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27.お礼言わなきゃ!
しおりを挟む朝になって、オーフィザン様のふかふかのベッドの上で目を覚ました僕は、これからどうしようか考えていた。
……ど、どうしよう……僕、オーフィザン様との約束を破って、気絶したんだ。結局僕、全然オーフィザン様に満足してもらえてない!! だって僕は、オーフィザン様の性奴隷なのに、一回も抱かれてない!!
部屋には僕しかいない。きっと、オーフィザン様、先に起きてどこか行っちゃったんだ。
絶対後で怒られる……まずいなあ……ううう……辛いの嫌だ……うん。後のことはなるべく考えないようにして、今は寝よう!! このベッド、気持ちいいし!!
ずーっと寝ていたいのに、なんだか外が騒がしい。何かあったのかな?
窓から外をうかがうと、果樹園の方から、たくさんの果物を入れたカゴを持った人たちが、城の方に向かって走って来ている。
あ、ペロケもいる! 大きなカゴを抱えて、すごく忙しそう。多分、ご馳走の準備をしているんだ。もしかして、誰か来たのかな?
えーっと、僕は何かしなくていいのかな? もう少し、布団の中にいたいけど……なんだかさっきから頭とお尻がムズムズする。
あ、頭、何かついてるのかな? あれ? 猫耳、いつもと触り心地が違う。なんだろう?
鏡に駆け寄ってみた。え……え?
「み、耳ーーっ!!」
ひとりなのに、叫んじゃった。だって、いつもは猫の耳があるところに、狼の耳が生えている。お、お尻にも、狐の尻尾、生えてる!!
狼の耳に、狐の尻尾……元の僕だ!! でも、なんでいきなり耳と尻尾が戻ってきたんだろう……? もしかして、オーフィザン様が魔法を解いてくれたから!? それなら、オーフィザン様にお礼言わなきゃ!!
僕は部屋を飛び出した。
城の中は、いろんな人がバタバタ行き交っていて、本当に忙しそうだった。いつもは朝からこんなに慌ただしくない。朝の挨拶だって、会う人みんながするのに、今日はそれどころじゃないみたい。掃除をしている人はいつもより念入りだし、食材やテーブルクロス、新しいカーテンを運ぶ人も、みんな駆け足だ。
やっぱり誰か来るんだ。多分、いつもとは違う、特別な人なんだろう。
だけど、僕はそれより、とにかくオーフィザン様に会いたくて、城の中を走った。たまにいつもと違う僕を見てびっくりする人もいたけど、今はそれを気にしている場合じゃない。
オーフィザン様、どこだろう……
キョロキョロしながら走っていると、前の方から、驚く声がした。
「く、クラジュ!?」
「あ、ぺ……ペロケ……」
廊下の真ん中に立ったペロケは、大きなスイカを持って、僕を見て目を丸くしていた。
「クラジュ……それ……」
「あの、ペロケ、オーフィザン様、どこにいるか、知りませんか?」
「オーフィザン様なら広間に……そ、それより、クラジュ、その耳……」
「これ、本当の僕の耳なんだ!!」
彼に笑顔で言って、広間へ急いだ。
広間に近づくごとに、廊下を忙しそうに走る人も増えていく。彼らにぶつからないように注意しながら走って、やっと広間の扉が見えてきた。
あれ? 扉の前に、見覚えのない人たちがいる。兵士みたいな格好をしてる。もしかして、あの人たちがお客さん?
僕は扉に近づこうとしたけど、扉の横に並んだ兵士さん達に止められた。
「待て。何の用だ?」
何の用だって……僕はここに住んでいて、ここで働いているのに、なんでお客さんに通せんぼされなきゃいけないの?
「あ、あの……オーフィザン様に会いたいんです! どいてください!」
「オーフィザンに何の用だ?」
「え……み、耳のことを報告したくて……」
「耳?」
兵士さんが首をかしげると、隣にいた兵士さんが、僕の耳をつまんで言った。
「お前……狐妖狼族か?」
「はい……み、耳、触らないでください」
「オーフィザンは今、陛下と話をしている。用なら後にしろ」
「え……へ、へいかって……」
何を言っているのかわからなくて、たずねようとしたところで、後ろからシーニュの怒鳴り声がした。
「クラジューーーーっっ! このばか!!」
「いた!」
痛い……なんでいきなり後ろから頭殴るの!?
振り返ろうとしたけど、それより先にシーニュは、僕の頭を無理やり床におさえつけ、彼自身もその場にひれ伏した。
「申し訳ございません!! こいつ、ものすごいバカで……今からこいつが剥製になって詫びるので、どうかお許しください!!」
「し、シーニュ……痛い……」
一体、シーニュ、どうしたの?
聞きたいけど、シーニュはそれどころじゃないみたい。こんなに焦るシーニュは初めてだ。
どうしていいか分からないでいると、唐突に、広間の扉が開いた。
そこには、オーフィザン様と、もう一人、知らない人が立っている。オーフィザン様と同じくらいの背丈で、すごく綺麗な格好をしていた。
この人がお客さん? 初めて見る人だ。
その人は、扉のわきで跪いている兵士さんにたずねた。
「騒がしいぞ。なんの騒ぎだ?」
「申し訳ございません。この者が広間に入りたいと申しておりまして、それを止めておりました」
それを聞いて、オーフィザン様が僕の方を見下ろす。僕がいることに気づかなかったのか、ちょっとびっくりしているみたいだった。
「クラジュ? お前、何をしている?」
「え、えっと……あの、み、耳が……」
僕は耳を触って見せた。だけどオーフィザン様は何も言ってくれない。
今度は、お客さんが僕の耳と尻尾を見て言った。
「オーフィザン、これが例の狐妖狼か?」
「ああ。クラジュだ」
「……猫耳はどうした?」
ぼ、僕に聞いているのかな?
「あ、あれは朝起きたらなくて……」
戸惑いながら答える僕だけど、今度はオーフィザン様のそばに控えていたセリューに、すごい勢いで頭をおさえつけられた。
「この無礼者!! …………貴様、陛下に対してなんという口を……」
え、へ、陛下? え? え? この人、もしかして、この国の王様!?
なにがなんだか分からなくて、セリューに頭をおさえられたままでいると、オーフィザン様がセリューを止めてくれた。
「セリュー、離してやれ」
「し、しかし……」
「構わん。そいつに話がある」
「……」
納得はしてないみたいだけど、やっとセリューは僕から離れてくれた。だけど、僕はますますどうしていいか分からない。だって相手は王様だ。
へ、変な態度とったら殺されちゃうのかな……?
王様は僕を見下ろして、不思議そうに言った。
「耳は元に戻ったのか? 尻尾もあるな……」
え? え? も、戻ったらダメだった?
慌てて手で耳を隠す。
だけど、そばにいたオーフィザン様は満足そうに答える。
「ああ。魔法を解いた。まだ完全ではないが、その影響だろう。後は向こうで話そう。こい、クラジュ」
「は、はい!!」
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