悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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後日談

87.なんでこんなことになってるんだ!?

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 つい叫んでしまった俺に、公爵はひどく鬱陶しそうに振り向く。

「では、貴様が大人しく屋敷に帰るか?」
「え?」
「屋敷に帰り、もう一度、一族の審判を仰ごうか? 貴様が、生きるに値するかどうか……」
「…………ぁ……」

 屋敷に帰る……? あの屋敷に? そこに帰って、俺はまた、あの屋敷で何をされるんだ?

 そう思ったら、一気に体が冷えた。

 ここに来てからも、王子殿下には睨まれるし、ウィエフには利用されそうになるし、ヴァグデッドやティウルには追い回されるし、散々だった。それでも、あの屋敷にいた時より、ずっとよかった。
 ここに来る前の俺は、絶対に人だなんて思われていなかったんだと思う。毎日屋敷では誰にも見つからないように気配を消して逃げ隠れすることだけに必死。見つかったら何をされるか分からないから。
 しまいには、何もしてないのに、兄弟たちに嫉妬して殺そうとしたと噂された上に、使用人を手籠めにしたなんて疑われて、一族に囲まれて詰られたときには、ほとんど死んでいた。

 だけど多分……その前から俺は、ずっと死んだような顔をしていたんだろうな……

 あの屋敷に、帰る……? なんで今さら、そんなことを言うんだ?

 だけど、公爵の目を見ていたら分かった。なんでなんて、そんなこと、分かりきったことだ。この人は、本当に俺に死んでほしいんだ。今度は、自分の手で俺を殺す気なんだ。

 俺なんて、社交界でも存在しないものとして扱われているし、俺一人公爵家からいなくなったって、誰も心配したりしない。せいぜい、面白おかしく公爵家の揉め事みたいに噂されるくらいだろう。

 俺はもう、震えることも出来なかった。今にも倒れてしまいそうだった。

 答えない俺に、公爵は捲し立てるように言う。

「今も、外に新しい護衛の連中を放ってある。万が一にも、獲物を逃さないように」
「…………」
「必ず標的を殺すように言ってある。そんな目に遭うくらいなら、今帰った方が楽なんじゃないか?」
「…………な……なぜですか……?」
「なぜ?」
「お、俺に……く…………国のために、ここで……強力な魔法を身につけろって……そう、おっしゃいましたよね……」
「誰も貴様には期待していない」
「そ、それはもちろんっ……分かっています……お、俺に期待なんて、するはずがないですよね…………え、えっと……あの…………そ、それは分かっているんですけど……その、お、俺を見てくださいっ……こ、公爵閣下!! 俺は、その……何もしません! 期待には全く答えられませんが……その……公爵家に害を及ぼすこともないんじゃないかなって…………だ、だから、その……わ、わざわざ殺すこともないんじゃないかなって……」
「フィーディ……」
「はっ……はい!!」
「黙れ」
「……」
「貴様のような無能が生きているだけで、一族にとっては、恥を晒し続けることになる。貴様とは違って優秀な兄や弟たちが、社交界で笑いものになることになるんだぞ。そんなことも分からないから、貴様は無能なんだ」
「…………」

 恥……? 俺は、恥なのか…………? そうだな……確かに、俺なんて、生きているだけで迷惑なのかもしれない。

 そんなこと、考えたくないのに、公爵に言われると、そんな気がしてきてしまう。

「それに、貴様……魔法を学ぶどころか、ここにいる囚人連中とやけに仲良くしているそうじゃないか」
「……し、囚人って…………こ、ここのみんなのことじゃないですよね!? あ、あのっ……ご、誤解……誤解です! ま、待ってくださいっ……公爵閣下……」
「口答えか?」
「く、口答えだなんてっ…………そ、そんな……俺は……そんなつもりはっ……!」
「全く……さっさと死ねばいいものを、一族を苦しめておいて、よくのうのうと生きていられたものだ」
「……」
「外に放った連中には、絶対に獲物を逃さないように話してある。今ならまだ、楽に死ねるかもしれないぞ」
「…………」
「貴様が死ねば、殿下の護衛にも、もう少しまともなものを連れてくることができる。分かるか? 貴様さえいなければ、こんなに面倒なことをしなくても済むんだ」

 もうすっかり、俺を殺すって言う目的を隠すこともやめてないか……? 隠されても、雰囲気で分かるけど……

 そんなに、俺に死んでほしいんだ……

 恐怖心が一気に増す。一緒に、諦めの感情も膨らんで、もう、声も出なくなりそうだ。逆らうなんて、到底出来そうにないと思った。

 ……もしかしたら、公爵の言う通りなんじゃないか? 俺がここにいても、何かできるわけじゃない。帰った方がみんなの迷惑にならないんだし、キラフェール殿下だって、俺の生死なんか気にせずにティウルと恋愛できるのかも……

「わ、分かり……ました…………おっしゃる通りにいたします…………」
「それなら外を散歩してこい」
「え……?」
「散歩だ。森の中を歩いてこい。新しい魔法を身につけたんだろう?」
「……」

 そんなこと、俺は一言も言っていない。だけど、また何か俺が言ったところで、「口答えだ!」って言われるだけだ。

「……はい。公爵閣下……散歩して参ります」
「いいぞ。行け」

 言われて、俺はドアを開こうとした。すると、それは勝手に開いたかと思えば、突然、そこに人がふらっと現れた。

 誰……? 見慣れない顔だ。

 不思議に思ったけど、誰かが入ってきたんだと思って、俺はその人の体を避けようとした。そしたらその人の顔が見えて、俺はつい、叫んでしまった。

「え…………うわああああーーーー!!」

 その人は、真っ青だった。血の気が全くない。知らない男だ。少なくとも、この城の人ではないはずだ。

 全く動かないその人は、背後にいる人に、首のあたりを掴まれていて、部屋の中に投げ込まれてしまう。黒い服を着ているけど、肩のあたりが大きく破れて、ひどく血が流れていた。

 死んでるっ……!? いや……気絶してるだけか……な、なんなんだ!?

 怯える俺の前で、同じような格好の人が次々部屋に放り込まれて、次々倒れていく。

 な、なんだこれ……なんでこんなことになってるんだ!!??

 尻餅をつく俺の前で、肩に人を担いだ男が、最後に部屋に入ってくる。背中に竜の羽があるその男は、担いでいた男を放り投げた。まるで、ゴミを放るかのように。放り込まれた人たちは、生きてはいるようだけど、首から、腹から、肩から血を流していた。

 彼らを部屋に放り込んだ男は、血に濡れた口元を腕で拭って、不機嫌そうに言う。

「あーー……まっずっかったーーーー」

 不気味な竜の羽を持つ濃い紫の長い髪の男が誰なのか、しばらく考えなくてはならなかった。だって、彼がそんな格好をしていることはほとんどない。いつもは小さな猫くらいの大きさの竜の姿で、俺にクッキーをねだっているんだから。

「……ゔぁ……ヴァグデッド…………?」

 呼びかけると、彼はまだ返り血が残る顔のまま、俺に振り向く。

「フィーディ? あれ? なんでここにいるの?」
「な、なんでって……だ、だって、こ、公爵閣下が………………い、いやっ……そ、そんなことよりっ……! お、お前っ……」

 俺は、部屋に放り込まれた男たちに振り向いた。彼らはみんな血を流していて、気絶している。

「ち、血……吸ったのか!? き、吸血は禁止されているんだろっっ……い、いいのかっ!?」

 ヴァグデッドに飛びつくと、その服にも血がついていることに気づいた。こんなことをして、彼が処分されてしまうのではないかと思った。

 けれど、彼に吸血を禁じたはずのルオンは、ため息をついて肩を落としただけだった。

「私が許可した」
「る、ルオン様がっ……!?」
「フィーディの命を狙う奴らがうろついているから、殺すか、血を吸って無力化するか、どちらかを選べと言われたんだ。だったら、血の方がマシだ」
「は!!?? 何ですかそれっ……!」

 慌ててヴァグデッドに振り向くと、彼は、何でもないことのように言う。

「だって、デートしようって言ったじゃん。だけど、こんなのがいたら、フィーディと二人で歩けないし……」
「な、何言って…………」
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