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70.また、今度

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 真剣な話をしていたかと思えば、軽口みたいに話し始めて、どう言うつもりなんだ。

 ヴァグデッドは俺を抱きしめたまま、にっこり笑った。

「もしかして、今やりたい?」
「いきなりそんなことをするなんて、できるはずがないだろう!!!」
「そんな大声を出さなくてもいいのにー」
「さ、最初は手を繋ぐことからだっ…………! て、手をっ……つ、繋いで歩くとか……そ、そういうことからっ……は、始めないと……」
「え? それって、今? それとも付き合ってから?」
「付き合ってからだ!」
「付き合ってるのに手から!?? それ、エロいことできるまでにどれだけかかるの?」
「そ、そ、そんなことは、もっとずっと後だ!! ずーーーーっと後でっ…………」
「えーー………………手って……ガキじゃあるまいし、やりたーい……」

 口を尖らせて言いながらも、彼はだいぶ乱暴に俺の頭を撫でてくれる。

 彼がそんなことばかりするから、その手から逃れようとしたら、目尻が少し痛い。いつのまにか、滲んでいたはずの涙が乾いている。

 もしかして、俺が泣きそうにしていたからか?

 見上げたら、彼は優しそうに笑っていた。

 彼がこうしなければ、俺が答えに窮するのを分かっていたから、先に引き下がってくれたのかもしれない。
 だとしたら、俺はなんて情けない男なのだろう。

 ホッとするのに、胸が痛い。俯いてしまう俺の耳元に、彼の囁きがかかる。

「代わりに……」
「ひゃっ……! み、耳元で話さないでくれっ!!」
「……もっと抱きしめていい?」
「え?」
「ダメ? フィーディだって、いつもやってるじゃん」
「あっ……あれは、小さな竜を抱っこしてるだけで……」
「どっちも俺。ダメ? エッチなことは諦めるから」
「あっ……」

 だから、耳元で話すなっ……!!
 彼がずっと俺を抱きしめてくれて、耳のそばで話すから、余計に彼の吐息を熱く感じる。
 抱きしめられたまま、すぐそばで囁かれて、こんなの続けられたら、また泣き出しそう。それでなくても、少し離れてくれないと困るくらい、赤くなっているのに。

 だいたい、もっと抱きしめたいって、もう普通に抱きしめられているような気がするのだが……いいのか?

「…………わ、分かった……分かったからっ…………! す、少し離れてっ……!」

 矛盾したことを言ってる。抱きしめていいのに、離れてくれだなんて。

 微かな抵抗とばかりに、彼の体を両手で押すけど、力なんて入らない。こうされているのは、怖いと思いながらも、嫌じゃない。矛盾ばかりじゃないか。まだ混乱しているのか?

 頷くと、彼の力が急に強くなる。腰が折れるほどに抱き寄せられると、身動きすら封じられてしまう。頭の後ろを強く抑えられて、怯えた体の震えまで止まった。

「え……あ、あのっ…………ヴァグデッドっ……!?」
「俺、結構、我慢してるのに……」
「えっ……!?」
「風呂だって、本当は中で犯したかったのに……ティウルといるし……」
「はっ……!? えっ……それはっ……!」
「俺がどれだけ妬いたか分かってる? 俺だけ我慢してんのに、他の奴の前で裸になるって、あり得ないだろっ……」
「ご、ごめんっ…………っ!! お、おいっ……どこ触ってるんだ!!」
「抱きしめるだけならいいんだろ?」

 そんなことまでしていいとは言ってない!

 尻にまで彼の手が回って、背中に回された手が、俺の服の中に滑り込んでくる。な、なんだかくすぐったいっ……!

「んっ……ヴァグデッドっ…………」

 うめいた俺の顔を、彼が覗き込んでいる。その目だけで、俺は負けてしまいそうになる。変なことを言い出してしまいそうだ。触れることと抱きしめること以上、許可してしまいそう。

 だけど、やはりそんな急にっ……!!!!

 またちょっと目が潤んでいたらしい。余裕もなくて、そのまま見上げたら、彼はずるいと言って、俺を離してくれた。そしてすぐに、いつもと同じ小さな竜に戻る。

「……ヴァグデッド?」

 小さな竜に戻った彼は、パタパタと天井近くまで飛んだかと思えば、俺の手元に戻ってきた。

「こっちでいないと、絶対に襲う……」
「そ、それは困る……」
「なんで? 怖い思いはさせないのに……」
「こ、怖い怖くないだけの問題ではない……」

 襲われるのは嫌だが、俺より大きな男に、さっきのように抱きしめられるのは……ドキドキするし緊張もするが、怖くはなくなった。今の自分の感情が彼と同じなのかは分からないが、彼とは一緒にいたい。

 だからだろうか。こうして彼が、いつもの小さな竜のサイズに戻って俺のそばにいてくれると安心する。彼はどちらも俺だと言うが、確かに、どちらの彼といるのも好きだ。

「……あ、あの…………俺、ちゃんと返事するから…………その……お前と、そばにいるのは……好き、なんだ……ずるいかもしれないが…………その……こうしている時間をなくしたくない……」
「………………俺だって、フィーディといたい。だから今だけ我慢してあげる」
「ヴァグデッド…………」
「あー……やりたい…………」
「それは……また、今度……」
「返事は後でいいから、やっていい?」
「だ、だめだ!! そんなのっ……!!」
「やったら、俺のこと忘れられなくなると思うなー。今までで一番気持ち良くするよ?」
「ろ、廊下で、いやらしいことを言わないでくれ!」
「フィーディ、真っ赤ーー!」
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