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番外編12.俺に懐かない猫に好かれる方法を教えてくれ
139.そっちじゃない!
しおりを挟むなんとか芝も大人しくなって、ほっとしたところへ、キュウテが僕に手を振りながら駆け寄ってきてくれた。彼が持ってるの、僕がペロケにとられたクッキーの包みだ!
「クラジューー!! 大丈夫ーー?!」
「うん! キュウテっ! それ……」
「ペロケさんに返してもらったんだ! こっちにくる途中、ペロケさんに会って、オーフィザン様が言ったら、返してくれたよ!」
「よかったああ! ロウアルさん!」
ロウアルさんに振り向くと、彼は地上に着くなり、さっとフィッイルを離しちゃう。
だけどフィッイル、まだ怖いみたいだよ? 今にも泣きそうで、ずっと俯いている。
彼のそんな顔を見て、ますますロウアルさんは焦ってる。彼の前でおろおろしてて、近づけないでいた。
「フィッイル? なんで泣くんだ!? どっか痛いのか!? ま、また怖がらせたのか!? フィッイル!?」
僕とキュウテも、彼のそばに駆け寄った。
「フィッイル! 大丈夫!?」
「……うん……」
フィッイル、まだ震えている。僕はさっきオーフィザン様に抱きしめてもらったからもう大丈夫なんだけど、死にそうな目にあったんだし、まだ怖いよね……
「フィッイル……僕とあったかいとこ、行こう?」
「……うん……」
フィッイルはまだ震えているけど、頷いてくれた。彼の手を引いて行こうとしたら、突然、後ろからロウアルさんが、彼をぎゅって抱きしめた。
「え……!? ろ、ロウアルっ……!?」
急に背後から抱きしめられて、振り向こうとしたフィッイルを、ロウアルさんはますます強く抱きしめる。
「ごめんっ……またびっくりさせて…………でも俺っ……フィッイルが泣いてんのも震えてんのも嫌だっ…………な、泣かないでくれっ…………」
「…………っ!」
たどたどしいけど、強い言葉。それと一緒に抱きしめられて、フィッイルの目から、ポロポロ涙が落ちる。
フィッイルはよく強がるし、泣くの、我慢してたんだ……
だけどついに彼が泣き出しちゃって、ロウアルさんは慌てて手を離して、彼からも離れちゃう。
「ご、ごめん! そんなに嫌だったか!? 泣くほど嫌か!? また泣かせたのか!?」
「ロウアルさん!! フィッイル、泣いてるし、もう少しそばにいってあげたほうがいいよ!」
僕は彼に小声で言ったけど、彼は動こうとしない。
「そんなことしたらますますフィッイルが泣くだろ!」
「だ、大丈夫だよ! 僕はオーフィザン様に抱きしめてもらって嬉しいもん!」
「お前とオーフィザンはもう結婚までしてるだろ! 俺らはまだ手どころか目を合わせるところからまだだぞ!! そばによると泣かれるレベルなんだ!! 俺があんなことしたから怖がってるのにっ……できるわけないだろ!」
「それはロウアルさんの誤解だよ!!」
いくら言っても、ロウアルさんは首を横に振ってる。もう! こっちも強情!!
そんな彼の頭に、一匹の猫が飛び乗った。さっきの芝の猫だ。
「うわっ……!? なんだ!?」
「その子、さっきフィッイルの魔法で出てきたんだ」
僕が答えると、彼は猫さんを抱き上げる。
「フィッイルの猫か……フィッイルの魔法なだけあって、可愛いな……」
彼は猫だと平気なのか、抱き上げた猫さんの頭を撫でてる。
だけど、突然、フィッイルはロウアルさんから猫さんを取り上げちゃった。
「ふ、フィッイル? どうしたんだ?」
「なんで僕が泣いてるのに放っておくの!? そっちは抱っこするのに!!」
「は!? だ、だって……俺が抱っこしたら、お前また怖い思いするからっ…………っ!?」
辛そうに彼が叫ぶ途中、フィッイルは彼の服を掴んでその胸に頬を当てる。
「ふ、フィッイル!?」
突然フィッイルが自分の胸に飛び込んできて、ロウアルさんは真っ赤だ。
「フィッイル……? ど、どうしたんだ!? 怖くないのかっ……!?」
「……怖くないからっ……僕も……猫みたいにしてっ……!」
「え…………あ…………い、いいのか……?」
「……」
無言のまま、フィッイルは頷いた。
ロウアルさんの手、まだ震えている。だけどその手を、そっとフィッイルの背中に回す。さっきフィッイルを後ろから抱きしめたときとは違う、飴細工に触れるみたいに、すごく優しく。強く抱きしめても、フィッイルは壊れちゃったりしないのに……
そんな優しい腕に包まれて、フィッイルの方がずっと強くロウアルさんにしがみついちゃってる。
「ふ、フィッイルっ……」
ロウアルさん、真っ赤……そこは変わらないけど、フィッイルと話せるようになったから、ちょっとくらいは力になれた……かな?
フィッイルの手から離れた猫さんは、僕の方に飛びついてきた。抱き上げて撫でると、僕を見上げてにゃあって鳴く。
「猫さんは僕が抱っこしてあげるね」
だけど猫さん、すぐにロウアルさんの方に戻って行っちゃう。彼の方がいいのかな……?
僕とキュウテも彼らに近づいて、ロウアルさんにクッキーの包みを差し出した。
彼は包みを受け取って、フィッイルと向き合う。
「フィッイル! 俺とっ……俺とクッキー食べて寝よう!!」
「嫌」
「……」
…………あ、あれー……? お、おかしいな……うまくいくと思ったのに……
きっぱり断られて、ロウアルさんは固まっちゃう。
…………ロウアルさん、死にそうな顔してる……ど、どうしよう…………
僕とキュウテまでその場で固まっちゃった。
だけど、動かないロウアルさんから、フィッイルはクッキーの包みを受け取って、彼を見上げる。
「クッキーは食べる……だけど怖くて眠るのは無理……」
「こ、こわ……怖? 怖かったのか? お、俺がか……」
「違う!! クラジュの部屋でクッキー食べるから……そばにいて……」
「へ!? いいのか!?」
「芝が来たら追い払って……」
「お、おう! なんでも追い払ってやる!!!! なんでも追い払う! あ! でもこの猫は一緒でいいか!? 懐いてくれてるから……」
「だ、だめ!! なんでその猫気に入っちゃうの!?」
「だって懐かれて……ダメなのか!? な、なにがダメなんだ!?」
「ダメなの!」
フィッイルに強く言われて、ロウアルさん、困ってるけど……ちょっと嬉しそう……
キュウテもホッとしたのか、笑顔で僕に振り返った。
「僕らは別の部屋で食べようかー」
「うん……あ! キュウテ! 後ろ!」
「え? ……わ!!」
いきなり後ろから抱きしめられて、キュウテはびっくりしてる。彼を両腕で強く抱きしめたのは、お城の方から走ってきてくれた陛下。
「キュウテ……先に行くな。危ないだろう」
「し、知らない! 離してください!!」
「……まだ怒っているのか?」
「さっきもう嫌いって言ったでしょう!」
「……」
「陛下なんか……もう……」
「……化け猫を迎える話は嘘だ」
「は!?」
「……お前に最近あまりにもかまってもらえなくて、そう言ってしまったんだ」
「はあ!? し、信じられない…………ひどい!! そんなバカみたいな嘘ついて!!」
「すまん……俺にはお前だけだ」
「……し、知らないっ!! もう知らない!! 陛下なんか嫌い!! もう当分口利かない!」
「後宮は廃止する」
「え…………う、嘘!! もう騙されません!! そんなことっ……! どうせできないくせにっ!!」
「俺にはお前だけだ。お前以外には何の興味もない。俺には……お前だけでいい」
「……本当?」
やっと振り向いてくれたキュウテを見下ろし、陛下も嬉しそうに笑う。大好きな人に抱きしめてもらえて、キュウテも笑顔だ。
よかった……
ほっとする僕を、大きな腕が包んでくれる。
「オーフィザン様……」
「……お前は後で仕置きだ」
「え!? えええっ!!?? な、なんで僕だけ……」
「騒ぎを起こしただろう?」
「うううー…………」
お仕置きっていう時のオーフィザン様は、いつもすっごく楽しそう。お仕置きは嫌だけど、ぎゅって抱きしめられたら、なにも言えなくなっちゃった。
庭で芝がいっぱい伸びちゃった次の日。
僕とフィッイルは、芝を植え直すお手伝いをすることになった。
「あーー!! なんで僕がこんなことしてるの!?」
フィッイルが叫びながら、芝がたくさん入った大きな木箱を運んでいる。僕はそれを運ぶと絶対枯らすと言われて、ただの水が入ったバケツを持って彼についていった。
「フィッイルー。バケツ重いけど、芝生、綺麗になったじゃん!」
朝は僕とフィッイルとロウアルさんで、キャティッグさんを手伝って水や芝を運んで、昼からはオーフィザン様も加わって、僕らが穴をあけちゃった芝生を元どおりにしてくれた。
オーフィザン様もいっぱい褒めてくれたし、嬉しい!!
「キャティッグさん、嬉しそうだったし、よかったね!」
「僕、芝なんかどうでもいい! お部屋でクッキー食べる!!」
「待ってよー! 今日、僕が芝を植えた記念で、ダンドがクッキーいっぱい焼いてくれてるんだ!! 僕の部屋でお昼寝しながら食べよう!!」
フィッイルと話しながら歩いていたら、後ろから、フィッイルの猫さんと、猫さんより小さくなった竜の姿のロウアルさんが、空になった木箱をいくつも重ねたものを軽々持ち上げてついてくる。
「クッキー! 俺もいくぞ! フィッイル!!」
フィッイルは彼に振り向いて、ちょっとだけ頷いた。
「うん……」
「フィッイルー……」
ロウアルさん、すごく嬉しそう……
ロウアルさんは、僕が、いきなり大きくなったらびっくりするって言ったのを、大きいとびっくりするって受け取ったみたいで、今日は朝から小さい竜の姿のまま。
ロウアルさん、フィッイルのそばにいられて嬉しそうだし、フィッイルも、まだ戸惑ってるみたいだけど、朝からずっと、ロウアルさんのそばにいる。
二人が以前よりそばにいて、僕も嬉しい!
「今日はダンドが竜の形のクッキーも焼いてくれたんだ!! 天気もいいし、お昼寝しながら食べたらきっと美味しいよっ…………わああああ!!」
話しながら歩いていたら、バケツを蹴飛ばして転んじゃう。
だけど、僕が倒れる前に、バケツもこぼれそうになった水も、フワって浮いた。オーフィザン様の魔法だ!
倒れそうになった僕を、彼は抱き上げてくれる。
「やると思った」
「うう…………ありがとうございます……」
「後で仕置きだ」
「またですかあ……」
お仕置きは嫌だけど、やっぱり、オーフィザン様にこうされてると、すごくあったかい。
ぎゅうってオーフィザン様にしがみつく僕を、ロウアルさんが見上げて言った。
「フィッイル! 俺も抱っこしてやろうか!?」
「嫌」
「……」
あっさり断られて、がっくりしちゃうロウアルさん。
だけどフィッイルは、少し赤い顔をして彼に振り向いた。
「抱っこはいいから……クッキー……一緒に食べに行きたい…………」
「ほ、本当か!? 行くぞ! どこでも行く! クラジュー! 早く行くぞーー!」
有頂天で飛んで行っちゃうロウアルさん。
その後を、フィッイルが待ってって言いながら追って行って、僕もオーフィザン様も、彼らと一緒にお城に戻った。
*番外編12.俺に懐かない猫に好かれる方法を教えてくれ*完
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