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36.嫌と言うほど
しおりを挟むそれからみんなで風呂に入ったけど、その時のヴァンケズはいつものあいつだった。それなのに、ずっと俺はあいつを意識してしまって、少しのぼせそうになったくらいだ。
「大丈夫?」って聞いてくれたヴァンケズに手を引かれて、風呂から上がった俺は、フィエズートとディゲーアを連れて、部屋に戻ってきた。
早速布団に横になると、すげー気持ちいい。
だけど、座卓のそばに座るディゲーアは、ずっと俯いたままだ。もしかして、ほとんど無理矢理連れてきたのがまずかったのか?
「……ディゲーア……お前、なんか顔色悪くねえ?」
「そんなことはない……ただ、ヴァンケズの魔力が思っていたより戻っていて、驚いただけだ」
「魔力? そうなのか?」
俺にお茶を入れてくれているヴァンケズに振り向くと、彼は「少しは戻ったよ?」と言ってくれた。
「だんだん体力も回復してきているし、素材を売ったお金で、魔力を回復する薬も買えたし。リューオのおかげだよ」
「ば、馬鹿……や、やめろよ…………よかったな…………」
ヴァンケズの魔力……ちゃんと回復してたんだ……
それを聞いて、ホッとした。こいつが魔力封じられたの、俺を庇ったせいだからな……あのクソ国王……ぜってぇ許さねー……
あいつのことを思い出して苛立つ俺に、ヴァンケズは微笑んだ。
「俺はリューオに感謝してる。魔力がある程度回復したら、封印を解くこともできる。そしたら、リューオにも魔法が使えるようになるように、絶対に協力するから」
「…………そんなに急がなくていいよ……今はそんなに困ってないし……あ……でも、明日冒険者ギルド行く前に、武器屋行かねーとな…………」
武器は絶対必要。だけど、今はそれより、なんとなくヴァンケズの顔ばかり見ていた。
ヴァンケズはいつも、俺が魔法を使えるようにすることが目的って言う。
だけど、もし……その目的を達成したら? 俺が魔法使えるようになって、異世界の案内がなくても俺がここで普通に生きていけるようになったら、ヴァンケズはどうするんだ?
あの草原を歩いていた時から……ヴァンケズとは、ずっと一緒にいるんだって思ってた。つーか、今だってそう思ってるけど……
「ヴァンケズ……」
「なに?」
振り向いたそいつは、いつもみたいに俺のためにお茶を入れてくれている。俺の世話をこんなに焼きたがる奴、これまでいなかった。俺はかなり馬鹿だって自覚してるし、これだけ馬鹿なことばっかりやる俺に、ここまでついてくるやつ、初めてかもしれない。
「……明日は……武器屋と冒険者ギルド行くぞ…………」
「うん。それはさっき聞いたよ?」
「……そうじゃ……なくて……」
「リューオ?」
キョトンとするそいつの顔を見て、やっと分かった。俺、怖いんだ。こいつが離れて行くのが。ヴァンケズは俺とずっと一緒にいるって言ってくれて、俺だってそれを疑ってなんかないのに。
「そうじゃなくて……一緒に行くんだ! 俺とお前! ……もう……勝手にいなくなるんじゃねーぞ…………」
「……うん。もちろん」
布団の上で拗ねながら言う俺を見下ろしながら、ヴァンケズがいつもみたいに笑う。そうやって笑う時のヴァンケズは、懐いてくる忠犬みたいだ。草原にいる時は、俺と一緒に来てくれる番犬みたいだったのに……
「わ、分かってるならいいんだよ…………」
「俺が分かってないと思ってた?」
「はっ……!? い、いや……別に、そういうわけじゃねーよ…………」
「じゃあ……なに? 俺がどこか行っちゃうと思った?」
「はっ……!? ち、ちがっ……!! ……わ、わりーかよっっ!! お、お前さっき、急にいなくなったからっ……!! ま、またいなくなるような気がしてっ…………迷子にでもなるんじゃないかって思ったんだよ!!」
「……俺はリューオといるよ。ずっと」
「…………」
ヴァンケズが立ち上がって俺を見下ろすと、今度はやけに緊張した。相手はヴァンケズで、ずっと一緒にいた奴なのに。
「俺は勝手にどっか行ったりしないよ。俺のことは、リューオの好きにしていい。リューオのしたいようにしていいんだよ?」
「す、好きにって…………」
そんなこと言われても……好きにってなんだよ……訳わかんねえ…………
気づいたら、そいつの乱れた衿の方に、俺の視線が移っていた。
何見てんだ俺は!!
「ばっ……馬鹿なこと言ってんじゃねーよ!!」
「えー。なんで怒ってるの? 俺のことは、リューオの好きに使っていいよって言っただけなのにー」
「……バカ……そういうのはいいんだよっ……」
戸惑う俺に、そいつはいつもと同じようにニコニコ笑って、ディゲーアに振り向いた。
「さっきだって、俺は絶対に帰らないって言ってただけだよ? 俺はもう、リューオのものだし、あの国王にくれてやるものなんか、もう何もない」
それを聞いて、ディゲーアはため息をつく。
「…………それは、分かっている……いや、もう、嫌というほど分かった…………」
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