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22.知らない人

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 引っ張っていかれた店の入り口で、僕は、つい、足を止めてしまった。僕一人だったら、立ち往生していただろう。
 だって、きらびやかな光の中に、綺麗な服がいくつも並んでいる。中にいるお客さんも、綺麗な人ばっかり。

 ……僕、邪魔だろ……なんで僕がここにいるんだ。
 か……帰りたいぃ……っっ!! だ、だって裸足の人、誰もいない!

 奥の方から、店員らしき男の人が出てくる。頭に真っ白なウサギの垂れ耳がある華奢な人で、金色の髪を短く切った可愛いうさぎの妖精族だ。

「いらっしゃいませー!! あ!! レヴェリルイン様!! ドルニテット様!! それに……馬!!??」

 彼は、僕らの後ろから顔を出した子馬にびっくりしてる。
 レヴェリルインは、ドルニテットに、それを見ていてくれと言って伯爵を任せると、僕を連れて、店員の人に振り向いた。

「久しぶりだな、ラウティ。彼の服が欲しいんだ。いいものはあるか?」
「え……彼? 誰……?」

 店員の人は、レヴェリルインの体を避けて、その背後にいる僕の方に近づいてくる。

「うわっ……!! どうしたんですか!?
靴は!? 服も……サイズ全然合ってませんよ? だいぶ大きいし、汚れてる…………」
「俺の服だ」

 そう言って、気まずそうに顔を背けたのはレヴェリルイン。

 え……これ、レヴェリルインのだったの!? そんな話、初めて聞いた!! 僕、ずっとマスターの借りてたの!?
 も、もっと大事に扱えばよかった……着ているものはだいぶ汚れているし、ボタン取れかけてるし、破れている。
 ど、どうしよう……ぼ、ボロボロにしちゃった……れ、レヴェリルインのものを、こんな風にしちゃうなんて……!!

 慌てる僕の前で、レヴェリルインはずっと店員さんと話している。

「これしかなかったんだ。そいつのために新しい服を用意すると、なぜすぐに処分するものに服が必要なんだと、王家からの使者が喚く」
「貴族って、めんどくさいですねー。あ、でも、レヴェリルイン様、もう貴族じゃないんですよね? 聞きましたよー。クリウールト殿下をめちゃくちゃ怒らせて、城を爆破したって!」
「もう知られているのか?」
「町中が知ってます! 夕刊にも載ってました!」
「……ずいぶん早いな……」
「一面で載ってます! 僕、二部買っちゃいました!! あ!! なんなら、奥で読みますか? あなたも……」

 そう言って、店員さんは、僕の方に近づいてきた。

 し、知らない人がそばに来ると、それだけでドキドキする。それに、大きな目にふわふわした髪のラウティさんは、見上げられると照れちゃいそうなくらい可愛い。こ、こんな可愛い人がそばにいる……

 身を引いて逃げようとする僕に、ラウティさんは顔を近づけてくる。

「どうしたんですか? 僕、怖いですか?」
「い、いえ……その……」
「……? 大丈夫ですよ? 何もしませんよ?」
「ち、ちがっ……違うっ……! ぼ、僕、服も汚れて……るから…………は、恥ずかし……あのっ……そ、そばにいると……あ、なたも……その服までっ……! 汚れちゃいますっ……!」
「え?」

 ラウティさん、不思議そうにしてる。

 何言ってるんだ僕……だって初対面の人なんて前にして、どうしていいのか分からない。レヴェリルインの知り合いみたいだけど、初めて会う人に近づかれたら、焦るっ……!!

 せっかく、優しく話しかけてくれてるのに……僕の馬鹿……恥ずかしい。もうここから出て行きたい。

 ラウティさんは、僕の前でにっこり笑った。

「そんなこと、気にしなくていいんです。僕は大丈夫ですから」
「……」
「あの森を抜けてきたんですよね? きっと疲れているでしょう? それに、足だって、ずいぶん汚れてる。怪我してるんじゃないですか?」
「なんだと?」

 レヴェリルインが僕に振り向く。そして、僕の足にそっと触れた。

「……怪我をしたのか?」
「い、いいえ…………ただ、石を踏んだから、少し……」
「少し、なんだ?」
「あの……え、えと…………」
「どうした?」
「あの……」
「……」
「…………痛い、くらいで……」
「……痛いなら、早くそう言え」

 そう言って、レヴェリルインは体を振るわせる。すると、見る間にその尻尾が大きくなり、彼はそれで身を包んだ。
 彼が尻尾を上げたときには、彼は大きな狼に姿を変えていた。それから、驚く僕を背中に乗せて、ラウティさんに振り向く。

「ラウティ。奥の部屋を借りる。それと、服をいくつか見繕ってきてくれ」
「はーい!」
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