【完結】異世界でも変わらずクズだった俺だが気にしない！ クズは生きてちゃダメ？ 追放？ だから出て行ったのになんで執着されてんの俺！

47.あいつ、すげーな！

　絡んできた男は、フィエズートに向かって魔法を放つ。するとフィエズートは突然、何かに縛られたように倒れてしまう。

「いった……」
「フィエズート！？」

　駆け寄ったら、フィエズートの体には、光る縄のようなものが巻き付いていた。それが邪魔で立てないのか、彼はずっと地面でもがいている。

「フィエズートっ……！？　しっかりしろ！」
「……僕は大丈夫……魔力で縄を切るから……離れててほしい」

　フィエズートはそう言うけど、かなり苦しそうだ。それでも、魔法を使ってその縄を切ろうと足掻いている。

「邪魔だって言っただろ？」

　そんなことを言いながら、フィエズートを縛った男が近づいてくる。
　気づけば、俺は拳を握り締め、その男に殴りかかっていた。

　魔物と戦うなら、武器があった方がいい。だけど、武器は買えなかったし、「この短剣があればなんとかなるだろ」なんて軽く言った俺に、ヴァンケズは「さすがにそれだと心配かな」と言って、短剣の強化の魔法に加えて、さらに俺の体を強化する魔法をかけてくれた。これで、短剣を抜かなくても、体が強化されるらしい。

　そのおかげで、体が軽い。

　トマティーオが俺に向かって魔法の光の弾を放つが、そんなもんが俺に当たるかよ！！
　強化した俺の体なら、相手の攻撃を避けることくらい、難なくできる。

　相手は、まさか俺が魔法の弾が飛んでくる方に向かって走ってくるなんて、思わなかったのだろう。驚くそいつに、一瞬の隙が生まれる。
　俺は、一気に間合いを詰めて、構えた拳でその横っ面を殴り飛ばした。

　だが、殴ったような感触がない。まるで、そこにいないかのようだ。
　多分、防御の魔法を使ったんだろう。トマティーオは、光を纏いながら俺から飛び退いていた。

「ちっ……馬鹿力が！」
「誰が馬鹿だっ……！」

　再び飛びかかろうとすると、フィエズートが俺を呼ぶ声がした。それと同時に、フィエズートが放った魔法の風が、トマティーオの纏う光を吹き飛ばす。

　自分の体を守っていた光が消えて、トマティーオは焦っているようだったが、もう遅い。俺の拳が、そいつを殴り飛ばした。するとそいつは吹っ飛んで、遥か遠くにある木に激突して、倒れてしまう。

「え………………？」

　なんだ？　今の……

　思いっきり殴ったつもりだった。だけど、ちょっと力が入りすぎてねえか？　いくらなんでも、あんなに飛ばねえだろ！！

　つい、両手を見下ろしてしまう。ちゃんと俺の手だ。

　一体、どうなってるんだ……？

　驚く俺に、フィエズートが駆け寄ってくる。

「り、リューオ！」
「フィエズート！！　もう大丈夫なのか！？」
「う、うん……それより、なに！？？　今のっ……！　どうやったの？」
「お、俺に聞かれても……知らねーよ……あ！　もしかして、これか？」

　俺は、今朝買った短剣を見下ろした。

「これ……そんなにすごい魔法がかかってるのか？」
「そんなに強力な魔法がかかってたら、あんな値段で買えないよ……王家の魔法使いの部隊が持ってる武器のレベルだよ。それ……」
「じゃあヴァンケズの魔法か？　あいつ、すげーな」
「すげーな、で済まさないでよ！！　ヴァンケズって、魔力戻ってないんじゃなかったの！？　こんな魔法が使えるなんて……」
「回復の薬草のおかげでだいぶ回復したって言ってたぞ」
「それだけでここまで回復するわけないだろ！　体力回復してから自力で封印を解いたとしか思えない……」
「ちょっと回復したら封印はなんとかできるって言ってたぞ」
「なんでもないことみたいに言わないでくれる！！？！　そんなの、普通できないからね！？」
「そーなのか？　じゃあ戻ったら礼言っておかないとな！！」
「リューオ……もっとちゃんと考えてよ……」
「考えたぞ？　今日はあいつにキノコいっぱいやる！」
「…………」

　フィエズートは少し黙っていたけど、諦めたみたいだ。遥か遠くの木の下で気絶したままの男を指差して言った。

「あれ……どうする？」
「……あのまま放っておいたら、魔物にやられたりするか？」
「多分……完全に気絶してるし……」
「だったら起こしてから食材取って買えるぞ！」
「大丈夫？　襲ってこないかな……」
「大丈夫だって！　そしたら俺がまた気絶させてやる！」
「……頼りにしてる」