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46*ロティンウィース視点*俺はあいつに敵いそうにない
しおりを挟む俺は、ディラロンテと対峙して続けた。
「お前が、トルフィレと共に俺の討伐に来た時、気づいたらお前たちはいなくなっていたが、トルフィレとは、あの後出てきた魔物を退治するため、一緒に戦ったんだ。あいつは、傷ついた自分より、俺の仲間を助けて、先頭に立って、巨大な魔物と戦ってくれた。こんな勇敢な奴がいるのかと、俺は驚いたよ。俺が援軍に来たと知った時、あいつは手をついて俺に詫びていたが、そんな必要はなかったんだ。俺は、あいつに感謝していたのだから。魔物を倒して王城に帰ってから、あいつの話を聞いた。あの領主の城には、ひどく悪辣な男がいると。悪辣? あいつが? ふざけるなよ……あんな奴が、悪辣なはずがない。それなのに、聞こえてくるのはトルフィレが横暴に搾取を繰り返し、領地を荒らしているという悪評ばかりだ。貴族たちも皆、それを信じて疑っていない。父上にも、その男を断罪するべきではないかとすら言われたよ。トルフィレのせいで領地は疲弊し、魔物も放置されていると、貴族たちの間でも噂になっていた。だからあの地で魔物が増え、それを退治するための援軍として行ったくせに、魔物を増やした張本人に騙されてどうすると、どいつもこいつも俺を窘める。挙句の果てには、あいつに助けられたはずの俺の部隊の連中まで、殿下は騙されているだけだと言い出した。ディラロンテたちは、領地に残って横暴に振る舞うトルフィレの面倒を見ながら必死に領地を立て直そうと努力しているのに、殿下は何をおっしゃっているのですか、と……ふざけるなよっっ…………!! あの時、俺と共に戦ったあいつが、そんなことをするはずがないっっ…………!! 俺は、お前たちのことも、最初から疑っていた。トルフィレは、自分が勘違いして魔法を撃ったと言って、ひたすら詫びていたが、俺は、お前たちがあいつを騙したのではないかと、そう思っていた。けれど、俺がそう言っても、誰一人、本気にしようとしない。むしろ、そんなことを言い出す俺の方がどうかしているという反応ばかりだ……全く、お前たちはやり方がうまい……すでに貴族たちには、お前たちの手が回っていたんだ。誰もが、あそこで魔物が増えたのはトルフィレのせいで、彼の一族とディラロンテたちはその尻拭いをさせられている被害者だと信じて疑っていない。俺は、周囲の反対を押し切り、ここのことを調べ始めた…………確かに、ここの魔物は、お前たちが来てから減っていたようだが、それは全て、トルフィレに無茶な魔物退治をさせていたからだろう?」
「……知りませんね。そんなこと」
「そうか……」
俺が一歩近づくと、そいつは構えている。魔法を使う気だろが、それは先ほど、俺に全て防がれたばかりだ。どうしようか考えているようだが、俺は、そんなものを待つつもりもない。
「トルフィレが悪徳令息だとはとても信じられなかった俺は、糾弾の材料を集め始めた。まずは、すでに魔物の放置が噂になっていたトルフィレの一族を拘束しようと思ったが、トルフィレを虐げていた一族はすでに逃げた後で、代わりに来たお前たちは、必ず魔物を排除するから待てと言う。トルフィレの一族は暴虐な息子の横暴に疲れ果てているのに、まだ苦しめる気か、それとも、あの一族が魔物を増やした明確な証拠でもあるのかと言って。他の貴族どもも、お前たちの味方。会議になれば、殿下の方こそ少し落ち着かれてはどうですかと言い出す。うまくやったものだなぁ……一番証拠になる連中を隠されたせいで、最初の会議では、トルフィレの一族を拘束することすら認められず、俺の惨敗だった。準備不足を痛感したよ……お前たちは、簡単に捕まえられる相手ではなかったらしい……」
思い出せば、悔しさで気が狂いそうになる。馬鹿だった。この連中を、甘く見ていたんだ。
「俺はまた最初からやり直すことにした。しかし、まずは領地に入らないことには証拠など集められない。しかし、お前たちには魔物退治の援軍を頑なに拒否されている。だから、周辺の貴族への根回しから始めた。だが、誰もがクヴィーディス家は正義だと信じている。トルフィレを悪徳令息だと信じ切った連中には、騙され狂った王子が迷惑なことを始めたと、陰口を叩かれたよ。だが、お前たちの言うことは嘘ばかりだ。疑い始めた奴らを探し出し、協力者を増やすうちに、やっと、お前たちが領地を荒らしている証拠になりそうなものが集まってきた。かなり時間がかかったよ……何しろ、金で買収された貴族もいたが、本気でお前たちを信じていた奴らもいたんだ。特に、隣の領地のヴォーヤジュは、やけに優しい。聞いていた話とは、だいぶ違う。ディラロンテたちも領地のために頑張っているはずだから、いずれ状況が改善されるかもしれないと言っていた。隣町とこことを繋ぐ道も、まだ通ることができる、だから、彼らの顔を潰すような真似はしないでほしいと。ヴォーヤジュは、ここへ俺が来ることにも、最後まで反対していた。だからこそ、街で、隣町から来たラグウーフという男に会えた時はラッキーだった。あいつも、トルフィレが見つけたんだ。ここでもまた俺の負けだな……俺は、あいつに敵いそうにない」
トルフィレのことを思い出すと、少し気持ちが落ち着いた。
肩をすくめる。俺はいつでも、あいつに負けてばかりだ。トルフィレに見合う男になりたいと、いつのまにか、そう願うようになっていた。
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