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93.嫌なのか?

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 慌てふためく俺を見て、ヴァンケズは首を傾げている。

「リューオ? どうしたの? 何かあった?」
「な、なんでもねーけど……なんでそんな格好で外に出てるんだよ……あ、頭くらい乾かせっ……!」
「魔法で乾かしたつもりだったんだけど……あ、まだ濡れてる……」

 そう言って、ヴァンケズは自分の前髪を摘み上げてる。

 こいつ……俺の世話は焼くくせに、自分のことにはひどく無頓着だ。髪も体も、多分自分では乾かしたつもりなんだろうけど、まだ結構濡れてる。特に、髪。それから流れ落ちた雫が、彼の額から頬、顎まで伝っていって、怖いくらいに色っぽい。自分で気づいてないのか?

「リューオ? どうしたの?」

 俺の様子がおかしいの気づいたのか、ヴァンケズは俺の顔を覗き込んでくる。急にそいつの顔がすぐそばに来て、俺は、微動だにできなくなった。そいつの前髪から、ぽたっと水が落ちて、少しそいつの頬が赤い。多分、風呂に入っていたからなんだろう。

「な、何だよっ……!」
「何って…………なんだかリューオ、さっきからおかしいから……」
「おっ……おかしいのはお前の方だろ……!!」
「へ?」

 だって、なんでそんな……何でもないような顔してるんだよ……俺はこいつの顔を見ることも難しいのに。

「ほら……来いよ」
「え?」
「髪の毛拭いてやるっ……そ、そんな格好、俺以外のやつに見せんなよ!!」

 気づいたら、ちょっと乱暴に言って、そいつの手をとって、風呂場から出ていた。

 すると、そこにいた全員が俺に振り向いた。そりゃ、あれだけ大声で叫んでたら、みんなに聞こえるよな……

 話していたこと、全部聞かれていたような気がして、すげー恥ずかしい。だけど、ヴァンケズの手を離したくない。

 俺は、タオルを持って、ヴァンケズに振り向いた。

「座れよ。髪、拭いてやるから」
「自分でできるよ」
「そういうことじゃねーんだよ!! 座れって!」
「ほら、もう乾いただろ?」

 そう言って、そいつはすっかり乾いた髪を見せてくる。
 こいつ……魔法で髪の毛乾かしやがった……

「な、なんだよっ……俺にされんのは嫌なのかよ!」

 やっぱり俺、ぜってーこいつのこと、好きだ……







 そんなことを考えていたら、俺はその日、眠れなかった。

 お陰で朝から眠い。これから、草原であのクソ国王が送り込んだ魔法使いの部隊とやり合おうっていうのに。
 早朝からそいつらを探して草原に出た俺だけど、朝から眠くてあくびばかり繰り返している。

 俺とヴァンケズと一緒に草原に来たのは、フィエズートとスキュクイド、バラルレイとフオライ。

 宿を出てからも、ずっと眠そうな俺に、フィエズートが振り向いた。

「リューオ……寝不足? すごく眠そう」
「……眠い……」
「……これから王国の魔法使い達と戦おうっていうのに、どれだけ余裕なんだよ……リューオらしいけど」

 んなこと言ったって、眠いものは眠い。しかも、今だってあのクソ国王のことなんて、まるで頭になくて、バラルレイと並んで先頭を歩くヴァンケズのことばかり考えてる。

 本当は隣に行きたいが……それじゃ戦えないような気がする。あいつのこと、意識しすぎて。
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