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70.あぶねーだろ!

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 言い返すと、早速トマティーオと睨み合いになる。

「帰れ。店主は忙しい。お前らに会ってる暇なんか、ないんだよ」
「なんでお前がんなこと決めんだよ。俺だって大事な用があって来てんだ。ディゲーアのこと聞くまで、ぜってー帰らねーからな……」
「……ふーん…………だったらいいよ。追い出すまでだ」

 そう言って、トマティーオはカウンターから離れて俺に近づいてくる。
 いい度胸だ……どうせ店主が戻ってくるまで待たなきゃならねーんだ。この場でぶん殴る!

 だけど隣のコキヤジュが俺の服をくいっと引っ張って、俺を止める。

「リューオ、やめた方がいいよー」
「なんでやめなきゃならねーんだよ。喧嘩売ってきたのはあいつだろ!!」
「……でも……」
「お前は怪我しねーように離れてろ……すぐに終わらせてやる……」
「……冒険者を終わらせられたらギルドとしては困るんだけど……」
「いいから、お前は見てろ」

 俺は、トマティーオに向き直った。

「お前……草原で俺にあっさり負けたの、忘れたのか?」
「…………あんなの手加減してやったに決まってるだろ? なに勝った気になってるの?」
「だったら今度は本気でやれよ? 負けて言い訳聞かされんのはもう飽きたからな!」
「そーかよっ……!」

 ついにそいつが拳を振り上げる。俺も応戦しようとしたが、その時、肘のあたりが棚にぶつかった。すると棚は揺れて、そこに並んでいた置物みたいなものが倒れてしまう。そーいえばここ、店内だった。

「やべ……おい、少し待ってろ」

 トマティーオを制止してから、元に戻そうと、倒れたものに手を伸ばす。すると、背後のトマティーオが、俺に叫んだ。

「馬鹿! 触んなっ……!」
「はあ? なんでだよ?」

 倒れたものを元に戻すだけなのに、なんで焦ってるんだ?

 そう思ったけど、そいつがそう叫んだ理由は、すぐに知れた。倒れた置物に手を伸ばした瞬間、俺めがけて、倒れた置物が真っ白な光の弾を飛ばしてきたんだ。

「うわっ……!」

 慌てて、避ける。光の弾は俺の頬を掠めて消えた。トマティーオが叫んでなきゃ、こめかみを撃ち抜かれていたかもしれない。

「な、なんなんだよっ……今のっ……!」
「だから触るなって言っただろ……盗難防止の魔法だ」

 そうトマティーオは答えるけど、俺は断じて盗みを働こうなんてしてない。倒れた物に触れてすらいない。ただ、倒れたものを直そうとしただけだ。

「そんなあぶねー魔法かけんなよ! 客を殺す気か!??」
「客じゃないだろー。お前。買いにきたわけじゃないくせに」

 そう言って、そいつは俺から離れると、カウンターの裏から、長い箸を持ってきた。

「なんだよ、それ」
「これ使って元に戻して。触らなきゃ、魔法の弾も飛んでこないから」
「はあ!? ほ、他に方法ねーのか!? またさっきの撃ってきたらどうするんだよ!」
「その時は大人しく死んだら?」
「てめえ……ざけんなよっっ!! 他人事だと思いやがって!! 魔法を解けばいいだろ!!」
「俺にその魔法は解けない。言っただろ? 俺は店主を待ってただけで、この店の店員じゃないんだよ」
「……」

 くそ……そうだったな……

 悔しさを押し殺しながら、俺は箸を奪い取った。それは、食事をする箸の三倍くらいはありそうで、かなり持ちにくい。

 箸を持って、倒れた置物にそっと箸の先を近づける。だけど、さっき光の弾にこめかみを撃たれそうになったことを思い出したら、なかなかそれに触れられない。

 なんで俺はこんなことやってんだ……

「なあ、これ……直すの失敗したら、また弾飛んできたりするのか?」

 振り向いてたずねると、トマティーオは腰に手を置いて言った。

「俺も、詳しくは知らない。だけど、何度も動かすと今度は警備隊を呼ぶはずだ。気を付けろよー」
「殺しにくるより先に警備隊呼べよ!!」
「あと、それ、そのまま放っておいても警備隊くるから」
「はあーー!? なんだよそれ!!」

 ……だけど、先に警備隊呼ばれたら困るのは俺か……
 くそ……だったら、かなり怖いが、警備隊がくる前に元に戻すしかねー!!

 緊張しながらそれに箸をゆっくり近づけていたら、背後からまたトマティーオの声がした。

「それで? お前らが言ってる、店主に聞きたいことってなんだ?」
「はあ!? なんで今そんなこと聞くんだよ!!」

 怒鳴って振り向くと、そいつはニヤニヤしながら言った。

「だって、お前ら、何か聞きにきたんだろ? 俺でも力になってやれるかもしれないよー」
「本当か!? うわっ……!」

 話に夢中になっていたら、箸の先で置き物を倒してしまいそうになった。
 背後から笑い声がする。あの野郎……わざとやったな!!

 すると、少し離れたところで俺らの様子を見守っていたコキヤジュが、呆れたように言った。

「リューオ……そんなことしなくても、魔法で箸を操れば、すぐに元に戻せるよ? 僕がやるから……」
「いい。お前は下がってろ! 失敗してさっきの弾が飛んできたらあぶねーだろ!」
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