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46.戦えないから
しおりを挟むスキュクイドは最後まで、一旦休憩することに反対していたけど、回復せずに先に進んでも、途中で魔物に足止めされることは、目に見えている。
俺たちは、ヴァンケズが張ってくれた結界の中で焚き火をして、お昼のための食材と、スキュクイドを回復させるための薬草を探すことにした。
依頼人で傷を負ったスキュクイドを一人にしておくわけにはいかないので、ヴァンケズがあいつの護衛をして、フィエズートと俺は飯と薬草を探すために草原を歩いた。
フィエズートは、武器が壊れるまでは冒険者として依頼をこなしていただけあって、薬草や食材を集めることが得意みたいだ。おかげで、それらを集めるのに、苦労はしなかった。
「すっげー! こんなに集まるなんて、思わなかったぞ!」
カゴに大量に入ったキノコやら野草やら果物やらを眺めながら俺が言うと、川で魚を釣っていたフィエズートが、俺に振り向いた。
「この辺りは、そういうキノコとかが育ちやすいんだよ……だけど、毒を持っていたり凶暴だったりするものもあるから、気をつけて……」
「分かってるって! 前にヴァンケズと草原を歩いた時も、しょっちゅう毒草に追いかけられたからな……」
「……よく生きてたね……すごいよ」
「そうか? 思ってたより楽しかったぞ!」
「楽しかったって……どうかしてるよ……僕は魔物が出ても、あんまり戦えないから……僕を戦力として考えないでね…………僕、武器がなくなってから、全然魔物に勝てないんだ……」
「さっきお前も魔物と戦ってくれただろーが」
「僕は何もしてない。やったのはリューオだろ? リューオだって、魔物と戦うための武器、ちゃんと買えなかったんだし……魔法も使えないんだ。無理しないで……」
「心配すんなっ!! 戦い方なら、ヴァンケズに教えてもらったからな!!」
「…………ますます心配になってきた……魔物は強力なものもいるんだから。ちゃんと警戒してね」
呆れたように言いながら、フィエズートは、釣り糸が垂れる方に振り返る。
「…………武器……直してくれたら、お礼……じゃないけど、力を貸すよ……」
「本当かっっ!? じゃあ、これからパーティだな!!」
「は!? パーティ?」
「冒険者のパーティだよ!! 受付でも聞かれたじゃないか!! 三人でパーティかって!」
「聞かれたけど……そんなのになった覚えないよ。だいたい、まだ武器直ってないだろっ…………うわっ! 釣れた!」
フィエズートは、釣り竿を強く引く。釣り竿は大きくしなって、川の水が飛沫を上げていた。
「すげっ……大物じゃねーか!?」
「り、リューオ……て、手伝って…………」
言われて、フィエズートの釣り竿を、俺も慌てて握る。大きな魚が釣れれば、今日は巨大焼き魚だ!
けれど、もう少しで釣れるってところで、川から何か飛び出してきた。さっきのよりずっと大きな、泥の塊の形の姿をした魔物だ。なんでこんな時に出るんだよ!
つい、魔物か魚かで迷ってしまった。
反応が遅れた俺らに、魔物が迫ってくる。
くそっ……俺の焼き魚を台無しにしやがって! 殴って倒してまた魚釣る!!
「フィエズート! 魔物は俺がやる! お前は釣り竿離すなよ!!」
「ええ!?? ひ、一人で大丈夫!?」
フィエズートが焦って言うが、俺には魚の方が大事だ!!
けれど、俺らの釣り竿は、横から飛んできた魔法の光の弾に撃たれ、途中で折れてしまう。魔物もその魔法の弾に貫かれて消えて行くが、俺はそれどころじゃない。
折れた釣り竿は川の中へ沈んでいき、当然魚も逃げていった。
「嘘だろ……」
俺の焼き魚が……ますます腹が減ってきた。
俺は、弾が飛んで来た方に振り向いた。
そこには、さっきギルドで俺らに絡んで来た男が立っている。確か、受付の男がトマティーオって呼んでいたはずだ。
「邪魔。丸腰冒険者」
「あ? わざわざその丸腰に、喧嘩売りに来てくれたのか?」
なんなんだ、こいつ。わざわざ出てきて俺の飯を台無しにするとは、いい度胸だ!
早速そいつに迫って行く俺を、フィエズートが慌てて止める。
「ち、ちょっ……リューオ! やめてよっ……」
「先に喧嘩売ったのはあいつだろーが!!」
「で、でも……僕らが魔物に襲われそうになってたのも事実だし……」
「それはありがとうございました!」
トマティーオに向かって頭を下げる。襲いかかってきた魔物を倒してくれたことには礼を言うが、それとこれとは話が別だ!
「魔物を倒してくれたことには礼を言うが、釣り竿とギルドの件は許さねえ!!! 後、魚のことも!」
俺が怒鳴ると、そいつは鬱陶しそうに言った。
「うるさいなー……そんなところにいると邪魔なんだよ」
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