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96.こういう時
しおりを挟むヴァンケズは、もう俺のヴァンケズだ。誰にも渡さない。
けれど、そう宣言した俺を、その男が睨みつける。
「…………こ、こっちだって……も、もう後がないっ…………」
「それは、陛下に命じられているからか?」
バラルレイがたずねると、男は大きく震えた。そして、急にその場に倒れてしまう。
「お、おい……どうした?」
俺が近づいて体を揺すってみても、その男は起きない。
「なんだよ……急に……」
びっくりする俺の隣で、ヴァンケズがその男に触れた。
「魔法で眠ってる。きっと、そいつが強力な魔法の道具を使ったんだ」
そう言って彼は、男の懐から丸い球を取り出した。
「これ。魔力を取り上げられていても使えるものだ。先に取り上げておけばよかった……これを使ったのなら、魔法を解かない限り、起きないよ」
「何でそんな魔法がかかってるんだ?」
「拷問されると思ったんだろ……」
すると、フィエズートが首を傾げる。
「だからって、自分に魔法をかけるなんて……寝てる間に殺されるかもしれないのに……」
それを聞いたバラルレイが、肩を落としてため息をついた。
「拷問されても話せないし、それくらいなら殺せという意思表示だろう。国王の魔法使い部隊が、一番に教えられることだ。忠誠を誓い、それに背くくらいなら死を選べと」
「なんだそれ。クソだな!!!! 相変わらず、クソ国王じゃねーか!!」
俺が言うと、バラルレイは「クソ国王と言うな!」って言うけど、クソはクソだ!
争いの気配を感じたのか、フィエズートが俺とバラルレイの間に入って来た。
「お、落ち着いてよ……二人とも……それより、この人、どうする? 放っておくと、魔物に殺されちゃうかもしれないし……魔法を解く?」
すると、ヴァンケズが首を横に振った。
「無理に解けば、体に大きな負担がかかる。先にコキヤジュに連絡して、ギルドで保護してもらうよ」
「だ、大丈夫? ギルドで暴れたりしないかな……」
恐る恐ると言った様子でフィエズートが聞くと、ヴァンケズは肩をすくめて言った。
「大丈夫だよ。魔力は取り上げてあるし、拘束の魔法をかけておくから。コキヤジュがギルドと相談して、街の警備隊と議会の方に話をつけてくれている。証拠さえあれば、周辺の国々にも連絡できる。そうなれば、あいつらも逃げていくだろ」
「…………でも、それって、王国の王にも分かっているはずだよね……? それなのに、こんなことして……どういうつもりなんだろう……」
「よほど追い詰められてるんじゃない? 俺はどうでもいいけど。バラルレイ、フオライ、こいつのこと、頼める?」
ヴァンケズに言われて、バラルレイ達は驚いたようだ。
「俺たちに言っているのか?」
「そうだけど、何か問題ある?」
「……いいや。だが、俺たちが裏切るかもしれないとは思わないのか?」
「え? 裏切るつもりだったの?」
「そんなつもりはないが…………お前が俺たちに、そんなことを任せるとは思わなかった」
「……嫌ならいい。俺が行って置いてくる」
「ま、待て! 嫌だとは言っていないだろう!!」
慌て始めたバラルレイに、俺はヴァンケズの肩を抱いて言った。
「気にすんなよ!! こういう時のヴァンケズは、照れてるだけだからな!!」
「リューオ…………そんなんじゃないから……」
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