全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
38 / 90

38.できるよな?

しおりを挟む

 ディラロンテに返事をしながら、僕は、ホッとしていた。彼らが魔物と戦うところは、ほとんど見たことがなかったし、さっき森の中で見かけた時も、やけに疲弊して見えた。だから戦えないのかと思ったけど、この調子なら、彼らは彼らで魔物を倒すだろう。
 何しろ相手は毒の魔物だ。反撃もできなかったら、すぐにやられてしまう。倒れた人の魔力を狙って、また魔物が集まってくることもあるんだ。

 その時、呻くような、引きずるような音が、砦の奥から聞こえてきた。そして奥から、次々あの泥の魔物が出てくる。随分魔物が集まっているみたいだ。毒の魔物の魔力に引き寄せられたのかも知れない。

 全員が、魔物に向かって構えた。

 だけど、敵はそれだけじゃなかった。天井から、魔物の泥に似たものがいくつも落ちてくる。

 見上げれば、天井に空いた大きな穴から、不気味な羽を持つ虫のような魔物が、こちらを見下ろしていた。その周りを、泥のようなものが飛び回り、僕らに向かって降ってくる。魔物の毒だ。街の人たちを傷つけたのはこれだろう。

 あれが、毒の魔物か……

 僕たちは、すでにそれに狙われていたらしい。砦の中に、薄い霧のようなものが広がっていく。毒の魔物の魔力によるものだろう。

「ディラロンテ様!! すぐに解毒しましょう!」

 叫ぶ声を聞いて振り向けば、ディラロンテの取り巻きの一人が倒れている。毒にやられたんだろう。魔法使いの一人が、その人に解毒の魔法をかけるけど、毒は消えない。当たり前だ。周りはすでに毒の魔物の魔力で満ちている。魔物を破壊しない限り、解毒なんてしても無駄だ。

「なっ……なぜ、こんなっ……!!」

 慌てて喚く彼らだけど、そんなことしてたら、魔物に襲われる。実際、喚いていた人たちは次々降ってくる毒に襲われたり、毒にやられたりして、動けなくなっていく。

 先に毒の魔物を倒せば、解毒の魔法だって効くはずだ。

 僕が魔物に向かって魔法を放つと、魔物は怯んで、穴が空いた天井の陰に隠れていく。

 だけど、きっとまたすぐに襲ってくる。

 それを見上げていると、ディラロンテが僕に向かって喚いていた。

「貴様っ……トルフィレ!! なぜ貴様は動ける!!!!」

 怒鳴られても、もううるさいだけなので、聞かなかったことにする。
 このままじゃ、魔物が逃げてしまう。そしたら解毒も難しくなる。

 飛びかかろうかと思ったその時、崩れた天井から光る鎖のようなものが生えて、毒の魔物に巻き付いた。

 いつのまにか、割れていたはずの窓も、全部元通りになって、壊れていた砦の扉も元通りになってバタンと閉まった。
 これは、鍵の魔法だ。敵を狭い範囲に閉じ込めるためのもので、これでもう、他の魔物も、屋外にいる毒の魔物ですら、ここから逃げられない。

 殿下に振り向くと、彼は「これで逃げないだろう?」と言って微笑んだ。

「じゃー、とりあえず、ここにいる魔物、一掃するか! これで、魔物は逃げない。さあ! 魔物退治だ。そこに寝ている奴らも。トルフィレを役立たず呼ばわりしたんだ。できるよな?」

 殿下に振り向いて聞かれて、ディラロンテが怒鳴った。

「ふざけるな!! ど、毒の魔物が出ているのにっ……鍵の魔法を使ってしまっては、私たちも出られないではありませんか!」
「それは、勝てないと認めているのか?」
「ぐっ」

 彼は悔しそうだけど、むしろ、譲ってくれるならありがたい。

 僕は、殿下に振り向いた。

「じゃあ、あれ……僕が捕獲するので、どうか……ここは任せてくれませんか?」
「いいのか?」

 殿下が聞いてくれて、僕は頷いた。

 キャドッデさんに渡してもらった短剣に魔法をかけて、魔法で天井まで飛ぶ。
 魔物が僕に向かって放つ毒を避けて、短剣を武器に魔物の体に飛びかかる。それで羽を切りつけ魔法をかけると、魔物は次第に魔力を失い、小さくなって崩れていく。それを、魔法を使って集めて、全部鳥籠の中に突っ込んだ。
 僕の体が回復して、鳥籠の修理もちゃんとできたみたい。こんなに巨大な魔物が回収できるなんて。

 殿下が「さすがだな」って言って褒めてくれて、僕はお礼を言いながらも顔をそむけてしまった。殿下に褒められると、やっぱり嬉しい……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

処理中です...