上 下
76 / 114

76.泣きそう

しおりを挟む

 見つかったからには仕方ない。

「……もう面倒くせえっ……こうなったら突っ込むぞ!」
「は!?」

 トマティーオは驚いているけど、作戦なんか何にも思いつかないんだから仕方ない。

 魔獣の入ったカゴは、持っていると絶対落とすか魔獣に怪我をさせるかしそうだし、コキヤジュに預けた。

「そいつのこと、頼む。あいつと一緒に縄張りに返すって、約束してるんだ」
「……中にいるのが……あれだし……絶対守るけど……リューオはどうするの?」
「俺はヴァンケズ探しに行く。助かったよ。ここまで付き合ってくれて!」

 俺は、トマティーオに振り向いた。

「お前も、ここまででいいぞっ……! 案内、助かった!!」
「……お前だけでなんとかなるって思ってるー?」
「なんとかするっ!! さすがに、これにお前らは巻き込めねーよ!! 今度礼するわ! じゃあな!!」
「おいっっ!!!! 待てよ馬鹿!!」

 叫ぶトマティーオを置いて、俺は、屋敷から出て来た男に掴みかかった。

 男はひどく驚いていたが、この顔、間違いない……

「……やっぱりお前……あの時スキュクイドを襲ってた奴らだな……」
「な、なんだお前はっ……スキュクイドを知ってるのか!?」
「聞いてんのは俺の方なんだよ!! お前らっ……スキュクイドに何してたんだよっ……! フィエズートは……俺の仲間はどこだ!? ヴァンケズどこやった!!??」

 怒鳴っていたら、いつのまにか力が入っていたらしい。そいつは苦しそうにあいつの名前を呟いて、屋敷の奥に振り向いた。

 やっぱり……いるんだ!! ここに、あいつがっ……!

 もう、あいつのことで頭がいっぱいだったらしい。俺はそいつのことを乱暴に離すと、屋敷の中に飛び込んでいた。無防備にも、解放した男に背を向けて。

 背後から、怒鳴り声がした。トマティーオが俺のことまた馬鹿って叫ぶ声だった。

 走って屋敷の奥へ向かう俺の背後から、魔法の弾が飛んでくる。それは、俺の肩を掠めて、切り裂いていく。
 だけど、痛みなんて感じなかった。ここにヴァンケズがいるんだって思ったら、そんなこと、どうでもよかった。

「ヴァンケズっっ!! いるのかっっ!!?? ヴァンケズ!!」

 叫んで、暗い廊下を走る。すると、奥の扉が少し開いていることに気づいた。その扉に駆け寄って、乱暴に開く。すると、そこは思っていたよりずっと広い部屋だった。
 多分、大人数で集まるための広間なんだろう。ここに誰かが住んでいたときは、パーティーでもやっていたのかもしれない。
 だけど今は、カーテンが破れて、窓は割れているのかそれとも開けっぱなしになっているのか、風が入って来てはカーテンを揺らしている。部屋にあるのは、そのボロボロのカーテンと、部屋の端に追いやられたテーブルと椅子。そして、それに寄りかかるようにして、一人の金色の長髪の男が、目を瞑ってぐったりしていた。

「ヴァンケズ…………ヴァンケズっっ!!!!」

 俺は、ヴァンケズに駆け寄った。何度か名前を呼んで、彼の体を何度も揺さぶる。息はしてる。ちゃんと生きてるっ……! 怪我もしていないようだ。

 何度も呼ぶと、ヴァンケズはゆっくりと、瞼を上げた。それが、ひどく長い時間に感じた。
 彼は、まだ長いまつ毛に隠れた瞳で俺を見上げて、俺がそこにいることに気づいてくれたみたいだ。

「…………リューオ……?」
「ヴァンケズ……お、お前…………」

 まだ、そいつがそこにいることが信じられない。そいつの頬に向かって伸ばした俺の手が、おかしいくらいに震えてた。ヴァンケズが見つかって、そいつは無事で、俺の前にいて、目を開けてくれたのに、まだ怖い。ちゃんとヴァンケズが俺の前にいるんだって、まだ確認できてないみたいで。

「ヴァンケズ……お前。どっか怪我してないか? 痛いとことか……そういうの、ないか?」
「うん……リューオこそ…………ごめん。油断した……いって……」

 彼が、こめかみを抑えて顔をしかめる。何かあったのかと思った。

「お、おいっ……だ、大丈夫かよっ……」
「うん。俺は平気だよ…………魔法、使って……眠らされてたみたい……」
「お前が……? ……ったく、し、しっかりしろよ!! し、心配したんだからなっっ!!」
「ごめんね…………リューオ、泣きそう」
「はあ!?? んなわけねーだろ……」

 慌てて、俺はそいつに背を向けて涙を拭いた。強がってはみるが、ヴァンケズが無事だったんだと思うと、それでもまだ、涙が溢れて来そう。こんなことで泣くとか、俺じゃねー……

「べ、別にっ……な、ないてなんかねーし! お前が……無事で……嬉しいだけだ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...