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第四章
34.たまには
しおりを挟む「それで、どこに落としたのか、心当たりはあるのですか?」
フィーレアが聞くと、デスフーイはあっさり首を横に振る。
「全くない…………だけど他の部屋は全部探した! あとはここだけなんだよ!! 絶対ここだ!!」
「あなたの絶対はかなり信用できませんが……だいたい、全部と言いますが、狐や猫たちがよく遊び場にしている屋根裏や庭の小屋はまだなのでしょう?」
「そんなところ、俺、行かねぇもん」
「…………そうですか……」
「絶対ここなんだよ……チイル、寝てるし、今のうちに探すっ!」
「……分かりました。私も探します」
「いいのか!?」
「自分で協力を求めておきながら、なにを言っているのです? それに、あなただけをチイルの部屋に入れて、チイルにいたずらでもされては困ります」
「しねえよ! そんなこと!! 今はそれどころじゃねえし!! したいけど……寝てるチイルに、いたずら……」
「……もう私が探しますので、あなたはここで死んでください」
「待てよ! 俺も探す!! チイルに気づかれないように、音を立てるなよ!」
「そちらこそ、寝ているチイルに必要以上に近寄らないように」
二人で顔を見合わせ、ゆっくりと障子を開く。
部屋は、フィーレアの部屋と似たような感じで、すみに行灯がある以外、明かりはない。暗いが、部屋の様子がわからないほどではない。
部屋の真ん中に、チイルが寝ている布団があって、彼はぐっすり眠っているらしい。彼一人分だけ盛り上がったところが、たまに上下している。
障子を開いたデスフーイが、フィーレアに振り向いた。そして、小声で言う。
「いいか……絶対に、音、立てるんじゃないぞ」
「分かっています。そちらこそ、気をつけてください。寝込みを襲いにきたと思われても仕方ない状況です」
「分かってる! 行くぞ!」
先にデスフーイが、こっそり部屋に入っていき、フィーレアもそれに続いた。
「いいか……絶対に、チイルに気づかれんじゃねえぞ」
「しつこいですよ……」
抜き足差し足で中に入る。
部屋の中を見渡すが、特に瓶らしきものはない。
そもそも、チイルの部屋は、ほとんど何もない。
真ん中の、今、チイルが寝ている布団以外は、行灯と、その下にある、狐たちからもらったらしい簪、あとは押し入れと、床の間の前の小さな箱くらい。
早速、デスフーイが押し入れに近づく。
そこを開いて中を調べているが、なかなか見つからないようだ。
「ないな……奥か? 奥の方か!? なんだこれ……なんだ、シーツか…………なあ!! チイルって、どこに隠すかな!?」
「……チイルは媚薬を隠したりしないと思います。そもそも、あなたがなくした瓶を見ても、その中身がなんなのか、わからないのでは?」
「そうじゃなくて、見られたくないものだよ!! 本とか玩具とか!!」
「……チイルはここにきたばかりで、ここから出たこともないので、そんなもの、持っていないと思います。何をしにきたんですか、あなたは……」
押し入れに積まれた布団の間にあるんじゃないかと、そこをゴソゴソ探るデスフーイを置いて、フィーレアは、床の間の前の箱に近づこうとした。
いかにも大切なものが入っていそうだし、あるとすればそこだろう。
すっかり目的を見失ったデスフーイは放っておいて、さっさと探して部屋を出たほうがいい。
チイルが寝ている布団の横を通ろうとすると、チイルが寝言を言いながら寝返りを打つ。
「ん……」
着ていた浴衣が少し緩んで、彼の肌が見える。つい、その姿に釘付けになってしまい、フィーレアは、チイルの枕元に、腰を下ろした。
最近の彼は、昼間はデスフーイと魔力の玉を追いかけていることが多く、彼の肩には、かすかな傷があった。
魔力の扱いにも、慣れてきているらしい。長い監禁生活から解放され、体が回復してきていることもあるのだろう。最初の頃より、狙いも動きもずっと機敏になり、魔力の玉を捕まえるのも早い。ここへきたばかりの時は、体の中の魔力が、多少滲み出ているような時もあったが、デスフーイとフィーレアの助力もあって、ほとんど使えていなかった魔力が、少しずつ自分の思いどおりに引き出せるようになっていっているようだ。
彼自身も、最初の頃の怯えた様子が薄くなっていき、笑顔も増えてきた。フィーレアやデスフーイが呼ぶと、尻尾を振りながら走ってきてくれるのが、フィーレアには嬉しかった。
寝ているチイルに、手が伸びそうになる。
彼はまた寝言を言って、向こうをむいてしまう。
「…………デスフーイさま…………」
「……」
どうやら、デスフーイの夢でも見ているようだ。
気に入らない。
いつも、「フィーレアさま、デスフーイさま!」と言って走ってくる彼が、デスフーイの名前だけを呼んでいる。
それが悔しかった。
少し、彼の頬を指で突いてみる。
すると、彼はまた何か寝言を言って寝返りを打つ。フィーレアの前では、いつも背筋を伸ばして、従者としての顔を崩さない彼が、こうして、全く無防備な姿をしていると、胸が熱くなる。
そうなると、ますます、自分の名前も呼んで欲しくなる。
たまには自分だけを呼んで欲しい。
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