普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

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32.目立つ!

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 鎖を解いてもらった警備隊の人は、むすっとして床に座っている。

「ちっ……やっぱり乱暴じゃないか……」
「お前は警備隊らしいが……俺をつけて来たのか?」
「つけてなんかない。たまたまここに入ったら、お前たちを見つけただけだ。城のことも、真偽がわからなかったし、その……街中で魔法使われる前に仲間を呼ぼうかと思ってただけだ。これっ……見てみろ!! こんなもん読んだら不安になるだろ!」

 警備隊の人がレヴェリルインに渡したのは、だいぶボロボロの新聞。
 レヴェリルインはそれを広げた。後ろにいたら、僕にも見えた。

 一面を飾っているのは、悪逆非道を尽くした伯爵を王子が糾弾したら、伯爵の弟が錯乱して、集めた貴族ごと城を爆破したという酷い記事。こんなの読んで、それを全部信じちゃったら、レヴェリルインはまるで異常な殺人鬼じゃないか……あんまりだ。

 レヴェリルインも、さすがに顔を顰めていた。

「なんだこの新聞は……」
「レヴェリルイン様もそう思いますか!!」

 声を上げたのは、狸耳の人。

「そんなの、インチキ新聞です!! 王子の息がかかった新聞なんですよ!! そんなの、眉唾物です!! そんなのより、僕らが出してるタブロイドの方がよっぽど信用できます!」
「タブロイド……? お前が書いているのか?」
「はい! あ、僕、ラックトラートって言います! 僕らのたぬきさん新聞がリュックに入っているので、どうぞ!!」
「……たぬきさん??」

 レヴェリルインが、怪しいものを見るような目をしながら、ラックトラートさんのリュックを開くと、確かにくしゃくしゃに丸められた新聞が出てくる。

「なんでこんなにぐちゃぐちゃなんだ?」
「丸めて捨てられてたのを見つけて持って来たんです! 酷いですよね!! 絶対、魔法使いギルドの子ウサギの仕業ですよ!!」
「子ウサギ?」
「王族の息がかかった新聞屋です!! 僕らのこと、目の敵にしてるんです!! わざわざ僕らの新聞買って、丸めて捨てちゃうんです! 酷いですよね!!」
「知らん。お前、そいつがそうしてるのを見たわけじゃないだろう?」
「でもそうなんです!! 王族から色々もらってるから、いい気になってるんです!! 情報操作ですよ! こんなの!!」

 喚くラックトラートさんのリュックから取り出した新聞を、レヴェリルインが広げる。可愛らしい狸の印が描かれた新聞だ。だけど記事には、レヴェリルインが城を爆破するのが大好きみたいに書いてあって、正しいとは思えない……

 じっとそれを読んでいたら、いつのまにか、すぐそばにラックトラートさんがいた。彼は、わざわざしゃがんで新聞の影から僕のことを見上げていて、びっくりした僕は飛び退いてしまう。

「っ……!!」

 な、なにっ!? なんでこんなに近づいてくるの!?
 後ろに下がる僕に、なぜかラックトラートさんはずっと近づいてくる。

「僕、ラックトラートって言います! あなたは?」
「え!? ぼ、僕っ……!??」

 な、なんで僕なんかに声をかけるんだ!?

 震える僕に、ラックトラートさんはどんどん近づいてくる。

「はい! あなたです!! さっきから、ずーーーーっと、レヴェリルイン様のそばにいますよね!? 誰なんですか!? なんでボロボロの格好してるんですか!? さっき僕らに話しかけてくれましたよね!? 何か言いたいことがあったんですか!?」
「え、え、えっと……」

 だ、誰って聞かれても……あと、そんなにたくさん一気に聞かれてもっ……! 答える能力が僕にはない!!

 慌てる僕を、レヴェリルインが抱き寄せてくれる。

「こいつの服を買いに来たんだ。あまり近づくな」
「えー、本気ですかー? 僕の情報網によると、レヴェリルイン様って、めちゃくちゃ趣味悪いって聞きましたよ? 服なら、伯爵様に選んでもらった方がいいんじゃないんですか?」
「あいつに聞くことなどない。だったら、お前たちもここに残れ。俺が選ぶものを見ていればいい」
「本当ですか!? 今日はラッキーな日だ……ついでに取材させてください!!」

 嬉しそうなラックトラートさんを置いて、レヴェリルインは僕に振り向く。

「いいものを選んでやる」
「……はい……」

 レヴェリルインが、僕に?? 服を……?

 だけど僕、いいものより、できるだけ目立たないものがいい。

 そんなことを話していたら、ラウティさんが、たくさん服を持って入ってくる。

「ごめんなさい……在庫探すのに手間取っちゃって……いつものところになくて、探し回ってました。あれ……?」

 彼はラックトラートさんに気づいて、首を傾げた。

「あれ……? ラックト? 来てたの?」
「うん!! それ……」
「その方の新しい服。持ってきてって言われたので……」

 そう言ったラウティさんはいくつかの服を重ねて持っている。一番上の服が、めちゃくちゃいろんな色を使った不思議な柄で、狼の柄が混じった服なんだけど……それ、僕が着るの!?? 趣味がどうこういう前に、めちゃくちゃ目立つ!!

「どうですか? これ」

 ラウティさんが、にっこり笑って言う。どうって……それを着て目立つのは嫌……

 固まる僕に、彼は慌てて言った。

「あ! こ、この派手なのは……レヴェリルイン様がどうしてもって言うから持ってきただけです!! あなたは、目立つようなものは嫌かなーと思ったんですが……」
「……」

 そうなんだ……どうしてもって……それを着るのは嫌だな……
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