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76.泣きそう
しおりを挟む見つかったからには仕方ない。
「……もう面倒くせえっ……こうなったら突っ込むぞ!」
「は!?」
トマティーオは驚いているけど、作戦なんか何にも思いつかないんだから仕方ない。
魔獣の入ったカゴは、持っていると絶対落とすか魔獣に怪我をさせるかしそうだし、コキヤジュに預けた。
「そいつのこと、頼む。あいつと一緒に縄張りに返すって、約束してるんだ」
「……中にいるのが……あれだし……絶対守るけど……リューオはどうするの?」
「俺はヴァンケズ探しに行く。助かったよ。ここまで付き合ってくれて!」
俺は、トマティーオに振り向いた。
「お前も、ここまででいいぞっ……! 案内、助かった!!」
「……お前だけでなんとかなるって思ってるー?」
「なんとかするっ!! さすがに、これにお前らは巻き込めねーよ!! 今度礼するわ! じゃあな!!」
「おいっっ!!!! 待てよ馬鹿!!」
叫ぶトマティーオを置いて、俺は、屋敷から出て来た男に掴みかかった。
男はひどく驚いていたが、この顔、間違いない……
「……やっぱりお前……あの時スキュクイドを襲ってた奴らだな……」
「な、なんだお前はっ……スキュクイドを知ってるのか!?」
「聞いてんのは俺の方なんだよ!! お前らっ……スキュクイドに何してたんだよっ……! フィエズートは……俺の仲間はどこだ!? ヴァンケズどこやった!!??」
怒鳴っていたら、いつのまにか力が入っていたらしい。そいつは苦しそうにあいつの名前を呟いて、屋敷の奥に振り向いた。
やっぱり……いるんだ!! ここに、あいつがっ……!
もう、あいつのことで頭がいっぱいだったらしい。俺はそいつのことを乱暴に離すと、屋敷の中に飛び込んでいた。無防備にも、解放した男に背を向けて。
背後から、怒鳴り声がした。トマティーオが俺のことまた馬鹿って叫ぶ声だった。
走って屋敷の奥へ向かう俺の背後から、魔法の弾が飛んでくる。それは、俺の肩を掠めて、切り裂いていく。
だけど、痛みなんて感じなかった。ここにヴァンケズがいるんだって思ったら、そんなこと、どうでもよかった。
「ヴァンケズっっ!! いるのかっっ!!?? ヴァンケズ!!」
叫んで、暗い廊下を走る。すると、奥の扉が少し開いていることに気づいた。その扉に駆け寄って、乱暴に開く。すると、そこは思っていたよりずっと広い部屋だった。
多分、大人数で集まるための広間なんだろう。ここに誰かが住んでいたときは、パーティーでもやっていたのかもしれない。
だけど今は、カーテンが破れて、窓は割れているのかそれとも開けっぱなしになっているのか、風が入って来てはカーテンを揺らしている。部屋にあるのは、そのボロボロのカーテンと、部屋の端に追いやられたテーブルと椅子。そして、それに寄りかかるようにして、一人の金色の長髪の男が、目を瞑ってぐったりしていた。
「ヴァンケズ…………ヴァンケズっっ!!!!」
俺は、ヴァンケズに駆け寄った。何度か名前を呼んで、彼の体を何度も揺さぶる。息はしてる。ちゃんと生きてるっ……! 怪我もしていないようだ。
何度も呼ぶと、ヴァンケズはゆっくりと、瞼を上げた。それが、ひどく長い時間に感じた。
彼は、まだ長いまつ毛に隠れた瞳で俺を見上げて、俺がそこにいることに気づいてくれたみたいだ。
「…………リューオ……?」
「ヴァンケズ……お、お前…………」
まだ、そいつがそこにいることが信じられない。そいつの頬に向かって伸ばした俺の手が、おかしいくらいに震えてた。ヴァンケズが見つかって、そいつは無事で、俺の前にいて、目を開けてくれたのに、まだ怖い。ちゃんとヴァンケズが俺の前にいるんだって、まだ確認できてないみたいで。
「ヴァンケズ……お前。どっか怪我してないか? 痛いとことか……そういうの、ないか?」
「うん……リューオこそ…………ごめん。油断した……いって……」
彼が、こめかみを抑えて顔をしかめる。何かあったのかと思った。
「お、おいっ……だ、大丈夫かよっ……」
「うん。俺は平気だよ…………魔法、使って……眠らされてたみたい……」
「お前が……? ……ったく、し、しっかりしろよ!! し、心配したんだからなっっ!!」
「ごめんね…………リューオ、泣きそう」
「はあ!?? んなわけねーだろ……」
慌てて、俺はそいつに背を向けて涙を拭いた。強がってはみるが、ヴァンケズが無事だったんだと思うと、それでもまだ、涙が溢れて来そう。こんなことで泣くとか、俺じゃねー……
「べ、別にっ……な、ないてなんかねーし! お前が……無事で……嬉しいだけだ……」
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