全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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25.ダメです! 危険です!

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 そんなことを話している間にも、店からは怒声が聞こえてくる。

 その様子を心配そうにうかがいながら、レグラエトさんは、僕らを追い出すように手を振った。

「ほら!! 帰れ帰れっっ!! こんなところにいて、何されても知らねーぞっっ!!」

 怒鳴るレグラエトさん。だけど、倉庫の中の怒鳴り声は、どんどん大きくなっていく。

 もう脅迫同然の声で、ブラットルは、パーロルットさんを怒鳴りつけていた。

「貴様っ……! いつまで待たせるんだ!! 俺は街で増えた魔物を倒してやっているんだぞ!!」
「……存じ上げております……」
「だったらなぜ武器の用意ができていない!!?? 一体、どういうつもりだ!!」
「どうと聞かれても困ります。そんなものを用意するには物資が足りないと、昨日申し上げたはずです」
「この後に及んで言い訳か…………街を守る気があるとは思えないなあ!」
「そう言われましても」

 受け答えをするパーロルットさんは、冷静そのもの。彼はこの店の店主で、いろんな商会とも懇意にしていて、貴族にも、彼を頼りにしている人がいるらしい。それに対してブラットルが「平民のくせに気に入らない」と言っていたことを思い出した。

 倉庫の中の様子をうかがうラグウーフさんも、ひどく心配そうに、レグラエトさんを見上げて言った。

「……だ、大丈夫かな……パーロルットさん…………ブラットルの奴……自分だって平民のくせに、パーロルットさんをいじめるなんて……」
「パーロルットさんが、貴族と関わりがあるのが気に入らないんだろ……クソがっ……!! あいつだって、パーロルットさんに武器を工面してもらってたのに!! 嫉妬もいいところだ!!」

 怒りを込めて言うレグラエトさんは、今にも倉庫に飛び込んでいきそう。

 倉庫の中のブラットルは、ついにパーロルットさんに掴みかかる。それを見て、レグラエトさんは「もう俺が行く!」と言って出て行こうとしたけど、すぐにそれをラグウーフさんが止める。

「待って!! こ、この前も殴られたばかりじゃないか!! だ、だいたいっ……腕だって、まだっ……」

 レグラエトさんは、「もう治った!」なんで怒鳴っているけど、腕に包帯を巻いていた。

 それを見て、ロティンウィース様がたずねる。

「それは……あの男に切られたのか?」
「……あいつは、昔っから乱暴だったんだっっ!! それだけだ!!」
「……」
「ほら。早く帰りな!! そこの悪徳令息も! 失せやがれ!!!! お前が来ると、ブラットルがますます暴れる!!」

 だけど、ブラットルはどんどんヒートアップして、「俺の言うことが聞けないなら、ディラロンテ様に話して一人処刑してもらおうか?」なんて、喚いている。

 このままじゃ危ない。中に飛び込んで行こうとした僕だけど、僕の肩を、殿下が掴んで止めた。

「俺が行く」
「だ、だめです!! ロウィスっ! き、危険です!! ブラットルは、本当に乱暴で、すぐにディラロンテたちに泣きつくんですっ! 僕が出て行けば……あいつはきっと矛先を僕に変えますからっ……!」

 出て行こうとした殿下を慌てて止める僕と一緒に、レグラエトさんもロティンウィース様を止めにかかる。

「そうだよ! やめな!! 危ないよ!!」
「さっきからあの男が喚いている武器とはどんなものだ?」
「魔物から身を守れるくらいの魔力を持った剣だ……普段なら、そういうものも取り扱っているが、そんな高性能の武器なんて、すぐに用意できないっ…………作業場の方が急いで新しい武器を用意してるけど、魔力が足りないんだっ……! そう説明したのに……」
「そうか……」

 すると殿下は、僕に振り向いて言った。

「あっちのうるさい男は俺。トルフィレは、あっちを頼む」

 そう言って、殿下は、僕らが歩いてきた街道の方を指差した。
 そっちに振り向くと、キャドッデさんが、こちらに向かって走ってくるのが見えた。

 彼に気を取られているうちに、殿下は僕の手をすり抜け、店に入っていってしまう。

 殿下!!?? バレないようにって、朝聞いたばかりですが!!??
 だけど殿下は、なんだか怖いくらいの笑顔で、ブラットルに近づいていく。

「騒がしい奴だなー。なんの話だー?」
「なんだお前は!!」
「傭兵だよ。傭兵」
「傭兵!? 昨日アフィトシオ様のところに来た奴か!!??」

 どうしよう……このままじゃ、殿下が危ない。

 もう我慢できずに飛び出そうとするけど、いつのまにか人の姿になっていたフーウォトッグ様に、腕を掴まれ止められてしまう。

「ここは、ロウィスに任せてください」
「でもっ……!」

 倉庫に振り向くと、喚き散らすブラットルを、殿下が、妙なくらいにのんびりした口調で相手している。

 その間に、キャドッデさんがレグラエトさんのところまで走っていた。

「おーい! レグラエト!!」
「キャドッデ!? 遅いぞっ……お前!! どこ行ってたんだ!!」
「ごめんっ……! 色々集めてたら遅くなった!! これ……」

 彼は、担いでいた大きなカバンの中から、今朝僕が渡した魔物の泥が入った袋を取り出す。

 レグラエトさんはそれを見て、大きな声を上げた。

「どっ……どーしたんだ!? これ!! ま、魔物の泥か!?」
「ああ……これさえあれば……なんとかなるっ……!!」
「だ、だけど、どうしたんだよっっ!! す、すごい魔力だ……こんなもん……普通手に入らないだろ……どこで手に入れたんだ!?」
「そ……それが……これはっ……うわぁっ……!!」

 キャドッデさんは、僕がいるのに気づいたらしく、驚いて大声を上げた。

「と、トルフィレ様!?? こんなところで何してるんですかっ!??」
「す、すみませんっ……僕…………う、裏口から入る予定だったんですけど……」
「あ、武器でしたね……すみません……少し待っててもらえますか? 今……」

 状況を説明しようとしたキャドッデさんの言葉を遮り、レグラエトさんが僕の胸ぐらを掴み上げる。

「まだいたのか!! 失せろって言っただろ! 殴られたいのか!? それともまさか、あいつと一緒になってここの武器根こそぎ持ってこうって魂胆か!! ブラットルの手下に成り下がったのか!?? ああっっ!!??」

 怒鳴る彼だけど、その手を、キャドッデさんが掴んで止めてくれた。

「や、やめてくれ!! レグラエト!」
「なぜ止めるんだっ!!」
「やめてくれっ……! それはっ……! トルフィレ様がくださったんだ!」
「え…………………」

 レグラエトさんは、よほど意外だったのか、しばらく固まっていた。そしていきなり大声を出す。

「はあーーーーっっっっ!??? このクソ野郎が!?? てめえっっ!! そんなことしてやがったのか!??」
「は、はい…………す、すみません! あのっ……下ろして……」

 耳元で怒鳴られながら、弱々しく言うと、レグラエトさんは、僕をやっと下ろしてくれた。

「クソ野郎が……なんでこんなものを…………」

 ……ついに悪徳令息からクソ野郎になった……もう、なんでもいいけど…………

 とりあえず、下ろしてもらえて、数度咳き込んでから、僕は、レグラエトさんに振り向いた。

「それ……あの、昨日の魔物退治の時に手に入れたもので…………キャドッデさんに差し上げたんです……」
「さっっ!!?? さ!? 差し上げた!??? 差し上げたって……そ、そんなわけないだろ……こ、こんなもん差し上げられるもんじゃねーぞっっ!!」
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