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番外編15.どうしたんですか?
156.案内します!
しおりを挟むぎゅうって抱きしめられるのはすごく嬉しいけど、なんだか今日のオーフィザン様、すごく力が強い。
ど、どうしたんだろう……
オーフィザン様を見上げると、いつもより厳しい顔をしている。
やっぱり、怒ってるのかな……
「お、オーフィザン様! 僕、ちゃんと案内、最後まで頑張ります! 見ていてください!!」
「ずいぶん張り切っているな……」
「はい!! だって、ブレシーは僕の友達で、オーフィザン様の大切なお客様ですから!」
「…………そうか……」
オーフィザン様は、やっと僕に微笑んでくれた。
今日のオーフィザン様は、ちょっと変。だけど、僕にこうして優しく微笑んでくれるところは変わらない。
オーフィザン様に喜んでいただくためにも、今日の僕は頑張るもん!
決意して、倉庫に向かって歩き出す。だけど早速足を滑らせちゃう。
転びそうになる僕を、すぐにオーフィザン様が抱きとめてくれた。
「……気を付けろ」
「……は、はい!」
うう……早速ドジしちゃった。ついさっき、ドジしないって、意気込んだばっかりなのに。
恥ずかしくて情けなくて、頭の耳もペタンて垂れちゃう。
だけど、俯いていたら、急に体がふわって浮いた。オーフィザン様が、突然僕のことを抱き上げたんだ。
「お、オーフィザン様!?」
「こうして抱えて行ってやる」
「え!? い、いいです! おろしてください!!」
だって、頑張って褒めてもらいたいのに、抱っこされていたら意味ないもん!
暴れる僕だけど、オーフィザン様は離してくれない。それどころか、耳元で囁かれた。
「お前は俺の大事な伴侶だ。大人しく抱っこされていろ」
「え……」
う、ううー……! そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうよ!!
嬉しくて、尻尾が揺れちゃう。ど、どうしよう……動きたくなくなっちゃった……
オーフィザン様の腕の中で丸くなっていたら、ブレシーが僕に振り向いて微笑んだ。
「仲がいいんですね」
「え……は、はい…………」
うわああああ。嬉しい……そうか……僕とオーフィザン様、そんな風に見えるんだ。
オーフィザン様も微笑んで「当然だ」って言ってる。
なんだか元気出た! もう一回頑張る!!
「オーフィザン様、僕、降ります!」
「なに? クラジュ!?」
僕は、オーフィザン様の腕から降りて、振り向いた。
「僕、頑張ります! 見ていてください! 行きましょう! ブレシー!!」
ブレシーの手を取って倉庫に向かって走り出す。ドジしないように頑張るぞ!
ドジしないように気をつけて歩いていたら、自分でも驚くほど早く、倉庫につくことができた。
ちゃんと今、僕の目の前に倉庫の扉がある……城の中を歩いたのに、何も壊れてないし、騒ぎも起こっていない!
オーフィザン様!! 僕、ちゃんとつきましたよ!!
無事に目的地に着くことができて、すごく嬉しくて、オーフィザン様に振り向く。
だけどオーフィザン様は、倉庫に入っていくブレシーの方を見つめている。
ううー……倉庫についたくらいじゃダメかあ……
喜んでもらいたかったけど、まだ倉庫についただけだもん。
倉庫の中に入ると、ずらっと棚が並んでいて、そこに綺麗に魔法の道具が並べてある。初めてここに入るブレシーは、よほど珍しいらしくキョロキョロしていた。
「クラジュ、あれはなんですか?」
「え!? ああ、あれなら……」
言いかけたら、オーフィザン様が間に入ってきた。僕の前に立って、ブレシーを見下ろしている。
「俺が教えてやる」
教えてやるって言ってるけど、オーフィザン様、少し怖いよ??
ご機嫌斜めなのか、じーっと、据わった目でブレシーを見下ろしている。僕だったら竦み上がっちゃいそうなのに、ブレシーはとくに怖がっていないみたい。
「オーフィザンが? どうしたんですか? そんなことを言いだすなんて」
「これは俺が作ったものだ。質問があるなら俺にすれば良い」
「そ、そうですね……」
二人が話している間に、僕も入って、オーフィザン様の前に立った。
「お、オーフィザン様!!」
「どうした?」
「案内は僕がします!」
「……なに?」
「見ていてください!! 僕、絶対やり遂げて見せます!」
「……そんなに案内をしたいのか?」
「はい!! 任せてください! オーフィザン様!!」
僕は元気に返事をして、ブレシーに向き直った。
「来てください! 端っこから案内します!」
「え? く、クラジュ!?」
僕は彼の手を引いて、倉庫の奥に入っていく。ここにあるのは、暴走なんかもしない、安全なものばかり。僕が歩いても平気なんだ!
「ブレシーは、なにを見たいんですか?」
「……ここにはないようです」
「え!?」
「こっちへっ……」
ブレシーは僕を連れて、倉庫のさらに奥に入っていく。そこにあった扉を、彼は開いて、僕をそこへ連れ込んだ。
ここは、倉庫の中を掃除するためのものや、魔法の道具を調整したりするためのものが置いてある物置だ。たいして広くもないし、薄暗くてちょっと不気味。
彼は、内側から鍵をかけて、僕に振り向いた。
「ブレシー? どうしたんですか? ここに魔法の道具はありませんよ?」
「分かっています。でも、倉庫の方にも、僕が探しているものはありませんでした」
「探してるものって……」
「……この際なので、はっきり言います。僕は……あの魔法の猫じゃらしが目的でここへ来たんです」
「……魔法の猫じゃらしって……あ、あれ!? な、なんでそんなのを……」
「…………それは……その……ぼ、僕にも、止むに止まれぬ理由があるんです!! どうしても、あれを持ち帰らなきゃならないんです!」
ブレシーは、本当に切羽詰まっているみたいで、苦しそうな顔をしている。そんなにあれが欲しいの?
「ブレシー……? ど、どうしたの?」
「クラジュ!! お願いします!! あ、あの魔法の猫じゃらしを、僕に譲ってください!」
「お、落ち着いてください……えっと……あの猫じゃらしは、オーフィザン様がもう作らないって……」
「それは分かっています。ですが、どうしてもあれが必要なんです。一本か二本くらい残っていませんか?」
「それは……多分、あるとすれば、オーフィザン様のお部屋です」
「オーフィザンの?」
「はい。でもそこはオーフィザン様の許可がないと入れないし、オーフィザン様がいないときは鍵がかかっているんです。だから……僕が、オーフィザン様に頼んでみます!」
「そ、それは困ります!」
「え? なんでですか?」
「それは……と、とにかく困るんです! なんとか……そうならないようにできませんか?」
「で、でもっ……オーフィザン様の許可なく、魔法の道具を持ち出すことはできません! それだけは、絶対にダメです!!」
「そうですか……」
呟いて、ブレシーは僕に迫ってくる。つられて数歩下がると、背中に壁が当たった。
「ブレシー??」
「僕も……どうしてもあれを持っていかないとダメなんです! そのためならっ…………!」
どうしたんだろう……ブレシー、辛そう……僕まで苦しくなりそうだ。
心配になって、僕は彼の頬に手を置いた。
「………………大丈夫ですか?」
「え…………?」
「なんだか苦しそうです……大丈夫ですか?」
「……」
「猫じゃらしなら、僕がオーフィザン様に頼んでみます!! だから、任せてください!」
「……クラジュ……」
「だってブレシーは僕の友達だし、オーフィザン様の大事なお客様ですから!」
「…………」
ブレシーは、少し黙って、僕から離れた。そしてこめかみをおさえてため息をつく。
「……あなたといると、毒気を抜かれてしまいます……」
「え??」
「…………すみません。怖がらせるようなことをして」
「……? 僕、怖くないですよ?」
「そ、そうですか? と、とにかく、失礼しました」
彼が僕に頭を下げる。一体、どうしたんだろう……
「猫じゃらしのことは、僕がオーフィザンに……」
彼が言いかけたところで、突然物置の扉が吹き飛んだ。
そして恐ろしい顔をしたオーフィザン様が入ってきて、ブレシーの首根っこを捕まえてしまう。
「僕がオーフィザンに? 俺に何か用か?」
「お、おおおオーフィザン!! ち、ちがっ……違うんです!! ぼ、僕は何もっ……」
「弁解なら十秒だけ聞いてやる…………その間に俺を納得させられなければ、殺す」
「おおおお落ち着いてください!! ぼ、ぼぼぼ僕は何もっ……こ、こここれには深い訳があるんです!!」
オーフィザン様が本当に魔法の短剣を左手に握り出しちゃって、僕は慌ててオーフィザン様の腕に飛びついた。
「オーフィザン様! やめてください!! ブレシーが怯えています!!」
「クラジュ! なぜ止める! こんなところへ連れ込まれたんだぞ!」
「え? だ、だって…………お、オーフィザン様!」
本当にオーフィザン様は今にもブレシーを絞め殺しちゃいそう。ブレシーは苦しそうに言った。
「お、落ち着いてくださいっ……ぼ、僕はただ、猫じゃらしをっ……クラジュに頼もうとしただけで……」
「猫じゃらしだと…………貴様ああああああっっ!! 俺の猫をあれで弄ぶ気だったのか!!??」
「それはあなたですよね!? 僕をあなたたちと一緒にしないでください!」
「やはり殺す! 今すぐここで殺す!!」
ど、どうしよう! 本当にオーフィザン様、ブレシーを刺しちゃいそう!!
騒ぎが聞こえたのか、笹桜さんも飛び込んできた。
「オーフィザン!? な、何をしているんだ!?」
「黙れ笹桜!! お前もグルか!?」
「な、何を言っているんだ!?」
「離せっ!!! 俺の猫に手を出す奴は許さん!!」
うわああああ! オーフィザン様、本気で怒ってる!!
「お、オーフィザン様!! やめてください!! オーフィザン様!!」
「クラジュ…………」
僕と笹桜さんで止めると、オーフィザン様はやっと、ブレシーを離してくれた。
ブレシーは咳き込んで、その場に座り込む。
オーフィザン様は、腕を組んでまだ苛立っている様子で口を開いた。
「クラジュに免じてあと少しだけ弁解を聞く。なぜこんな真似をした?」
「そ、それは…………その……」
「話さなくてもいいんだぞ」
「話します! 話すからその剣をおろしてください! 僕は……陛下に頼まれたんです!」
「なに……?」
「あの猫じゃらしのことを知った陛下が、欲しいって言い出しちゃって…………しかも、他の貴族にまであれのことを話したらしく、何人もあれを手に入れたいという人が出てきてしまったんです。でも、城からの再三の報告書の請求で、あなたはへそを曲げていたし、ろくに陛下に会おうとしないから……だから僕が来たんです……でも、キュウテは魔法の猫じゃらしを嫌がるだろうし、キュウテの友人であるクラジュを溺愛するオーフィザンが、僕がそう言ったところで、素直に渡してくれるとは思えず……さ、笹桜さんに泣きついたんですうぅぅー……」
「……泣くな……」
彼が涙を流し始めて、さすがに心配になったのか、オーフィザン様はハンカチを渡す。
「ありがとうございます…………そ、それで、笹桜さんは、以前より良いものができれば、城の人が嫌がることもなくなり、オーフィザンも作ってくれるんじゃないかと言って、僕と一緒に来てくれて……だ、だけど、あなたは作らないなんて言い出しちゃうし、く、クラジュを利用しようとしたことは認めます! でも、あれがないと僕、城に帰れないんですっ!! お願いします! 余ってるの一本でも良いんです! な、なんならそのへんの猫じゃらしに適当に魔法をかけて、それっぽく見えるものを作ってくれればそれでいいです!!」
ますます泣き出しちゃうブレシーの肩に、オーフィザン様がぽんって手を置く。
「……そういうことなら早く言え」
「オーフィザン……用意してくれるんですか!?」
「あれはもう作らない」
「そんなっ……お、オーフィザン! 報酬なら望むだけっ……」
「代わりに、俺が城に出向いて話をつけてやる」
「……は?」
「ちょうど報告書の件で話をしたかったんだ。クラジュとのデートのついでに、城まで行ってやる」
「それは困ります! あなたがその顔で城に来たら何をするかっ……や、やめてください!!」
「安心しろ。お前に手は出させない」
「オーフィザン!! 僕はそんな心配をしているんじゃありませんっっ!!」
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