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27.混乱

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 な、何を言われているのか分からなくて、つい、はいって言っちゃったけど……よかったのかな……

 と、とりあえず、多分、腕の中にいたらいいんだ。逃げる気はないし、そもそも、僕の力でレヴェリルインを振り払えるわけがない。力の差がありすぎる。

 ずっと抱きしめられていると、ちょっと怖くなるんだけど……少しあったかいし、いいか。

 焼印が消えたのはまだ怖い。レヴェリルインが僕のためにしてくれたことは分かっているけど、怖いものは怖い。

 だけど、僕は彼に、好きに扱えって言ったんだ。わざと失敗したっていうのにはびっくりしたけど、僕は、レヴェリルインの城に呼び寄せてくれただけで、感謝している。彼に使われるなら、それでいい。

 でも……成功させたくなかったのなら、なんで陛下に逆らってまで僕を呼び寄せたんだろう……

 いや、そんなこといいんだ。魔力なんてもういいって、多分伝わってない。レヴェリルインはああ言ったけど、僕は本当に、魔法も魔力も、もういらない。こんな思いしたくないし、失望されるのも嫌だ。

 僕は、抱きしめられたまま、彼の腕の中で、彼を見上げた。

「あのっ…………! あの…………あのっ……僕の魔力っ……なくていいので……あ、マスターのせいじゃないっ……です!!!! 悪いのは、僕で…………責任なんてないのでっ……!! あの……魔力なんて……」
「魔力は返す」
「あ、あのっ……そうじゃなくて…………マスターのせいじゃないから……ま、魔力なんて、どうでもいいんです!!!」
「よくない」
「え!? だ、だめっ……!!」
「だめ?」
「あ、いえ、だ、ダメじゃなくて……あ、あの……!!」

 なんでうまく伝わらないんだーー!! 僕がちゃんと伝えられてないからか……

 どうしても伝えたくて口を開いたはずなのに、僕はそこで言葉を失う。

 なんて言えばいいんだ? 全部僕のせいですって? 責任なんて感じないで? 僕の望んだことです? 魔力はいらない、は、もう言ったけど、全然通じてないし、そもそも何で通じないんだ!?

 あ、頭がこんがらがってきた……

「あ、あのっ……あの……」

 整理できていない頭のまま、レヴェリルインを見上げるけど、やっぱりなんて言っていいかも分からないままじゃ、うまく口が動かない。

 見上げただけで、目が合う。抱き寄せられているから。

 背中に手が回ってる。そんな風にされるの、初めてで、混乱する。
 腕で包むようにされて、レヴェリルインの顔がすぐそばにある。やっぱり、どこかバルアヴィフに似てる。歩くだけで人を魅了するあの人と似てるけど、彼のそのアイスブルーの目は、冷たさすら感じる。初めて会った時、僕を追い回した獣と同じ目だ。

 僕の頬に手が添えられて、彼の顔が近づいてくる。く、唇が触れそう。

 なんでこんなことされてるんだ?

「魔力は返す。好きに扱っていいなら、俺が渡すものは全部受け取れ」
「……は、は、い……」
「……俺のそばにいろ」
「は、はい……」
「俺以外の奴をマスターと呼ぶな」
「え!? あ、えっと……はい……」
「お前のマスターは俺だ」
「はいっ!」
「……俺以外の奴の言うことを聞くんじゃないぞ」
「えっ!? えっと……はい…………」

 レヴェリルインの口角が上がって、彼が笑っている。何だか怖い。好きに扱えとは言ったし、何をされてもいいって思ってるけど、怖いものは怖い。

 レヴェリルイン顔が近づいてくる。

 彼の吐息が僕にかかる。このままじゃキスされそう。

 ……な、な、何をされてるんだ? このままだとキスになってしまう。僕は何をされてもいいけど、レヴェリルインはダメじゃないのか!? だって貴族なのに、僕とキスなんて!

「ま、マ、ス……タぁ……?」

 恐々、震えながら弱々しい声を上げると、レヴェリルインは気づいたのか、僕を離した。

 そして、気まずそうに顔を背けてしまう。

「すまない……」
「え!? え?? な、何が…………あ、あのっ……」
「……服を探してくる。ここにいてくれ」

 レヴェリルインは、真っ赤な顔をして、部屋から出て行ってしまう。

 すまないって、何がすまないんだ?? なんのことなんだ??

 相手の言っていることがわからない。何でそうしているのかも。さっきのも、魔力のことも、抱きしめられたことも、わざと失敗のことも、城を吹っ飛ばしたことも。

 相手の行動の意味がわからない。言われたことの意味も。だけど、もう後悔したくない。レヴェリルインに、何も失ってほしくない。分かるようにならなきゃ……だけどできる気がしない!!

 ちゃんと仕えるって決めたのに、早くも不安になってきてしまった。
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