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後日談

90.お前が

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「フィーディは俺のなのにーーーー」
「う……ヴァグデッド…………く、苦しい……」

 そう言っているのに、ヴァグデッドは俺をぎゅっと強く抱きしめて、離してくれない。「フィーディは俺のだ」って繰り返して、俺に頬を擦り寄せてくる。
 そんなことを気持ちいいと思ってしまう俺は、どうかしてるんだっ……! だって本当は痛いくらいなのにっ……! しかも、みんな見てるのにっ……!!

 ティウルが腕を組んで不満そうに言う。

「ヴァグデッドばっかりずるーい。僕だってフィーディの親友なのに! 僕もフィーディを抱きしめたいー」
「てぃ、ティウル………………それなら私が……」

 そう言って、キラフェール殿下がティウルに一歩近づいていくのに、ティウルはまるで気づいていない。ずっとヴァグデッドと言い合いを続けている。せっかく、主人公の恋愛がうまくいくチャンスなのに。

「ティウル…………あ! あの……殿下の話も聞いてあげてくれ……」
「殿下の?」

 ティウルがキラフェール殿下に振り向くと、キラフェール殿下は恥ずかしいのか、すぐに顔をそむけた。

「ティウル…………無事でよかった……」
「殿下こそ……ぼ、僕、公爵閣下が来るって聞いて……フィーディのことも殿下のことも連れて行っちゃうんじゃないかと思ったら、怖くて……あの……すみませんでした……今朝は言いすぎたました…………一緒に公爵を殺してくれないなら殿下の方を先にやっちゃいますよ、なんて……無礼すぎました……」
「そんなこと! 全然気にしないでくれっっ!!」

 ……殿下……全然気にしなくていいのか? 先に殺すぞって言われてるのに、なんで嬉しそうにしているんですか。

 どうやら、すっかりティウルに溺れきっているようだ。

 すると、殿下は今度は俺に向き直る。

「……ティウルのおかげでいい解決策が見つかった……」
「え? 僕の?」

 ティウルは首を傾げている。

 突然視線を向けられた俺は、もっと訳がわからなかったし、急に怖くなってきた。

 な、何で俺を見るの!?? 俺を使って何かするつもりじゃないだろうな!

 怯える俺に、キラフェール殿下はニヤリと笑う。

「フィーディ・ヴィーフ……貴様など、この城からいなくなっても一向に構わない存在だと思っていたが……どうやら、違うようだ」
「……え?」
「貴様はこの城にいる者たちにとって、なくてはならない存在らしい」
「殿下……」
「そして、私にとってもそうだ」
「…………そ、そんな……俺なんか……」

 まさか、キラフェール王子殿下にそんなことを言ってもらえるなんて、思わなかった。
 内心感動してしまいそうな俺の肩に、キラフェール殿下は、ぽんっと、両手を置く。

「フィーディ・ヴィーフ……そうだ……貴様も公爵家だったな……たまに忘れてしまいそうになるが……」
「へ!? あ、は、はい……まあ……い、一応…………わ、忘れてもらってもいいですよ……? お、俺なんて、公爵家ではいないも同然だったので…………」
「何を言っているんだ。貴様は立派な公爵家の一員だ」
「は、はあ……」

 ど、どうしちゃったんだろう……キラフェール殿下……急にそんなこと言い出して。

 今日は俺を見下ろす目がすごく怖い……笑顔なのに、すごい迫力だ。

「フィーディ・ヴィーフ……貴様が公爵家の当主になれ」
「…………はい?」
「聞こえなかったのか? 貴様があの男を倒し、公爵家の当主になるんだ」
「……………………はい?」

 何を言ってるんだろう……殿下は。父上を倒して? 俺が、当主?

 何かの冗談かと思ったけど、殿下の目が本気に見えるくらい怖くて、俺はまた震え出してしまう。

「や、やだなぁ……で、殿下……ご冗談を…………お、俺が、と、当主? は、ははは……あ、あり得ません! お、俺には無理です!!」

 できると思っているのか? この王子は。俺が、公爵家の当主? ありえないだろ!

 だって俺は、一族全員に疎まれているし、父上は、俺なんか数に入れてないし、兄弟たちだって、俺の存在はなかったものとしているんだ。そんな俺が、当主? 絶対にない!!

 首を横に振って拒否する俺に、王子は笑顔で言う。

「フィーディ・ヴィーフ……何を言っているんだ? 貴様も公爵家だろう? 貴様があの男を倒し、公爵家を率いるようになれば、私はもっとやりやすくなるではないか!! もう、あんな男の顔色をうかがうこともない!」
「何を無茶苦茶言ってるんですか!!」

 殿下が訳わからないこと言い始めた……そんなこと、絶対に無理なのに、本気みたいで怖い。

 もう泣きそうな俺に、殿下はますます近づいてくる。
 ティウルまで「殿下! 素晴らしいアイデアです!」なんて言い出すし、どうなってるんだよ!!

 怯える俺のすぐそばまで、王子は近づいてきた。そして、俺の肩を掴んでくる。

「私は本気だ、フィーディ。そうだ……もっと早く気づくべきだったんだ! 私も全面的に協力する。二人で、公爵家を手に入れようではないか!」

 彼が声高らかに言うと、ティウルまで、「フィーディすごーい。僕も協力するね」なんて言い出した。

 この王子とティウルが手を組んでそんなことを言い出したら、本気で公爵家をほしいままにしてしまいそうで、ひどく怖い。

 震える俺をヴァグデッドが後ろから抱きしめて「勝手なこと言うな」って言い出して、二人と睨み合いになってしまう。

「フィーディは俺とずっと一緒にいるの。公爵家なんかにあげないから」
「ぅ……ヴァグデッドっ……ひゃっ…………!」

 頬……舐められた!!?? 何してるんだヴァグデッドは! みんないるんだぞ!!

「ヴァグデッドっ……や、やめろっ……」
「なんで? フィーディは俺のだろ?」
「や、やめっ……やめてくれっ……! み、みんな、と、とにかく落ち着いてくれっ……!!」
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