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18.朝か……

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「ち、違うっ……! 違うんだっ! 本当に違う!! あ、あのっ……!」

 あわてて弁解をしながら、ベッドの上で震える俺。
 だけど、ちょっとだけ意地悪な気持ちがあったのも事実で、完全には否定できない。

 すると、そんな曖昧な態度がヴァグデッドを怒らせてしまったようだ。彼は小さな体で飛んで、俺に迫ってくる。

「俺を毛布で包んでどうするつもりだったのー? さては、包んでそのまま切り刻んで殺す気だったな!」
「は!? お、お前、よくそんな恐ろしいことを思いつくな……するか! そんな怖いこと!! 俺、し、しそうですか!? しませんよ! そんな怖いこと!!」
「嘘つけ!」
「ひっ……!」
「殺して丸めて部屋から追い出すつもりだっな! あいにく俺は、そんな簡単には死なないから!!」
「ぞ、存じております! 断じてそんな気はありませんーー!!」

 もう涙目になりながら言う俺を、ヴァグデッドが睨んでいる。俺は恐ろしくて仕方ないのに、彼は牙を剥き出しにしていた。

「……寝たら食いついてやる」
「やめてくれ! 俺だって、お前を殺したいわけじゃない! ほ、本当に今のはっ……! じ、事故だ!! ちょっと毛布をかけようとしただけだ!! あ、あったかくしようとしただけなんだ!」
「……あったかく?」
「す、少し毛布を被せてやろうとしただけだっ……! 仕返しをしようとはしたが……そんなことになるとは思わなかったんだ! 食べないで噛み付かないで殺さないで!!」

 本気で怒らせたと思って、ベッドの端まで逃げた俺は、枕を盾がわりにして、その影に隠れた。

 ガタガタ震えている俺に、ヴァグデッドは何もしてこなくて、恐る恐る枕から顔を出せば、竜はにやにや笑っている。

 ……怒ってないのか? むしろ、楽しそう? あいつ……! 俺で遊んでいるなっ……!

 笑うそいつは、俺が投げた毛布を下に敷いて、その上で猫みたいに丸くなった。

「あったかいー」
「……」
「食いつくのやめてあげるから、早く寝れば?」
「ね、寝ても食いつかないでくれよ! さ、さっきのは、なんていうか……じ、事故だったんだ!! 本当にごめんなさい!!」

 叫んで、俺は布団の中に滑り込んだ。

 少し離れたところでは、ヴァグデッドが丸くなっている。

 怒り出した彼のことは怖いが、魔物が出るかもしれない部屋に一人なのはもっと怖い。彼もベッドに来てくれて、なんとなくホッとした俺は、そのままベッドの上で、頭まで布団をかぶった。

 今日はもう寝よう……これ以上、状況が悪化する前に。

 無理矢理目を瞑るが、それでも怖くて、頭だけ出す。
 すると、枕があったあたりでヴァグデッドが俺に背を向けているのが見えた。その背中を見ていたら、いつの間にか、うとうとし始めて、そのうちに眠ってしまった。







 次の日、俺は予定より早く目が覚めた。まだ朝早い。窓の外には、登ったばかりの朝日が見えて、眩しかった。
 もう少し寝ていようかと思ったが、目が冴えてしまったようだ。
 俺は起き上がった。
 起きたところは、ベッドの端ぎりぎりのところで、よく落ちなかったなあと、自分で自分に感心してしまいそうだった。

 昨日はひどい夜だった……

 俺が盾がわりにした枕があったあたりで、毛布を敷いたヴァグデッドが、俺に背を向け、まだ丸くなっている。枕は床に落ちていた。

 彼も、夜は眠れたのだろうか。

 こっそり近づくと、彼は目を瞑って寝息を立てている。なんだかホッとした。

 夜の間、魔物はこなかったのだろうかと思い、部屋を見渡す。だけどすぐに、それだけじゃ足りないような気がして、部屋の中をくまなく調べた。窓の周りやベッドの下、クローゼットの中、テーブルの下、カーテンの裏に枕の下まで調べたが、魔物らしきものはいない。部屋にも、争ったような形跡はない。何もこなかったんだ……

 城の朝は早い。朝食の時間が終わってしまう前に食堂へ行かないと、朝食を食べることができなくなる。

 ヴァグデッドも、起こして行った方がいいだろう。昨日は、彼がいてくれたおかげで、魔物がうろつく城で一人にならなかったんだ。ちょっとだけ、勝手にあてにしてしまっていたし……

 彼を起こそうと、そっと手を伸ばすが、本当に起こしていいのかと考えてしまう。
 せっかくこんなに気持ちよさそうに寝ているのに、起こしていいのか? もしかしたら、魔物が怖くて眠れずにいたのかもしれないのに。
 だけど、朝食の時間に遅れるのも困るはずだ! お腹が空いてしまう! しかし、寝不足も困る……
 そもそも、朝は起こせと言われているわけじゃないのに、勝手に起こしていいのか?
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