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88.勝てるはずがない

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 ヴァンケズが怖い顔で言うのを聞いて、バラルレイは少し怯んだようだった。

 すると、それを聞いていたコキヤジュも、腕を組んで言う。

「確かに、数人の冒険者から、そんな話を聞いたことがある……国を守るため、なんて言ってるけど、ここはあいつの国じゃない。あそこで結界を張って、そこの素材を独り占めする気なんだろ」
「え? いいのか? それ」

 俺が聞くと、コキヤジュは呆れたように肩をすくめる。

「いいわけないだろー、そんなの。もともと、この街は精霊が集まって作った街で、王国の支配を受ける街じゃない。街を守る警備隊は、当時の精霊たちが集まって作ってるし、街のことは議会が決める。だけど、特に兵士なんかがいるわけじゃないから、魔物や魔獣が集まって暴れた時なんかは、僕らの方に依頼が来ることも多い。何度か侵略の危機はあったけど、その度に追い返してきた。今では周辺の国からも、素材の街として認められて、素材集めの拠点として、冒険者が集まる街になってるんだ。そんなところのすぐそばで、結界作って素材独り占めにする計画なんて、かなりヤバいものだと思うけど……」
「ふーん……」
「ふーんって……リューオ、ちゃんと全部聞いてた? 結構僕、一大事な話をしてるよ?」
「んなこと言われてもな……俺にはよく分かんねーし……とにかく、あのクソ国王の結界をなんとかしねーと、魔獣を縄張りに返してやることはできねーってことだろ?」
「ざっくり言うと、そうだけど……」

 コキヤジュは疲れたような顔をして黙ってしまう。

 あのクソ国王が草原で何してようが、あいつの勝手だが……

 抱っこしてる魔獣を見下ろす。そいつは、俺らの話なんてまるで分かっていないみたいで、俺の手に鼻先をくっつけて遊んでいた。こいつのことは、縄張りに返すって決めてるんだ。

「……追い払いに行くか。そいつらのこと」

 俺が言うと、その場にいた全員が振り向く。

「だって、そうしないと、こいつを返してやれねえんだろ?」

 すると、早速バラルレイが俺を怒鳴りつける。

「馬鹿か!? 何を考えているっっ!? 追い払うだと!? そんなことができると思っているのか!! 草原から魔獣を連れてくるのとは、訳が違うんだぞっ……!!」
「んなこと言ったって……こいつのことは縄張りに返すってもう決めてるし…………このままじゃ、こいつを縄張りに返せねえだろ?」
「そうかもしれないが、だからといって……無謀だ。向こうは魔法使いの部隊を引き連れて来ている。お前はヴァンケズと二人だろう?」
「んなことねーよ。俺、ヴァンケズ。それにお前と、そっちのフオライ」
「俺も数に入るのか!!??」
「だって、俺らだけじゃ、国王がどこにいるのかも分かんねーし、せっかくこうして会えたんだ。一緒に行こうぜ!」
「……何を……ば、馬鹿なことをっ……無謀だと言っただろう! 死ぬだけっ……そうでなければ、拘束されて結界の魔法のために利用されるだけだっ……! そんな目にあいたいのか!?」
「……お前ら、他にもいたんだろ?」
「なに!? 何がだ!?」
「ヴァンケズが言ってたじゃないか。お前ら以外にも、誰かいたんだろ? ここに。そいつらはどうしたんだよ?」
「…………」
「……お前ら、俺らがあのクソ国王の命令で、お前らのこと捕まえに来たんだと思ったって言ってたよな? それって、そういうふうに捕まった奴らがいるからじゃねーのか?」
「…………」

 バラルレイは何も言わない。ヴァンケズが、「そうなの?」って聞いても、俯いてこちらとは目を合わせずに無言のままだ。フオライの方は、バラルレイにしがみついて顔を上げようとしない。怯えているみたいだった。俺やヴァンケズを相手にしたって、そんな風にならなかったくせに、よっぽどあのクソ国王が怖いらしい。

「……お前らだって、あのクソ国王に追われるのは嫌だろ? ……だったら来いよ」
「…………」
「それに、何も四人だけじゃねえ! フィエズートとスキュクイド、コキヤジュとトマティーオも一緒だ! これで八人だな!」

 胸を張って言う俺に、トマティーオは「俺を数に入れんな!」って叫んで、コキヤジュは「僕、ギルドの規則には逆らえないんだけど」って言ってた。

 ヴァンケズは俺の肩に手を置いて微笑む。

「俺はいい案だと思うよ。あの国王から逃げるのも癪だし、何よりこのままだと、リューオに手を出されそうだから」
「何を言っている!! ヴァンケズ!!」

 バラルレイは叫んで、ヴァンケズに詰め寄っていく。

「お前っ……しばらく会わないうちに気が触れたのか!!?? 全員合わせてもたった八人だ! 勝てるはずがないっ……!!」
「そんなことないよ。リューオがいるから……」
「……ヴァンケズ……お前、どうしてしまったんだ!? その人族一人に何ができる!!?? そ、そいつはなんだ!??」

 怒鳴るバラルレイの前で、ヴァンケズは俺を抱き寄せる。

「俺は、リューオと二人で好きに生きるって決めてるから」
「お、おいっ……ヴァンケズ!!」

 俺が声を上げると、ヴァンケズはキョトンとして俺を見下ろす。

「え? 嫌?」
「い、嫌なんじゃなくて……」

 俺を抱きしめてることは無視かよ!! 俺、お前の腕の中で固まっているんだが!? なんでこいつ、いつも急にこういうことするんだよ!

 バラルレイたちは目を丸くして立ち尽くしているし、俺もびっくりして何も言えない。

 俺の腕の中で、俺の体とヴァンケズの体に挟まれてしまった魔獣が少し苦しそうな声を上げて、逃げていった。

「あっ…………待てよ!」

 慌ててヴァンケズのことを振り払い、俺は魔獣に駆け寄って抱き上げる。

 こいつ……いつもいいところで逃げ出すんだよな……

 魔獣から目を離すわけには行かないが、ヴァンケズの腕を振り払ったことが、勿体無く思えてくる。

 肩を落としていると、ヴァンケズはいつのまにか、俺のすぐ背後にいた。

「ヴァンケズ……」
「……リューオはさぁ……俺のこと…………どう思ってる?」
「え!??」

 いきなりそんなことを言われるなんて、思ってなかった。
 驚く俺を、ヴァンケズは少しだけ苦しそうに見下ろしていた。
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