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39.失敗!?

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 ティウルの部屋は俺が見たことがないくらい可愛らしい部屋だった。
 ぬいぐるみとか、ハートの形のクッションがたくさんある。
 ベッドの上のパジャマが猫を模していて可愛らしい。ティウルが着たらめちゃくちゃ可愛くなりそう。
 テーブルには、たくさんの魔法の本が積んである。勉強家らしい。そこそこ怪しげな魔法の本もあるし、棚の上に怪しげな薬の瓶が並んでいるが、無視しよう。見えない。見えない。

「……殿下の写真とかないんだな」

 つい、呟いてしまった。王子のことを話している時の怖いティウルの部屋とは思えないくらい可愛いから、ちょっとびっくりしたんだ。

 すると、ティウルはケラケラ笑って俺に振り向く。

「この城に殿下がくるのに、僕がそんなことすると思う? 万が一、王子やその周りにいっぱいいる護衛だの使者だのにバレたら、僕は終わりだ。平民の僕なんか、貴族どもにしてみれば、便利な兵器なんだよ? 僕は平民だし、貴族に魔力を認められたなんて言われてるけど、本当は、奴らは体よく好きに扱える魔法使いが欲しいだけなんだ。何かあればすぐに捨てられる身なんだから」
「……」

 彼の言ってることは本当だ。恐ろしいほどの魔力を持ち、その上貴族でない彼は、貴族たちにとっては、いわば都合のいい存在。強力な魔法を覚えさせて、争いの道具にするつもりなんだ。

 ティウルは両手を握って、魔法の光を生み出した。

「隠し撮りした殿下と監視用の道具は、いつも魔法で隠して」
「すみません聞かなかったことにします!!!!」

 そんなの、聞かないほうがいい……ティウルは微笑んで「冗談だよ」なんて言って笑ってる。悪い冗談はほどほどにしてくれ。

 それを聞いていたヴァグデッドが、パタパタ飛びながら、冷たく言った。

「バレて死罪になればいいのに」
「殿下には話さないでよ?」
「……話さないよ」

 あっさり答えたヴァグデッドに、ティウルは一瞬驚いて、すぐに彼を睨みつけた。

「どういうつもり? また何か企んでる?」
「……企んでなんかない。王家とは話したくないだけ」
「……殿下は僕が伴侶になる予定の人なんだから。手を出さないでよ?」
「嫌」
「あ?」

 睨み合う二人。この二人は本当に仲が悪い。

 そして、俺を巻き込まないでほしいのに、ティウルは俺に駆け寄ってくる。

「フィーディは言わないよね?」
「へっ……!? う、うん……」
「よかった。じゃあ、これ」

 そう言って、ティウルは俺に、小さな、美しい魔石をいくつも使って作られた鍵のようなものを渡してくれた。俺の手の中に収まるくらいの長さで、キラキラ光っている。

「な、なんだ……? これ……」
「眠りの魔法を強化してくれる道具。貸してあげる。そんなに力のあるものじゃないけど、少しの間、魔法を強化することはできるから」
「…………い、いいの、か……?」
「うん。これは本当のことだよ?」
「…………わ、分かった。あ、ありがとう……これ……どうやって使うんだ?」
「簡単だよ。しばらく握ってればいいんだ」
「……分かった……」

 まだ怖いけど、それをぎゅうっと握ってみる。すると、それから光が生まれて、光は俺の手に吸収されるようにして消える。

「なんだか……あったかい……」
「しばらくそうしてれば、強化は終わるよ。座って待つといいよ」
「あ、ありがとう……」

 握ったまま、恐る恐る椅子に座った。

 で、でも……い、いいのか……?

 チラッと、ヴァグデッドを盗み見る。彼は部屋の中をパタパタ飛び回っていた。

 何を考えているんだ……俺のこと、さっきは追いかけたくせに、今は部屋を飛び回っているだけ。
 一体、どういうつもりだっ……何を考えているんだ!?? 俺のことをどう思っているんだ……
 さ、さっき聞けばよかった!
 今聞けば教えてくれるのでは!?? でも、今はティウルがいるから聞けない……
 というか、はっきり言ってくれ! 俺をどう思っているか教えてくれてから襲ってくれ!
 ……いや、襲われては困るのか……

 そんなことを考え込んでいると、ティウルから受け取ったものは光になって消えてしまう。

「え!!?? え!? な、なんでっ……! え!? お、俺っ……壊しちゃった!?」

 焦る俺に、ティウルはにっこり笑う。

「違うよ。強化が終わったんだ」
「ほ、本当か!?」

 やった……!! これでちょっとくらい切り札になる!!

 喜ぶ俺だけど、その背後で、ヴァグデッドが言った。

「それで俺を眠らせて大人しくさせようって魂胆?」
「え!!??」
「ふーん。やっぱり図星かーー」
「うっ……」

 秒でバレた……しかし、それならそれで、今すぐ眠ってもらうまで!!

「ヴァグデッドっ……ご、ごめんっ!」

 俺にはこうするしか思いつかなかったんだっ……! 後で必ず起こすらからっ!

 彼に向かって、眠りの魔法を放つ。だけど彼は、平然としている。

「あ、あれ……? な、なんで……」

 慌てる俺の前で、ティウルが首を傾げる。

「ヴァグデッドを狙いたかったの?」
「う、うん……」
「だったら、寝込みを襲うくらいしないと無理じゃないかな? 僕の時も、彼が寝てる時を狙っただろ?」
「は!!??」
「そういうことは、先に言ってくれないと。普通の魔法使いを相手にするならともかく、フィーディが彼を相手にするなら、少し強化したくらいじゃだめだよ」
「で、でも、ティウルの時はっ……」
「元々の魔力が全然違うだろ?」
「…………」

 じゃあ、最初の時点で俺の計画は失敗していたのか……
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