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13.嘘だろ!?
しおりを挟む俺は、途方に暮れつつ、人の姿になったヴァグデッドの後について、自分の部屋に向かっていた。
なんでこんなことになったんだ……手下のはずの竜の手下に俺がなって、しかもこいつの餌係だと?
俺はうんざりしているのに、前を歩くヴァグデッドだけは楽しそうにしている。
散々追いかけてきて、脅して、悪事を働かせようとして、一体なにを考えているんだ? 俺のことが気に入っただと? 見えすいた嘘を……そんなものに、俺が騙されると思うなよ。
「…………ヴァグデッド」
「なに?」
「……食事って、あ、あの……俺、どうやって用意すればいいのか、分からないんだ…………な、なんで俺にしてもらう、なんて言ったんだ?」
「なんとなく、フィーディのことが気に入った」
「……そういう嘘はいい……俺は追放同然でここへ来たんだ。そんな俺を気にいるやつなど……いるものか。な、何を……な、何か企んでいるのかっ……!?」
「……何も。あと、今言ったこと、もう一回言ったら、お前のこと餌にするから」
「はっ……!? え!!? に、二度と言いませんから食べないで!」
「そんなに怯えるなよ。俺だって、手下をいじめたいわけじゃないし、逃げないように見張れとは言われているけど、傷つけたりはしないから」
「は!? さ、さっき襲ってきたくせにっ……!」
「あんなの冗談」
「じ、冗談だと!? ふ、ふざけるな……お、俺は怖かったんだ! に、二度としないでくれ!」
「うん」
「や、約束っ……だぞ!! わ、悪いこともやめてくれっ……! 俺は、下手なことをすると断罪される運命なんだ!」
「さっきもそんなこと言ってたけど…………なに? 運命って」
「……そう決まってるんだよ。俺は……いつか、悪人として処分されるんだ……」
その時は……多分一生この城に幽閉されながら、王子殿下の花嫁に嫌がらせをしたゲス野郎として、ヒソヒソ言われるんだろうな……
しかも、ゲームより状況が悪化していることを考えると、最悪、晒し者にされて処刑なんてこともあるかもしれない。
下を向いて、とぼとぼ歩く。すると、前を歩いていたヴァグデッドが突然立ち止まって、その背中にぶつかってしまった。
「いた…………な、なに……?」
「処分なんて、俺が許さない」
「お、お前が許すとか……そう言う問題じゃ……」
そう言う問題じゃないと思うけど、ヴァグデッドに睨まれて、黙ることしかできない。
なんなんだ……さっきから……
だいたい、こいつに会ってからろくなことがない。主人公は来ないし、俺はこいつの手下にされて、ウィエフにも睨まれた。
この竜には、できる限り近づかないでおこう……そうだ。この竜に近づかなければ、俺に手下ができることもなく、俺が彼らと共に主人公くんに嫌がらせをすることもない。言うことを聞いておいて、できるだけ距離を置くんだ!
そして、できるだけもう、何もしない。
何かするたびに悪いことが起きているんだ。もう部屋に閉じこもって、ヴァグデッドには会わず、主人公にも会わない。会うはずの人に会わないのは不安だが、動くたびに悪いことが起きているんだ! もう、何もするべきじゃない。
そう決意した。
食事だけ用意して、ヴァグデッドを追い返して、部屋に鍵をかけて、明日まで誰にも会わないぞ!
決意するのに、早速ヴァグデッドは、俺の部屋のドアに手をかけた。
「お、おい! 待てよっ……! お、俺の部屋に何の用だ!!」
「俺の食事、用意してくれるんだろ?」
「す、するけど……俺の部屋じゃなくていいだろう!」
「ここじゃないと嫌。俺、今日からこの部屋に住むから」
「か、勝手なことを言うなっ!! こ、ここは俺の部屋だぞ!」
「逆らうと、お前が餌だよ?」
「は!?」
「その腕一本でいい」
「部屋は自由に使っていいので、俺は別の部屋に移ります!」
「フィーディがいないと嫌」
「はああ!??」
こ、このっ……嗜虐趣味のゲスめっ……!!
さっきのウィエフといい、こいつといい、ろくなやつがいない。そもそも俺は、なかなかやってこない主人公くんのことを探していたはずなのに!
こんなことなら、部屋でじーーーーっとしておけばよかった。
「あ、あなたと同じ部屋なんて嫌だ! あ、いや……き、気を悪くしないでほしい! べ、別にあなたが嫌だと言っているわけじゃない! ただ、俺を餌にする人とはちょっと…………」
怯えながら弁解する俺を、その竜は楽しそうに見下ろしている。
こいつは絶対に楽しんでいる。だが、断る勇気もない。
そんなことをしていたら、ヴァグデッドがドアに耳を当てて言った。
「あれ……? 何か聞こえるぞ」
「は!? お、脅すのかっ……!? また脅すのか!? い、いいい言っておくが、お、俺を脅せばなんでも思い通りになると思ったら……」
「魔物かもよ?」
「ま、魔物だと!?? なんでそんなものがこ、ここに……」
「この城、しょっちゅう出るから」
「はあっ……!?」
「知っててきたんじゃないの? 攻撃魔法くらい、使えるだろ?」
「…………」
使えない。正確には、使えるが、威力が全くなくて、役に立たない。俺も、魔法の習得のために努力はしたが、無駄だった。
うなだれる俺を、ヴァグデッドは見下ろして言った。
「……もしかして、使えないの?」
「…………はい」
「じゃあ、俺が追い払う。ここで待ってて」
「ま、待ってくれ!」
俺は、慌ててヴァグデッドの手を握った。
この竜に任せていいのか? 本当にいいのか? そんなことをして、借りを作れば、ますます手下扱いされるのでは!!??
いつ襲ってくるか分からない竜の手下なんて嫌だ。できるだけ、関わりたくないんだ。この竜にこれ以上何かをしてもらわない方がいい。
どうする? ヴァグデッドに頼む? 自分でなんとかする?
……俺だって、剣は少しだが使える。魔法が使えない分、魔物を追い払えるように、死ぬ気で学んだんだ!
ここは、自分でなんとかする。
ヴァグデッドに追い払ってもらったら、その後で出ていけと言いづらくなる。魔物は怖いが、ヴァグデッドも同じくらい怖い!
「お、お前には頼らないっ……! ここは俺の部屋だ!! 俺が追い払うから、お前は食事をしたら出て行ってください!!」
まだ怯えが残るまま言って、ドアを開ける。そして懐の短剣を抜いて、中に飛び込む。
魔物か、賊か。
飛び込んだ先には一人の男がいた。
賊か? いや、違う。
フワッとした茶色のショートカットと、その間から見える可愛らしい丸い目。ひどく華奢な体に、簡素な魔法使いの服を着た、小動物のような男だ。
「ティウル!!??」
嘘だろ主人公くんだ!!!! 今来たの!!??
遅いぞ! 遅刻だ! 勝手に部屋に入るなよーーーー!!
って言いたいけど、この人を傷つけたら俺は終わる!
慌てて短剣を引っ込めるけど、制圧するつもりで飛び込んで、すぐに止まれるはずがない。勢い余って彼に飛びついてしまい、そのまま押し倒してしまった。
「いた……」
頭を打った主人公くんは涙目だ。
絶対に手を上げないと決めていた主人公くんに手を上げて押し倒してしまった……
もう、俺が泣きそう。
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