上 下
112 / 114

112.朝から

しおりを挟む

 それから、ディゲーアは戦艦に魔法使いたちと兵士たち、国王を乗せて、国へ戻って行った。そこではすでに王子が次の国王になっていて、あのクソ国王は、幽閉されることになったらしい。
 どれだけ見放されているんだ、あいつは。

 ヴァンケズは、処刑を免れたのはディゲーアが尽力したからじゃないか、なんて言っていた。

 そして、あの草原の街に戻ってきた俺たちは、また冒険者としての日々を過ごすことになった。
 俺とヴァンケズが、魔獣の素材を集めてギルドに帰った話は、思ってた以上に広まってたみたいで、それからは、結構依頼を任せてもらえるようになった。

 朝からギルドの受付に来た俺を、いつものようにコキヤジュが迎えてくれる。

「リューオ……おはよう!」
「あー……うん。はよー…………」
「どうしたの? なんだかすごく眠そう……」
「眠いよ……」

 最近、俺は寝不足になることが多い。

 俺とヴァンケズは、二人で一つの部屋を借りて暮らしているが、夜は別々のベッドで寝てる。それを希望したのは俺なのに、隣のベッドで寝ているヴァンケズが気になって気になって仕方がない。寝ているだけでヴァンケズの寝息なんかが聞こえてくるから、全く眠れないんだ。

 しかも、昨日は俺がギルドで他の奴と長話していたことが気に入らなかったらしく、あいつが拗ねたりするもんだから、可愛くて。

「……あいつ…………なんであんなに可愛いーんだよ……」
「は?」
「な、なんでもない!! 今日はどんな依頼があるんだ!?」
「いろいろあるよ。リューオたちの噂は広まってるから。すごい冒険者がいるって」
「それはヴァンケズだろ? 俺は別に、すごくもなんともねーよ」
「自覚がないなー、リューオは。リューオに依頼したいって人も増えてるんだよ?」
「俺にか!? どんなのだ!?」
「いくつかあるけど……見てみる?」

 彼がそうたずねたところで、いきなり後ろから押された。

「邪魔。いるなよ」
「てめえ……」

 また出た。いまだに俺に何度も突っかかってくるトマティーオだ。こいつは、いつも朝から俺に喧嘩を売ってくる。ヴァンケズを探す時に協力してくれたことには心底感謝しているが、それとこれとは話が別だ!!

 俺は、早速そいつに向き直った。

「てめえ!! 何しやがる!!!!」
「邪魔だから邪魔って言っただけ。受付でぼーっと立つのやめてー。丸腰冒険者」
「それやめろ!! 剣なら買った!!」

 俺が腰の剣を見せてみても、トマティーオは「ろくに使えないくせ」に、なんて言って笑ってる。

 こいつっ……! 馬鹿にしやがって!!

「使えるに決まってるだろ!! 昨日だって俺は魔物に勝ったんだぞ!!」
「ふーん。命辛々逃げて来たんじゃないのー?」
「なんだとてめえ……」

 睨み合いになる俺たちに、ギルドに入ってきたフィエズートが、「朝から喧嘩しないでよ」と言って近づいてくる。彼も、まだ少し眠そうだ。

「……リューオは朝から元気だね……」
「元気じゃねーよ。朝から眠いのに、こいつに絡まれてたんだ!!」

 苛立ちながらトマティーオの方を指すと、トマティーオも「お前が邪魔してなかったら絡まないよー」と言い出して、ますます睨み合いになってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

竜の溺愛が国を救います(物理)

東院さち
BL
エーリッヒは次代の竜のための後宮で働いている唯一の男だ。本来、竜が番を娶るための後宮は女しか住むことができない。けれど、竜であるリュシオンが許してくれたお陰で楽しい日々を暮らしていた。 ある日大人になったリュシオンに「エーリッヒ、これからは私の相手をしてもらう。竜の気は放置しておくと危険なんだ。番を失った竜が弱るのは、自分の気を放てないからだ。番にすることが出来なくて申し訳ないが……」と言われて、身代わりとなることを決めた。竜が危険ということは災害に等しいことなのだ。 そして身代わりとなったエーリッヒは二年の時を過ごし……、ついにリュシオンの番が後宮へとやってくることになり……。 以前投稿した作品の改稿したものです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

処理中です...