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3.俺は一体何をしているんだ
しおりを挟むもうしばらく経ったら鳴らそう。そんな風に呼び鈴と睨めっこをしている間にも時間は過ぎる。
あれから一分。早く鳴らせばいいのに。
二分。後少しくらい待とう。
三十分。俺は何をしているんだ。早く鳴らせ。
結局一時間経って、決心した。俺は、ついに呼び鈴を鳴らした。
そして、待つ。さっきみたいに、じーっと椅子に座って。
一分経った。来ない。そんなに早く来られても、こっちが気を使うので、待つことは気にならない。
そして、一時間が経った。
遅くないか? こっちも来ない……?? 何で来ないんだ?
さっきから、主人公くんは来ないし、来てくれるはずの人も来ない。どうなってるんだ。来るはずの人が二人も来ないと、あまりにも不安だ。
とにかく、部屋を出てみよう。護衛の人がいるはず。ちょっと緊張するけど……
俺はドキドキしながら、ドアノブに手をかけた。それをゆっくり回しながら、慣れない笑顔を作って顔を出す。
するとそこには……やっぱり誰もいない。
なんで?? 何でいないんだ!?? だって「俺は外にいます。何かあればお呼びください」って言ってたのに!?
廊下にも誰もいない。シーンと静まり返ってる。右を見ても左を見ても、誰もいない。
……こんなことあるのか?? いや、おかしいだろ。こんなの。
「なんで誰もいないんだーー…………」
そんな大きな独り言の声も、もう消えそう。
と、とにかく……誰か、探しに行かなきゃ。もしかしたら、何かあったのかも知れない。
主人公くんに何かあったら、俺のせいにされたりするのか??
そしたら、早々に俺はバッドエンドを迎えるのか??
……ますます恐ろしくなってきた……は、早く主人公くんを探そう!!
俺は、廊下に飛び出して走り出した。
広い廊下には、大きな窓が並んでいて、外には既に星が瞬いている。城の照明は所々ついているし、まるで人気がないわけじゃない。きっとどこかに人がいる。
だけど、ここは今から自分が殺されるかもしれない城。そんな城を走るのもかなり怖い。
というのも、このゲーム、天真爛漫な主人公以外は、恐ろしい一面を持ったキャラが多い。
攻略対象は、ルートによっては、ひどい執着心をあらわにして、最後には主人公を無理矢理手に入れて、軟禁同然で塔に閉じ込めたり、攻略対象以外でも、城ごと憎い人間を魔法で破壊しようとしたり、カッとなってそこにいた人に次々切り掛かったりするような奴ばかり。
そんな城になぜか一人だけになってしまって、しかも、来るはずの人は誰も来ない。あまりにも怖い。
ここを案内された時に、城の中で何か困ったことがあったり、城の外を歩く時に護衛役になってくれる、ヴァグデッドという竜の部屋を教えてもらった。その部屋は、俺の部屋から近くて、廊下の突き当たりの部屋。両開きの大きな扉がある部屋だ。
ちなみにヴァグデッドは、ゲームでは、フィーディの取り巻きみたいな人で、フィーディの後ろにいつもいる。
正直、彼に会うのも、ちょっと怖いが、思い切って部屋のドアをノックする。
………………誰も出ない。
どうなってるんだーー!! なんで!?? 何で誰も出ないんだ!?? こんなのおかしいだろ!! や、やっぱりもう既にこの城はバッドエンドを迎えているのでは……!?
「……何してるの?」
「……っっ!!」
びっくりした…………驚きすぎて、心臓が痛いくらいだ。
まだ激しく上下している胸を両手で押さえるけど、しばらくはおさまりそうになかった。
振り向いたところでパタパタ飛んでいたのは、一匹の猫くらいの大きさの竜。間違いない。俺の案内役で取り巻きのヴァグデッドだ。
なんだ……ちゃんといるんじゃないか。
ヴァグデッドは、普段は人族の男の姿をしているが、吸血鬼族と竜族のハーフで、本当の姿は見上げるほど大きな竜。
フィーディの後ろにいつもいて、主人公に嫌味を言ったり、主人公を罠に嵌めたりするけど、フィーディの傍若無人に耐えかねたのか何なのかは分からないが、ゲーム終了時には、フィーディを見捨てて、主人公を助けてしまう。その後、主人公とは和解して、城を去っていくんだ。
主人公からしたら敵から味方になる人。だけど俺からしたら、手下でありながら、途中で主人公に寝返るやつ。
フィーディとヴァグデッドが出会うシーンは、ゲームにはない。
こうして目の前にいると、なんだか可愛く見えてくる。目は金色で、羽は禍々しい色をして凶悪な爪と牙を持っているけど、ゲームでは、令息に乗り物扱いされていた。
「……俺の部屋に、何か用?」
たずねるヴァグデッドの口調は、ひどく柔らかい。
だけど油断してはいけない。
何しろ相手は、いつか裏切る奴だ。令息に対しても、面と向かって嫌いだとは言わないけれど、最後に令息が断罪されるときは、ひどく冷たい態度で「自業自得です」って言ってたような気がする。
「あの……すみません……呼んでも来なかったので……な、何かあったのかと思って……!!」
「……行くを用意してただけだ。それで、何か用?」
「……えっと……あの、お……私の護衛はどこへ行かれたのでしょう?」
「帰った」
「帰った!!?? 護衛なのに!?」
「公爵邸から、帰って来いって、連絡があったみたい」
「だ、だって、私はここにいるのにですか!?」
「ここには俺がいるって知って、だったらもう護衛はいらないだろって判断したみたい。公爵様も、最初から護衛をつける気なんて、ないんだろ」
……めちゃくちゃ見捨てられてる。
そうだよな。分かっています。もうお前は必要ないって、面と向かって一族郎党の前で言われましたから。
公爵様は、たくさん子供がいるし、俺は四男。上の三人も、下の弟たちも優秀で、人当たりもいい。俺だけハズレ。そう囁かれてるのも知ってました。
早い話、俺はこの上なく邪魔なんだ。むしろ、いない方が、公爵様にとっては都合がいいはず。魔法もろくに使えない俺は、公爵家の名に泥を塗るどころか、他の兄弟たちが重役につく際の足枷になるらしい。
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