上 下
109 / 114

109.心配で

しおりを挟む

「おいっ……!! フィエズート!!」

 叫んで、フィエズートを追う。

 すると、俺の声が聞こえてしまったのか、廊下に沿った扉から、人が出てきた。魔法使いだろう。その男は、侵入してきた俺たちを指して怒鳴った。

「き、貴様らっ……! 何をしてっ……!」
「お前らいると魔獣が迷惑なんだよ帰れっっ!!」

 早口で言うが、男はこっちに向かって魔法の球を放つ。帰る気はないっていう意味だろう。だったら突破するのみだ。

 俺は、向かってくる魔法の弾を避けると、拳を構えて男を殴り倒した。

「一体何人いるんだよ! この戦艦!」

 すると、俺の前を走るヴァンケズが、振り向いて言った。

「……普段より、ずっと少ないよ」

 そうなのか? さっきから、どんどん人が出てきている気がするんだが。

 先頭を走っていたフィエズートが、廊下の先にある扉の方を指差して叫ぶ。

「見てっ……!! あれ!! あったよ!! き、木箱だ!!」

 彼が指す方には、羽が生えた木箱が飛んでいる。廊下の奥にある扉に向かっているようだ。

 ヴァンケズが冷静に言う。

「まずいね……あの向こう、操舵室だ。爆発したら帰ってもらえなくなる」
「はあ!? なんだよそれ!! じゃあ急ぐぞ!!」

 俺はポケットから、さっきの羽の石を取り出した。さっき木箱に入っていたものを、一つポケットに入れておいたんだ。

 それをかじると、俺とヴァンケズがあの城を飛び出した時みたいに羽が生える。なんだか懐かしいな!! この感覚!!

 羽が生えた俺の体は、木箱めがけて吹っ飛んでいく。

 ヴァンケズが、突然の事態に驚いて俺を呼んだ。

「リューオっ!!」
「お前は敵を倒してくれっっ!!」

 廊下で騒ぐ音が聞こえたのか、木箱が向かっていた扉が開いて、魔法使いたちが飛び出してきた。侵入者の俺を見つけた彼らは、俺に向かって魔法を放つ。それは、全部ヴァンケズが防いでくれて、俺は木箱に飛びついた。

 なんとか木箱は捕まえることができたけど、抱きしめた木箱は止まることなく開いた扉の中に飛び込んでいく。

「おいっ……! 止まれよっ……!!」

 操舵室の中に突っ込みながら、木箱の羽を抑えつけると、飛ぶのを邪魔された木箱は、操舵室の中を何度か転がって止まった。

「よかったーーーー……ん?」

 ホッとしたのも束の間、突然入って来た俺を「なんだお前はっ!!」と怒鳴りつけて兵士たちが取り囲み、魔法使いたちも離れたところから武器を向けている。

 うっわー……やっべえ……突き刺されたら即死だ。

 けれどその時、兵士たちをかき分けて、ディゲーアが駆け寄って来た。

「やめろ!! お前たち!! それはっ……敵ではない!」

 そう言って、ディゲーアは木箱を抱きしめたままの俺に近づいてくる。

「リューオ……お前……なぜここに……」
「ここにいる奴らに帰ってもらいにきたんだよ! お前こそ、何してるんだ? お前もこれに乗ってたのか?」
「……いいや。俺は街でこの事態を知って……」
「心配でここまで来たのか?」
「あ、ああ……お前は? こんなところで、何を……」

 ディゲーアが不思議そうにしていると、廊下からヴァンケズが走って来て叫ぶ。

「お前たち……リューオから離れろっっ!!」

 ヴァンケズの姿を見て、その場にいた全員の顔色が変わる。よほど恐ろしいらしい。ヴァンケズは優しいのに。

「ヴァンケズ……俺は大丈夫だ! そうだ!! ディゲーアも見つけたぞ!!」

 俺がそう言うと、操舵室に飛び込んできたフィエズートが、ディゲーアに抱きついていく。

「ディゲーア!!!!」
「ふ、フィエズート!? こ、こんなところで、何を……」
「だってっっ……!! ディゲーアがっ……! ここにいるっていうからっ……!!」
「……どうやら、心配をかけてしまったようだな。すまん……」
「……無事でよかった」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

竜の溺愛が国を救います(物理)

東院さち
BL
エーリッヒは次代の竜のための後宮で働いている唯一の男だ。本来、竜が番を娶るための後宮は女しか住むことができない。けれど、竜であるリュシオンが許してくれたお陰で楽しい日々を暮らしていた。 ある日大人になったリュシオンに「エーリッヒ、これからは私の相手をしてもらう。竜の気は放置しておくと危険なんだ。番を失った竜が弱るのは、自分の気を放てないからだ。番にすることが出来なくて申し訳ないが……」と言われて、身代わりとなることを決めた。竜が危険ということは災害に等しいことなのだ。 そして身代わりとなったエーリッヒは二年の時を過ごし……、ついにリュシオンの番が後宮へとやってくることになり……。 以前投稿した作品の改稿したものです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

処理中です...