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31.そこをどくんだ!

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 城の中を走った俺は、ルオンの部屋の前に来ていた。

 すぐにドアを叩いて、ルオンに「俺が行きます!」って言うはずだったのに、怖くてノックできない。

 本当に、俺にそんなことできるのか?
 ここへ来てよかったのか? だって城主は攻略対象。その彼のところに勝手に来たりして、また自分からバッドエンドに近づいているのではないだろうか。

 ……って、何を二の足を踏んでいるんだ俺は!!
 城主に言って、俺もキノコを取りに行くんだ! ウィエフの思い通りにはさせない!

 俺は負けないぞ……

 決意はしたが、怖いものは怖い。

 震えながらドアをノックしようと、右手を振り上げる。

「じっ……じょっ……じっ、じょっ……! じょうすっ……城主、ルオン様!」
「何をしているのです?」
「うわあああああああああ!」

 突然背後から声をかけられて、心臓が潰れそうなくらいびっくりした。
 恐る恐る振り向けば、雄叫びをあげてびっくりした俺を、ウィエフが見下ろしている。彼の方も驚いたようだ。その肩には、小さな竜の姿のままのヴァグデッドが小鳥のようにとまっていた。

「……ウィエフ……」
「……何をしている…………フィーディ・ヴィーフ……そこは城主、ルオン様のお部屋だぞ」
「お、おおおっ……俺はっ……!! る、ルオン様がっ……様にっ……よ、ようっ……! 用があるんだーー!」

 くそ……こんな時に、俺はなんで震えているんだ! 情けない!!

 だけど、俺がこんな風に叫ぶとは思ってなかったのか、ウィエフもヴァグデッドもびっくりしてるみたいだ。

 俺は、ウィエフの肩に留まっているヴァグデッドを睨みつけた。

「ヴァグデッド……お、お前! こ、こっち来い」
「え? 俺?」
「お、お前は、俺の手下なんだろう!! なんでそっちにいるんだよ!! 早くこっち来い!!」
「手下はそっちだろ?」
「そんなのどっちだっていい! 早く来い!」
「……」
「あ、お、俺が手下でいいので……いいからこっち来い!!!! 来てくださいお願いします!」
「……」

 首を傾げていたヴァグデッドだけど、彼は羽を広げて、俺の方に飛んでくる。俺が両手を広げて待つと、そいつはちゃんと、腕の中に収まってくれた。

「だ、大丈夫か!?」
「え? 何が?」
「なんかされてないか!? 怪我とかしてないだろうな!」
「なんのこと? 俺は何もされてないよ?」
「そ、そうか……」

 ヴァグデッドを抱きかかえると、怪我なんかも見当たらない。キョトンとして、俺を見上げていた。

「よかった……」
「フィーディ? 一体、どうしたの?」
「……ぶ、無事でよかったって言ってるんだ!! あ、これ、どうぞ」

 持ってきた茹で卵を渡す。
 ヴァグデッドは受け取ったけど、それがなんなのかはわからない様子だった。卵をいろんな角度から見ては、首を傾げている。

「なに? これ?」
「た、卵……あ! ゆ、茹で卵だけど……あ、あげる……」
「なんで、卵?」

 たずねながらも、彼は俺のあげた卵を丸呑みにしている。

 彼が無事でホッとしたけど、ウィエフのことは、ますます怒らせてしまったようだ。

「それで? あなたはルオン様に何の用ですか?」
「そ、そんなのっ……!! お、お前になんか!! 関係ないっ!」
「関係なくはありません」
「なっ……なんでっ……ですか! 俺はっ……ルオン様に会いにきただけです!」
「あなたは一体、どういうつもりですか? ルオン様にあなた程度が声をかけるなど、本来なら許させないことなのに」
「て、程度ってなんですか! 程度って!! お、俺、一応っ……! こ、公爵家の令息だっ……です! よ……?」
「令息? ふんっ……ゴミ同然に捨てられてここに放り込まれた屑が。何をおっしゃっているのか……」
「そうですね」

 思わず同意してしまう。そんなの、俺が一番そう思ってたよ。だけど今はそんなこと、どうだっていいんだ。俺は、この人には負けたくない。

「そ、そんなのっ……! あああなたになんかっ……! 関係ありません!! 俺はルオン様に会いにきたんだ! あの人に大事な用事があるんだ!! そ、そ、そこをっ……そこをどくんだっっ!!! ウィエフ!!」
「大事な用とはなんだ!? どういうつもりだ!!」
「ひっ……すみません退いてください大事な用があるんですっっ!! ダメって言っても通りますっっ!」

 叫んで、俺は無理やりウィエフを押し退けて、ルオンの部屋のドアに近づいた。ウィエフと話してても、絶対に退いてくれないだろうから。

 思いっきりドアをノックしようとしたのに、ドアはいきなり開いて、中からルオンが出てくる。
 勢い余った俺は、そのままルオンにぶつかってしまいそうになった。
 だけど、後ろから人の姿に戻ったヴァグデッドが引き寄せるから、ぎりぎりでぶつからなくて済んだ。

「うわっ……あ、ありがとうっ……!」

 お礼を言うと、人の姿になったヴァグデッドは、その金色の目で俺を見下ろしていた。

 な、なんか怒ってる!? 睨まれてるような気がするんだけど……!?

「……気を付けろ」
「ご、ごめん……」

 ルオンは城主なんだし、無礼を働くわけにはいかない。だから彼がこうして怒るのも当然。

 だけど、そろそろ離して欲しい。
 ずっと背後から抱きしめられているのも、な、なんだか落ち着かないぞ……
 かと言って、ヴァグデッドはさっきから怒ってるみたいだったし、怖くて離してくれとも言えない。

 目の前では、ウィエフがルオンを庇うように立っていて、真っ赤な顔で俺を怒鳴りつけた。

「こ、このっ……! 破廉恥な下衆がっ! 貴様、ルオン様に何をしようとした!!」
「やめろ。ウィエフ」

 怒鳴るウィエフを止めて、ルオンが俺にたずねる。

「どうした? さっきのことで、何か分からないことあったのか?」
「そ、そうじゃありません……す、少し、お、お話があるんです!!」
「話? そうか……とりあえず、入ってくれ」
「は、はい! あ、ありがとうございます! しししし失礼! します!!」
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