコエレシールに立ち向かっていったの!?」
「……はい……」
やっぱり無謀すぎたのかな……今思うと、めちゃくちゃ無謀だった。
けれど、アトウェントラは微笑んで、僕の頭を撫でてくれた。
「ありがとう……レヴェリ様は可愛い従者がいていいなー。僕にも仕えてよ」
「え!!? え……」
僕にもって……それは無理だ。それに、やけに体も顔も近づけてきて怖い。僕、ずっとだんだん離れていっているのに、その度に彼もだんだん近づいてきて、二人して道の端に近づいていってる。
すると、アトウェントラのくびねっこを後ろからレヴェリルインが掴んで、僕から離してくれた。
「いい加減にしろ。ウェトラ。俺の従者が怯えている」
「ちょっ……! レヴェリ様! 離してください!! 僕はただ、彼がビクビクしてるから……レヴェリ様にいびられてないか、聞き出そうとしたくらいです! なんでそんなに怒ってるんですか?」
「誰がいびるだ!! お前はそんな風だから誤解されるんだ!!」
ついに怒鳴り合いになるレヴェリルインとアトウェントラ。ラックトラートさんが呆れたように、相変わらずですねーって言ってた。
11
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞奨励賞、読んでくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています
ミヅハ
BL
主人公の陽向(ひなた)には現在、アイドルとして活躍している二つ年上の幼馴染みがいる。
生まれた時から一緒にいる彼―真那(まな)はまるで王子様のような見た目をしているが、その実無気力無表情で陽向以外のほとんどの人は彼の笑顔を見た事がない。
デビューして一気に人気が出た真那といきなり疎遠になり、寂しさを感じた陽向は思わずその気持ちを吐露してしまったのだが、優しい真那は陽向の為に時間さえあれば会いに来てくれるようになった。
そんなある日、いつものように家に来てくれた真那からキスをされ「俺だけのヒナでいてよ」と言われてしまい───。
ダウナー系美形アイドル幼馴染み(攻)×しっかり者の一般人(受)
基本受視点でたまに攻や他キャラ視点あり。
※印は性的描写ありです。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる