45 / 114
45.勘違いしないで
しおりを挟む「なんでって言われても……ずっと魔物と戦ってたって、話しただろ?」
俺が言っても、スキュクイドは驚いたような表情を浮かべるばかりだ。
「……そんなのっ……悪い冗談かと思ってた……ほ、本当だったのか……?」
「こんな嘘つかねーよ。それより、怪我はないか?」
「……別に…………ない……」
ぶっきらぼうに言って、スキュクイドは立ち上がり、俺たちから離れて行く。
そしてすぐに立ち止まると、振り向かずに小さな声で「……助かった」と言った。
俺はすぐに、そいつに駆け寄った。
「待てよ!! また魔物が出るかもしれないだろ!?」
「…………出ても一人でなんとかする」
「それなら俺たちに依頼した意味がないだろーが!! 待てって!!」
先に行ってしまおうとするスキュクイドに追いついて、俺はそいつの隣を歩き始めた。
「せっかくだから、一緒に行くぞ!」
「……しつこい奴だな……」
「お前、俺たちのことばっかり聞いてるけど、お前は? 魔物とは、戦い慣れてるのか?」
「……少しは……戦えないことはない……」
そう言って、そいつは俯いている。その隙に、俺はそいつに飛びかかった。
「うわっ……何すんだ!!」
そいつは驚いて、その場に倒れてしまう。「何すんだ!」と言って、俺を押しのけようとするけれど、その動きはさっきよりずっと鈍い。
「……お前、やっぱりどこか怪我してるのか?」
「るせえ!! これは、今やられた傷じゃねえよっ……!! 構うな!」
「今じゃなきゃいつだよ!! これから魔物に会いに行くんだっ……回復してから行くぞ!」
「必要ねえ!! お前らなんかに同情されたくねーよ!!」
「同情じゃねーよっっ!! お前、依頼人だろ!? だったら俺らの言うこと聞けよ!!」
「なんでそうなるんだよ!!」
スキュクイドは怒鳴って暴れているが、体に力が入らないのか、簡単に取り押さえることができた。
フィエズートが慌てて俺に駆け寄ってくる。
「り、リューオ! 何してるんだよ! 依頼人に乱暴しないで!」
「こいつが暴れなかったら何にもしねーよ! 回復してから出発するって言ってるだけだろ!」
喚きあう俺たちの間に、ヴァンケズが入ってくる。
「リューオ。落ち着いて。彼の傷なら、回復の薬か魔法で治ると思う。そろそろお昼だし、その辺で昼食にしよう」
「飯か!! そうだな!! そうしよう!!」
俺はすぐに賛成したけれど、スキュクイドはその隙に俺を振り払う。
「ふざけんなっ……魔物の素材が先だ!! 依頼人の俺が言ってるんだぞ!」
けれど、ヴァンケズはすぐに首を横に振った。
「回復が先。言うことが聞けないなら、俺たちは降りる」
「はあ!? なんだよそれ!!」
「俺たちの方には、依頼人の命を守る義務がある。危険な状態のまま出発することはできない」
「…………それじゃ困るんだよ……俺は回復の魔法なんか使えないし、回復の薬の代金も払えない。そもそもこれは、今の魔物にやられたんじゃない。お前らに俺を回復させる義務なんかねーだろ! それでも回復が先か?」
「先だよ」
間髪を入れずにヴァンケズが答えると、スキュクイドは目を丸くする。
「…………は? か、回復の薬を返すこともできないぞ!」
「最初からそんなものを請求するつもりなんてない。すぐに回復するよ」
「…………」
答えないスキュクイドを置いて、ヴァンケズは俺たちの周りに結界を張る。そしてすぐに、スキュクイドに振り向いた。
「それと、リューオに心配してもらったからって、勘違いしないように。リューオは、誰のことも心配するんだから。お前だけが特別ってわけじゃないんだからね」
103
お気に入りに追加
396
あなたにおすすめの小説
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる