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27.証拠隠滅です!
しおりを挟むいろいろと不満なことはあるが、震えすぎて何も言えない俺を、ウィエフが睨みつける。
「フィーディ・ヴィーフ……これは一体、なんの真似ですか?」
「……あ、あの……その……えっと……あの……お、王子殿下に危機が……」
「先ほど光のキノコで目眩ましをしたのは、あなたですか?」
「ひゃっ……!? ふやっ……!? え、えっとお……た、確かに俺ですが……あ、あれはそにょあにょその……」
なぜ震えているんだ、俺は。そもそも俺は、何も悪いことをしていない。だったら焦る必要なんてないはずだ。胸を張って堂々と、違うと言えばいい。
だけど、この人を前にするとっ……! 昨日自分に向かって恐ろしい魔法を撃たれたことを思い出してしまう。
怯えるばかりの俺の横をすり抜けて、ティウルがウィエフに駆け寄っていった。
「ウィエフ様! 違うんです!! 全て誤解です!!」
ティウル……さすが主人公!
怯える俺に代わって、言い訳をしてくれるなんて! ……という都合のいい他人任せは一瞬で崩れ去る。
ティウルは、俺を指差して叫んだ。
「ウィエフ様!! 僕はフィーディがキラフェール殿下を狙っているようだったから、止めていただけです! 僕だけは全く悪くありませんっっ!!!!」
変わり身早いなー、おい。一瞬で俺を踏み台にして王子に取り入った。どうやったらそんなに早く口と頭が回るんだよ!
しかも、さっき俺が飛びついて空になってしまった、ティウルのものすごく怪しい瓶は、ウィエフの見ていない草むらで砂になって崩れていく。証拠隠滅も完璧だ。
おかげで、このままじゃ俺だけ悪役にされてしまいそうだ!
「ち、違うっ……! 違う違う違う! 違うんです! ウィエフ様っ……! お、俺だって、キラフェール殿下を傷つけるつもりなど毛頭ございません! お、俺はただ殿下をお守りしたかっただけです!」
「フィーディ……」
「しっ……信じてください!! 俺は王家に仕えるため……き、強力な魔法を身につけるためにここへ来たのです! 殿下に手を上げるなど……」
「…………黙れ」
……あ……しまった。これは絶対にますますキレている。
焦りすぎて忘れていたが、ウィエフに「信じてください」はダメだった。ついでに、彼が心底憎む王家の話までしている。俺はどこまで間抜けなんだ。
「ち、違う違う違う! 違います! だ、だいたい、今の目眩ましはティウルがっ……」」
叫ぶ俺に指さされて、ティウルは急にさめざめと涙を流し始めた。さっきまで全然泣いてなかっただろうが! その涙、どうやって流してるんだ!
「フィーディ……ひどい……僕を陥れるようなことを……」
「お、お前がそもそもっ……」
……待て。言っていいのかこれは!! 下手なことを言うと、俺は王子の伴侶を陥れようとしたゲス野郎になってしまうのでは!? こんなことが積み重なって、いつか俺は白い目で見られて痛めつけられて…………しかもゲームよりどんどん状況が悪化していることを考えると…………いつかは……処刑っっ!? 拷問!? 斬首!?? 嫌だーーーー!!
ウィエフの顔が険しくなっていく。その顔を見ると、もう多分手遅れなんだろうなって思えた。
「私と一緒に来なさい。フィーディ」
「で、でもっ……俺っ……ち、違うっ……!」
「黙れっ!」
言い訳をしようとした俺に、ウィエフが手を伸ばす。まずい。またあの魔法が来る。俺に防御の魔法は使えないのに。ああ、なんで俺はこうなんだ。逃げなきゃいけないのに動けない。
すると、ウィエフの伸ばした手を、横からヴァグデッドが握って止める。
今の彼は人の姿。濃い紫色の長い髪が、俺の目の前で風に吹かれて、金色の目が俺を見つめていた。
その姿でいられると、なんだかあの竜じゃないみたいなのに、俺を馬鹿にする声はやっぱりいつものまま。
「間抜けだなー。腰を抜かすくらいなら、大人しく部屋で怯えていればいいのに」
「だ、だって…………」
彼の言うことももっともだ。腰を抜かすほど怯えるなら、黙って大人しく部屋にいればよかったんだ。俺は一体何をしているんだ。
ヴァグデッドが俺に背を向ける。もう、何度も見た背中だ。俺は一体、何回庇われるんだよ。
ウィエフは、ヴァグデッドを睨みつけた。
「……離しなさい。汚らわしい! あなたも同罪です」
「どうざーーい?? 何言ってるのーー?? フィーディが何したって言うのーーー?」
「その男は、キラフェール殿下を……」
「誤解だって言ってるだろ? フィーディはそんなことしてない。フィーディの言う通り、王子に手を出そうとしたのはティウルの方。フィーディがああしなかったら、王子がどうなってたか……」
「……何か、証拠でもあるんですか?」
「そっちだって。フィーディが先に手を出したっていう証拠でもあるの?」
「……」
「出してみればーーーー? あれ? 出せないのーー?」
「このっ……邪悪な竜がっ……!」
ウィエフが今にも刺してしまいそうな目で、ヴァグデッドを睨みつける。
そこに、ルオンが走ってきた。
「ウィエフ。やめろ」
「ルオン様っっ!! しかし、彼らはキラフェール殿下を狙っていたのです!!」
「ウィエフ」
「……」
二度名前を呼ばれて、ウィエフは悔しそうに顔をそむけた。
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