51 / 96
51.喧嘩しないでくれよ
しおりを挟む結局、みんなでキノコを取りに行くことになったけど、ティウルはどうやら、それがひどく不満らしい。「一番最初に殿下を助けて、恩を売ることができなくなった」と、ぶつぶつ言いながら、八つ当たりとばかりに出てくる魔物を魔法で切り裂いている。
「なんでみんなで行かなきゃいけないの…………キラフェール殿下ーー!! どこですかーー?」
ティウルが大声を上げると、ルオンが静かにするように、と窘める。
「大声を出すと、魔物が近づいてくる。気を付けろ」
「ルオン様は心配じゃないんですか? キラフェール殿下、行方不明なんですよ?」
「確かに心配だが、焦ったところで、殿下もここにいるあなたたちも危険に晒す。ティウル、あなたのその魔力は並はずれているし、魔法の腕もかなりのものだ。しかし、強力な魔物が相手になれば、守り切れるか分からない。余計な戦闘は避けながら進む」
「僕はあなたに守ってもらういわれなんて、ありません。貴族たちにしてみれば、僕なんて争いのための道具なんだから」
「私はそうは思わない。ここに来たものを守るのは、私の役目だ」
「……」
ティウルは黙ってルオンから顔を背けている。どうやら嬉しいらしい。ちょっと顔が赤くなっていた。
先ほどのような巨大な魔物が出てくることは稀だが、小さな魔物は次々出てきて、俺たちに襲いかかってくる。こんなものを全て相手にしていたら、普通は魔力が切れて、戦えなくなってしまう。
けれどティウルも、彼と共に魔物を貫くウィエフも、平然としていた。
魔物よりも、ルオンと並んで話すティウルの方が気に入らないらしいウィエフは、ティウルを睨みつけて言った。
「……危険なら、あなたは先に帰ってもいいのですよ。ティウル」
「僕は帰りません。そっちこそ、先に帰ったらどうですか? 全然相手にされてないみたいだし」
「……何にですか? そちらこそ、王子殿下のことは、諦めた方がいいのではないですか? 王子殿下は、いずれ貴族の方と婚約なさることでしょう」
「は? 貴族が、僕より魔力を持っているの?」
「……」
「あなたも、僕の魔力は認めていますよね?」
「……魔力だけは認めます」
「だったら、なんで僕が諦めなきゃいけないんですか? もうすぐ、この前のものよりずっといい惚れ薬が完成しそうなのに」
「……惚れ薬……」
「よかったら、ウィエフ様も試してみますか? いい素材を手に入れることに協力してくれたら、完成したものを分けてあげてもいいんですよ?」
「………………何が必要なのですか?」
……あっさり陥落させられている……面倒臭い割に単純だな……ウィエフ……
俺は彼らの後ろを、ヴァグデッドを抱っこして歩いていた。
やっぱり、ウィエフのことをルオンが傷つけたなんて、信じられない。自分で見たことなのに。
だけど、ルオンは城に住む人を大切に思っているようだし、ウィエフも、ルオンが言えば大人しく従う。それなのに……
今、ルオンは森中に使い魔を飛ばして、キラフェール殿下を探している。王子はすぐに見つかるだろう。
ルオンは王子殿下を探すことに集中しているようだし、俺は、彼らから少し遅れて歩いて、抱っこしているヴァグデッドに耳打ちした。
「ヴァグデッド……」
「なに?」
「……さっき、ウィエフが雷撃の魔法で撃たれた話をした時、またかと言っていただろう? あ、あれは……どういう意味だ?」
「ウィエフが悪さをしようとすると、ルオンはよくそうやって止めているんだよ」
「と、止めるって、雷撃の魔法でか!? ち、ちょっとひどくないか!?」
「ウィエフなら、魔力で自分を守れるだろ?」
「そうだけど…………ほ、他に止め方はあるだろう!」
「ウィエフ、嬉しそうだよ?」
「雷撃を受けているのにか!?」
「うーーん……ルオンに構ってもらえるからじゃない?」
「……」
それは構っているとは言わないだろう……
ヴァグデッドはウィエフをじっと睨んでいて、俺はますます不安になりそうだ。
「……ヴァグデッド…………ウィエフと喧嘩をしないでくれよ」
「俺は、そんなつもりない。あいつが手を出さないのなら、俺も出さないよ」
「そうは見えないぞ……」
話しながら彼を抱っこして歩いといると、悪戯好きな子猫でも抱きながら散歩しているような気になってきた……って言ったら怒るんだろうな……
こうして猫サイズの彼を抱っこしていると安心するのに、さっきみたいに、いつ男の姿になって手を握られるかと思うと、ひどく心臓が高鳴る。もちろん、嫌ではないが……
そんなことを考えて俯いていると、ヴァグデッドは急に羽を広げて、俺の背後に飛んでいく。
「ヴァグデッド? ど、どうしたんだ!?」
まさか、変なこと考えてるのがバレたのか!?
焦る俺だったが、違ったようだ。
ヴァグデッドは、俺の背後にあった木々に向かって魔法の弾を放ち、そこに見えた黒い影を打ち倒した。
「い、今の……魔物か?」
「うん。大したことないみたいだけど。もう出てこない方が、身のためなんじゃない?」
「……魔物は、魔力とか生気に惹きつけられて襲ってくるらしいし……出てこないっていうのは、無理なんじゃないか?」
「そうかもね」
そう言って、彼はまた俺の腕に戻ってくる。
前を歩いていたルオンも、ヴァグデッドの魔法の音に気づいて、俺たちに振り向いた。
「フィーディ! 大丈夫か? はぐれると危険だ」
「あ、は、はい!」
俺は、ヴァグデッドを抱きかかえたまま、急いでルオンたちに駆け寄った。
ルオンの様子はいつもと変わらない。優しい、いつもの彼だ。
「フィーディ、怪我はないか?」
「は、はいっ……! ヴァグデッドが……守ってくれたので…………殿下は見つかりそうですか?」
「ああ。もうすぐ使い魔が戻ってくる…………」
彼がそう言うのとほぼ同時に、空から光る小さな竜の形の使い魔が降りてくる。
それは、ルオンの手に引き寄せられるように飛んで、彼の掌まで来ると、すぐに消えてしまった。
「……見つかった。ここからすぐだな……」
「ほ、本当ですか!?」
頷く彼のもとには、次々、似たような使い魔が降りてくる。なんだか、光が集まってくるようで、すごく綺麗だ。
けれど、その中に一匹だけ、明らかにルオンの使い魔とは違うものがいた。それだけが背中に鋭い杭のようなものが取り付けられていて、その上、炎を纏っている。明らかに、それだけは相手を殺傷するために作られたものだ。
それはルオンめがけて降りてくるが、誰よりも早くそれに気づいたらしいウィエフの魔法が、それを粉々に打ち砕いた。
「ルオン様! ご無事ですか!?」
駆け寄ってくるウィエフに、ルオンは振り向いて「ああ……」と短い返事をした。
「殿下が見つかった。そちらへ急ごう」
「…………はい……」
頷くウィエフに、ルオンはすぐに背を向けるけど、ちゃんと彼に回復の魔法をかけている。
ウィエフはその後ろ姿をじっと見つめていた。
12
お気に入りに追加
780
あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

【第3章:4月18日開始予定】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼毎週、月・水・金に投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます
瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。
そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。
そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる