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58.行こう
しおりを挟む背中に乗せた俺に向かって、ヴァンケズが言った。
「リューオは俺の背中にいて」
「もちろんだ! お前に向かってくる魔物は、俺が倒してやる!」
「……俺の背中で大人しくしててって意味なんだけど……」
「なんだよお前!! 俺だけ仲間はずれにする気か!??」
「……そうじゃない……俺はリューオに死んで欲しくないだけ。魔物は任せるけど……あいつらは草原にいたものより強力だ。危ないと思ったら、拘束してでも大人しくしててもらうから」
「構わねーよ! 危なくなったりしねーからな!!」
俺が言うと、彼はやれやれといった様子で「本当に気をつけてよ?」と念を押す。それから彼は、フィエズートたちに振り向いた。
「フィエズート、スキュクイドを頼む。結界は張るけど、俺は魔獣とその周りの魔物に集中するから、そっちにまで構えない。結界の強度は、魔獣がしばらくの間逃げないように抑えておく程度のものになると思う。周りの魔物たちは頼んだよ」
言われてフィエズートは「分かった」と答えて、スキュクイドは「仕切るなって言っただろ」と言うけど、どこか嬉しそうだ。
その間にも、魔獣の周りの魔物は増える一方。
あれだけの数の魔物を見るのは初めてで、微かに手が震えてた。武者震いってこういうものか。
「行こうぜヴァンケズ……俺たちの初仕事だ!!」
彼は頷いて、魔獣に向かって走っていく。
魔獣は、まだ空を見上げて吠えていた。吠える度に空気の揺れのようなものが起こり俺の体を押し返そうとする。これが魔力か? なんだか重苦しい。息ができなくなりそう。体を何かに強く押されているかのようだ。
ヴァンケズの背に強く掴まると、彼は背を低くして風を纏う。
すると俺の体が急に楽になった。ヴァンケズが魔法で守ってくれたんだ。
「ヴァンケズ……あ、ありがとう……」
「……周りに魔力が満ちている。人族のリューオにはつらいと思うから……ちゃんと掴まっててね」
彼はそう言って、正面から飛びかかってくる魔物を蹴散らす。
その背中に乗っていると、背後から風の音が聞こえた。振り向けば泥の塊のような魔物が俺たちに飛びかかってくる。
短剣を抜いて斬り払うと、魔物は一刀両断になったけど……
「うわっっ……!」
ヴァンケズの背から落ちそうになって、慌ててしがみついた。
魔物を倒しながら走る彼の背中はかなり揺れる。そんなところに乗って戦っていると、今にも振り落とされそうだ。
「わっ……あ、あぶねえっ……!」
「リューオっ……! これ握っててっ……!」
彼が叫ぶと同時に、彼の体に輝く紐が巻き付いて、手綱のようになっていく。それを握ると、揺れる彼の背の上でもかなり安定した。
「これなら行けそうだ!!」
片手で手綱を握り、飛びかかってくる魔物を切り裂く。俺や短剣にヴァンケズが魔法をかけてくれただけあって、魔物はあっさり消えていく。
それでも、地面から湧いてくる魔物の数は増えるばかりだ。それが四方からヴァンケズに向かってくる。
「てめえらっ……俺の狼に手ェ出してんじゃねーぞ!!」
飛びかかってくる魔物を切り裂いて進むと、魔獣はついに俺たちに気づいたらしい。俺たちの方にゆっくり振り向いた。そして一声吠えると激しい風を起こして攻撃してくる。手綱を握っていないと、吹き飛ばされてしまいそうだ。
風に耐えて走るヴァンケズが、魔獣の攻撃を避けて飛び上がり、その首元に食いつく。すると魔獣は吠え声すら上げずに倒れていく。
「ヴァンケズっ……!!」
俺が呼ぶと、彼の背中が微かに動いた。なんだか温かい。彼が食いついた魔獣の首元からキラキラ光る粒のようなものが吹き出して、それが少しあったかいんだ。
光が溢れるごとに、ヴァンケズに噛みつかれた獣の体は縮んでいき、魔獣はゆっくりと目を閉じて、その場に倒れてしまう。
「うわっ……!!」
食いついていた相手が急にいなくなり、ヴァンケズの体が大きく揺れる。
バランスを崩して落ちそうになった俺は、慌てて手綱を強く握った。
倒れた魔獣はもう子犬くらいの大きさしかない。
それに駆け寄ろうとすると、後ろからヴァンケズにパクッと服をくわえられて止められた。
「リューオ。危ないよ」
「なんでだよ? もうだいぶ小さいし、気絶してるみてーだぞ」
「魔力を奪って落ち着かせただけだ。回復したら襲ってくる。気絶しているうちに、縄張りに返さないと……」
「縄張りがどこか、分かるのか?」
「魔獣は縄張りを結界で守るから、強い魔力の結界を探せばいい……急ごう。それ、俺の背中に乗せとくね」
彼がそう言うと、彼の手綱からリボンが伸びて来て、小さくなった魔獣の体に巻きついていく。そして、彼の背中に魔獣の体をくくりつけた。
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