53 / 114
53.食べるか?
しおりを挟むそれから、その男のことは、ヴァンケズが魔法で作り出した竜でギルドまで送ってくれた。
やっと食事の時間だ。俺たちがとって来た食材に加えて、スキュクイドが持っていた米や肉もある。それをヴァンケズが調理して食事を作ってくれた。
「すっげーーーー!! おにぎりだ!! こっちの世界にもあるんだな!!」
焚き火に網を使って焼いたおにぎりは、香ばしくて涙が出そうなくらい美味い。串を刺して焼いた魚と肉とスープもあって、今日の飯は豪華だ!
スキュクイドも、俺の隣でおにぎりに夢中になっている。
「……こんなの……初めて食べた……美味しい……」
「こっちも食えよ! うまいぞ!」
俺が差し出した魚の串を、スキュクイドは受け取って咥えると、ぼそっと言った。
「……うまい…………」
「だろー?」
「……お前が釣ったわけじゃねーだろ……」
「んなこと言ったって、俺が釣っても全く釣れなかったんだ。だから俺は、このスープに入れるキノコを集めていたんだよ!」
俺が胸を張ると、俺の隣で食事をしていたフィエズートが、魚をかじりながら呆れたように言う。
「リューオに釣り竿渡したら、すぐに釣れないって言って騒ぎ出すから、うるさくて僕が取り上げたんだろ……」
「だって釣れねーんだから仕方ねーだろ!」
「リューオは短気すぎるよ。それじゃ釣れるはずがない」
「ぐっ……」
確かにそれは認めるが……
落ち込む俺に、フィエズートが微笑んだ。
「魚は……僕が釣る。あ、ありがとう……リューオ」
「あ? 何がだ?」
「僕の武器、だいぶ良くなったんだ。これがあれば、これまでよりは魔物と戦えそう」
「それならヴァンケズに言えよ。武器を直したのはあいつだろ?」
「リューオだって、ここまでついて来てくれたじゃないか。あ……ありがとう……」
彼は俺を見上げて、本当に安心したような顔で笑う。なんだか可愛く見えてきた。
そんな風に話していたら、ヴァンケズが俺らの間に入ってくる。ちょっと強引なくらいにそうしたヴァンケズは、俺に振り向いた。
「今……フィエズートに目を奪われてなかった?」
「はあ!?? な、何言ってんだよ!!」
「だって、フィエズートのこと、ずっと見てた」
「そ、それは、魚がうまそうだっただけだ!! 目を奪われたとか、そんなんじゃねーよ……」
こいつ……何言ってるんだよ……
確かにフィエズートは可愛らしいが、こいつは仲間だ。
それに俺は……さっきからお前のこと気になって仕方ねーんだけど……
そう言ったら、こいつはどうするんだろう……
困るのか?
だけどヴァンケズだって、俺に似たようなことをした。今朝、布団で襲われたこと、俺は忘れてないからな!
……あれは、どういう意味だったんだ……?
俺はリューオのものって、ヴァンケズはしょっちゅう言ってるけど、あれはどういう意味なんだ? 俺に恩があるって思ってて、それでそんなことを言っているだけなのか?
聞いてみたい……だけど……そんなの、なんて言って聞けばいいんだ!!
ヴァンケズをじっと見つめていたら、彼が俺の視線に気づいてしまったらしく、俺に振り向いた。そいつと目があって、なんだか気まずい。
「あっ…………た、食べるか? スープ……」
照れ隠しに差し出して、それは俺の食べかけだったことにすぐ気づいた。こんなの渡したら、間接キスじゃねーか!!
慌てて差し出したばかりのものを全部飲んで、新しい器にそいつの分をよそった。
熱いスープを一気に飲み干した俺に、ヴァンケズが心配そうに言う。
「リューオ……どうしたの? 熱くない……?」
「あ、熱くねーよ……こ、このくらい……………」
むしろヴァンケズが近づいてきて、こいつのことしか考えらんねー……
それでも強がる俺から、ヴァンケズはスープを受け取ってくれた。そして、小さな声でつぶやく。
「俺は……リューオの食べかけがよかったのに…………」
だからそれはどう言う意味だっ……! なんでそういうこと言うの!? こいつっ……!
84
お気に入りに追加
396
あなたにおすすめの小説
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる