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65.どこだ?
しおりを挟む暗い道を歩いて行くスキュクイドを追っていると、彼の前に、二人の男が立ち塞がった。それからしばらく彼らは路上で話していたけど、何だか険悪な雰囲気だ。一人がスキュクイドの持っていた袋に手を伸ばして、それを引っ張っている。何か揉めているらしい。
ヴァンケズが、スキュクイドと言い合う奴らを見て、舌打ちをしていた。
「あいつらっ…………それでスキュクイドは逃げたのか……」
「どう言うことだよ……?」
俺が聞くと、彼は苦々しい顔で答える。
「あそこにいる奴ら……以前国王に仕えてた魔法使いだ」
「はあ!? なんだよそれっ……!! じゃあ、お前の元同僚?」
「……そうなるね……俺と同じように追放された奴らだ……」
言いながら、ヴァンケズは彼らの方を睨んだまま目を離さない。
そいつらのうちの一人が、スキュクイドに殴りかかろうとした。
あいつらっ……!
怒りに任せて出て行こうとしたけど、それより早く、ヴァンケズの方がそいつらを怒鳴りつけていた。
「お前たちっっ……!! 何をしている!!!!」
怒鳴り声に気づいて、全員が振り向く。スキュクイドは俺たちを見つけて、ひどく驚いていたけど、それ以上に、スキュクイドに絡んでいた奴らの方が驚いている。彼らも、ヴァンケズのことを覚えているらしい。
「ヴァンケズ…………!??? まさかっ……追放されたって、本当なのか……?」
「そんなこと、どうでもいい。何をしている……バラルレイ!」
「…………」
男は苦い顔をして、ヴァンケズをじっと睨んでいた。痺れを切らしたのか、ヴァンケズがそいつを怒鳴りつける。
「聞いているのか!? バラルレイ!」
「…………お前……そのカゴの中のものは何だ?」
そう言ったそいつは、俺が抱きかかえたカゴを指していた。
とっさに隠すが、すでにそいつの指先からは光が飛んで、俺が抱えていたカゴを包む。
すると、それにかけていた布がピクッと動いた。
魔獣に何かあったのかと思った。慌てて布をどけると、そこには無傷の魔獣の姿。怪我がなくてホッとしたけど、起きないはずの魔獣はパチっと目を開けて起き上がり、カゴから飛び出していってしまう。
「お、おいっ……待てよ!!!」
手を伸ばすけれど、魔獣は俺の手をすり抜けて地面に飛び降りると、俺に背を向けて走っていく。
背後から、ヴァンケズの声がした。
「リューオ!! 魔獣を頼むっ……!」
振り向けば、彼はスキュクイドを襲っていた奴らと交戦中。フィエズートも剣を抜き、スキュクイドを守ってもう一人の男の剣を受けていた。
「分かった……! 任せろっっ!! すぐ戻る!!」
叫んで告げて、俺は魔獣を追って走り出した。
草原では見上げるほど大きくて、俺たちに襲いかかってきていた魔獣も、今は俺が抱っこできるくらい小さい。すばしっこく逃げては、横道に入り、細い路地を走って行く。
「おいっ……! 待てよっっ!! 待てって!!」
路地には木箱や瓶が散乱していて走りにくい。だけどそれは、逃げる魔獣にとっても同じだったようで、そいつは木箱を避けて飛び上がったところで、ゴミ箱にぶつかり転んでしまう。その衝撃でゴミ箱が倒れて、魔獣は溢れたゴミに埋もれてしまった。
「おいっ……大丈夫か!?」
すぐに駆け寄って、魔獣を抱き起こす。そいつは体を震わせて、体についたものを落としていた。怪我をした様子もないし、無事みたいだ。
「よかった……後で洗ってやるから、もう逃げんなよ!」
俺が言っても、魔獣は返事をしなかったけど、俺のことをじっと見上げていた。
とにかく、急いでヴァンケズたちのところに戻ろう。あいつらだって戦っているはずだ。
来た道を走って戻って、路地から飛び出す。すぐにさっきまで俺たちがいた通りに出たけど、そこには誰もいない。
あれ……? あいつら、どこにいったんだ?
確かにここで、スキュクイドが襲われていて、それを俺たちは止めに入った。ヴァンケズが同僚だって言う奴らに会ったのに。ヴァンケズ、どこに行ったんだ……?
スキュクイドと、フィエズートもいない。
スキュクイドを囲んでいた奴らも、誰もいなくなっていた。
「おいっ……ヴァンケズ! スキュクイド!! フィエズート!! どこだよっ……!」
叫んであたりを見渡しても、誰も出てこないし、返事もない。
相手は二人だった。ヴァンケズがいればやられるはずがないと思うが、もしかしたら、他に仲間がいたのかもしれない。
「ヴァンケズっ!! フィエズートっ……!! ヴァンケズ!!!! どこだ!!」
声を上げて、あいつらを探す。血の跡や、道路が焦げたような跡はない。特に交戦の後は見当たらない。そして、ヴァンケズたちを探せそうな手がかりも全くない。周りを探してみても、やっぱりあいつらはいない。
「ヴァンケズ……おいっ…………ヴァンケズ!!」
叫んで、ハッとした。いつのまにか、周りに人が集まってきている。しかも、俺の方を指差して何か話していたり、中には懐に手を入れていたり、腰の剣に手をやっている奴までいて、なんだかやばい雰囲気だ。そうだ……フィエズートに、「国王がリューオたちを探してるんだから気をつけて」って言われてたんだ。
これだけの人数に囲まれたらやばい。
俺は、魔獣を強く抱きしめて、その場を逃げ出した。
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