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16.隣に

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 城の周りは、幾つも背の高い植物が生えて、まるで森のようになっている。魔力を持った獣、魔獣もいるらしい。
 森の方までは、爆発の魔法の影響はなかったらしく、そこはまだ、静かな森だった。木々が揺れて、初めて見る鳥が飛んでいる。風は優しくて、気持ちいい。

 僕は、ここに来るのは初めて。毒の魔法を覚えていた頃は、ずっと城の地下に篭りきりだったし、失敗作と分かってからは、城の中ではずっと、できるだけ体を縮めて、いないふりをしていた。

 そして、ずっと手を握られたまま、誰かと歩くのも初めて。それも、相手はずっと僕を管理していた伯爵家の次男。なんだか恐れ多くて、少し後ろを遅れて歩いていたら、レヴェリルインが、僕に振り向いた。

「隣に来い」
「え…………」

 と、隣……そんなの、めちゃくちゃ緊張する!! 誰かと、肩を並べて歩くなんて…………

 だけど呼ばれたし、僕は急いで、レヴェリルインの隣に駆け寄った。

 す、すぐそばに人がいる……

 しかも、右隣にレヴェリルインがいて、左隣にドルニテット。伯爵の兄弟に挟まれて、何で僕がここにいるんだ。

 場違いだろ。大丈夫か? せっかく処分されなかったのに、無礼を働いた罪で処分になったりしない??

 そういえば……何で僕を処分しなかったのか、聞いてない……

 レヴェリルインを見上げると、目があった。まだだ。今日はよく目が合う。これまで、ほとんど顔を合わせることもなかったのに。

 レヴェリルインの顔を見ても、理由なんて分からないけど、なんだかもう、どうでもよくなってきた。

 レヴェリルインが処分って言ったら処分。そうなるまでは、こうして仕える……それでいい。

 これまで、隣にいることなんてできなかったけど、今はこうして、そばにいることを許されているんだ。
 これから、この人の役に立てると……いいなあ……

「あ、あのっ…………!! ま、マスター!!!!」

 勢いで呼んだせいか、やけに大きな声が出た。すぐそばにいるレヴェリルインを呼ぶなら、こんなに大きな声じゃなくてよかったのに。
 早速失敗して、ますます緊張しそうで、僕はもう、目を瞑ったまま、話すことにした。

「あのっ……! あ、ありがとう……ございました…………ぼ、僕…………こ、これから、い、一生懸命、仕えます…………」

 な、なんとか言えた。ちゃんと言えた……

 小さな達成感なのに、心が満たされていく。頭にポンと優しい感触がした。

 頭、撫でられているんだ。

 そっと目を開けて見上げたら、レヴェリルインは僕を見下ろして微笑んでいる。

「だったら、いいものをやる」
「…………え!?」

 レヴェリルインは、僕の前に、握った拳を差し出した。彼が拳を開くと、中から小さな犬が出てくる。僕が城で見た、あの犬だ。

 犬は、レヴェリルインの手から逃れると、地面に降りた。
 すると、手のひらに乗るくらいの大きさだった犬は、小型犬の子犬くらいの大きさになって、僕に向かって尻尾を振って、キャンって鳴いた。

 可愛い……

「バルアヴィフだ。お前にやる」
「は、はいっ……!! ありがとうございます!!」

 さっと頭を下げる。

 だけど、何か、違和感があった。バルアヴィフ? なんで、伯爵と同じ名前なんだ??

 顔を上げたら、レヴェリルインは、子犬を抱っこして、僕に突き出す。

「伯爵だ。魔法で変えた。お前にやる」
「え………………」

 どうしよう……急に欲しくない……
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