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86.もうすっかり
しおりを挟む部屋に入ってきた二人の男を、ヴァンケズは睨みつけた。
「……お前たちこそ、こんなところで何してたの?」
決して脅している訳ではないのに、凄みを感じる声でヴァンケズに聞かれて、二人は勢いを削がれたようだ。二人とも、俺らから顔をそむけ、俯いている。
……もうすっかり戦意はないみてーだな……
そいつらがいつ反撃してきても応戦できるように、ヴァンケズとフィエズート、スキュクイドに、トマティーオとコキヤジュまで、そいつらから目を離さないでいる。
これなら、襲って来たりはしないだろう。
「なあ……お前ら……ヴァンケズの同僚なんだろ?」
俺が聞くと、男たちは驚いたのか顔を上げた。
「違うのか? 王国の城で一緒に働いてたって、ヴァンケズから聞いたんだけど……」
たずねると、男たちのうちの一人が俺を睨んだ。
「……ああ。そうだ……お前は? 一体何者だ? なぜヴァンケズと共にいる?」
「……俺はリューオ。そう呼べばいい」
「リューオ……? 王国の魔法使いではないのか?」
「俺、魔法使えそうに見えたか? 使ってみてーけど……そんなのは俺には無理だ。俺は、あー……色々あって、ヴァンケズと一緒に王国から逃げてきたんだ。魔法は使えねーけど……ヴァンケズとは仲間だ!!」
「仲間…………? ヴァンケズとか……?」
「そうだ。この草原まで逃げてきた時からずっと一緒にいる! よろしくな!!」
「……」
二人とも黙って、俺から距離を取ってる。
すっげー警戒されてんな……
だが、相手はヴァンケズやフィエズートたちを気絶させてこの屋敷に監禁していた奴らだ。事情がわかるまで、こっちだって気を許す気はない。ただ、このままじゃ、弱いものいじめしてるみてーで嫌だっただけだ。
「……なあ、俺は名乗っただろ? そっちは?」
「……バラルレイだ」
そう二人のうちの大柄な方の一人が答える。けれどもう一人は、バラルレイの後ろに隠れてしまった。代わりにバラルレイが、そいつのことを紹介してくれた。
「……こいつはフオライ。俺と一緒に王国を追われている」
「お前たち、二人だけじゃないだろ?」
ヴァンケズに聞かれて、バラルレイの方が怯む。
俺は、ヴァンケズの方に振り向いた。
「え? まだいるのか?」
「多分……ここにきた時、他に追放されたやつの名前出して話していたし……」
すると、それを聞いたバラルレイの顔が歪む。
「……聞いていたのか? 相変わらず、嫌な奴だ……」
「おいっ!! 待てよ!! ヴァンケズは嫌な奴じゃねーぞ!」
俺が言い返すと、ヴァンケズは俺に優しく微笑んで、俺を庇うように前に出る。
「……リューオ……いいんだ」
「何がだよ? お前はいい奴だし、俺の仲間だ!」
「……ありがとう……でも本当に大丈夫だから」
「ヴァンケズ……」
彼は、二人に向き直った。
「……俺のことは好きに言っていい。だけど、今の俺たちに手を出すことはやめろ。俺はもう、お前たちとも王国とも関係ないんだ。なぜ俺たちをこんなところに連れてきた?」
「……お前たちが……魔獣を連れていたからだ」
そう言って、バラルレイは俺のことを睨んでいる。
「いるんだろう……? 草原から連れてきた魔獣がっ……」
俺は、カゴの中の魔獣を抱っこして見せた。
「こいつのことか? 可愛いだろ?」
「そんなものをここに連れてきて、どういうつもりだ!! 縄張りから連れ出したのか!?」
「んな訳ねーだろ。草原で縄張りから連れ出されて一人でいたから、こうして連れてきただけだ。俺らで縄張りに返すんだよ!」
「縄張りに?」
「ヴァンケズがそんなことする訳ねーだろ。魔獣だって、ヴァンケズが助けてくれたんだぞ!」
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